第35話 探索
「あれ?あんた誰?」
「…え…あの…」
その生徒を目の前にして東條は身動きが取れずに、その質問に対して言葉を上手く返せずにいた。そして、その生徒は生徒会室の辺りを見渡し、俺と目が合った。
「生徒会長は?」
「…今はいないですよ」
「あーそうなんだ。それよりあんたも誰?生徒会にいたっけ?」
「いや、仮で生徒会ではないですよ…」
「は?なにそれ?…それよりここ、頼みごと聞いてくれるんだろ?いいか?」
ここは頼みごとを聞く場所ではない。勝手な解釈すんな。
どうあれ、今ここにいるこの二人では上手く対処できる自信がまるでなかった。会長を待つ方がいいだろう。
「会長が戻ってくるのを待った方がいいと思いますけど」
「大したことじゃねえよ。俺の大切にしてたネックレスが消えたんだよ。多分学校で無くしたと思うんだよなぁ…そんでさー、探すの手伝ってくんね?」
本当に大したことじゃなかった。ここは便利屋じゃないんだよ、手伝う義理なんてない。…前までの会長なら迷わず手伝うんだろうな…。
「なぁ、いいだろ?」
「闇雲に探しても見つかるとは思わないですが、どこに無くしたか見当はあるんじゃないですか」
「いつ無くしたかわからねえんだよ、気付いた時には無くなってたんだ」
なんだそれ…本当に大切なものなのかそれ。
「落とし物届けとかにはなかったんですか」
「教師とかにも聞いてみたがそこにはないってよ。…なぁ、探すの手伝ってくれよ」
「…無理です、こっちもやることあるんです」
やることなんてないがな。困っていることがあったらすぐ誰かに頼ろうとするその精神はなんとかするべきだ。
「冷たいなぁこの人、ねえ、君もそう思わない?」
その生徒はその場に固まって立ち尽くしていた東條に話しかける。
「えっと…それは…」
話を振られて東條は下を向いてとても困っている様子だ。
その男は前屈みになり、東條の顔のところまで目線を落として顔をじっくりと見ていた。
「君一年?こんな子いたっけ?かわいいねえ。名前なんて言うの?」
東條は依然、困った様子で下を俯いていた。
「人が話している時は目を見てくれない?常識だよ、それ」
それが、常識であろうと誰もがしなくてはいけないことではないんだよ。そのことを無理に教養なんてするのは間違ってる。
「なーまーえ、教えてよ」
「…と…東條…」
「え?何?聞こえないよ、もっとでかい声出してよ」
この光景、昨日の霧島に絡まれた俺に似ている。別に、悪意がなかろうとこういったことをしてくる人間は好きではない。
何故だかこの光景にイラっとした。誰が誰に絡まれてようがなんとも思わない。ただ、何故かこの東條を見ていると自分を見ているようでなんだか見ていられなくなる。
この男、上級生でもあり、ガラも悪くて強気に何か言ったのならば反抗される可能性がある。純粋に言って怖い。
だが、この状況を変えてあげたいという気持ちが勝っていた。
「早く探した方がいいんじゃないですか、盗まれるかもしれませんよ」
「俺は今この子と話してるんだ、入ってくんなよ。…こいつどう思う?嫌な性格してるよねえ」
その生徒は東條へ聞いていたが黙ったままだった。
否定はしないが、お前に言われたくない。
「君、暇なら一緒に探しにきてよ。見つかったらお礼してあげるからさ」
「私は…その…」
普段ならここで、俺は助け舟を出す真似なんかしない。自分の力で切り抜けろと思う。だが、この東條に対しては何故だか、そんなただ傍観するようなことができなかった。
俺は溜息をついてから、立ち上がってその依頼者のいるところまで行って東條の右側に立った。
「…探しに行きましょう。俺も行きますから」
ここはもう話を変える他ない。変に止めようとするのも東條を傷つけることになりそうだ。こいつのネックレスを探すのなんて労力の無駄遣いすぎる。でも、切り抜けるならこの手しかない。
「え?お、おう、わかりゃいいんだよ。じゃあな、行ってこい」
「…いや、あなたも一緒に来てくださいよ。どの辺にありそうかくらい教えてもらわなければ探しようがないです」
「チッ、しゃーない。…君も来てよ」
その生徒は東條の方を見ている。
「駄目です、生徒会室は一人は残っていないといけない」
今、俺が勝手に作ったルールだがな。
「あぁ?いいだろ別によ」
「駄目ですから」
「…わかったよ。…また、会いにくるからね」
もう一度東條へ目線を合わせてそんなことを言った。
また会いにくる?探した後でまた戻ってくるとでも言うのか?
「つってもどこ探すんだよ」
「教室とかじゃないんですかね、何組ですか」
「三組だが、ねえと思うがな…行くか」
「…先に行っててくれませんか」
「おう、早く来いよ」
そう言ってからその生徒は、先にその場所へと向かっていった。
「そういうことだから、ちょっと行ってくるよ」
東條はその場で立ったままでこちらを向いてきた。そして、俺はドアの外を出ようとすると、東條はささっと左へ避けた。そして、生徒会室を出て、ドアを閉めようとする時に俺は言い残した。
「その要望の依頼、今やりに行きたいって言うのなら行ってもいいよ。それか、今はここに残ってくれても構わない。時期に会長も戻ってくるだろうから。…それとも、帰りたかったら別にいいと思う、会長はそんなことでは怒らないと思うから…それじゃ」
東條の方へは視線を向けず、また、東條の方もこちらを見ることなく、そんなことを言い残してから俺はドアを閉めようとしたその時。
「…せ、先輩…」
その、東條の小さいが可愛らしい声が聞こえた。そして、ドアを半分ほど閉めるている途中で止めた。
「…あ、ありがとうございました…」
東條は下を向いて小さな声でお礼を言った。
「別に…礼を言われるようなことしてないよ…」
そう言ってからドアを閉めた。
まだ、あの男から東條への興味を逸らせたわけでもない。また突っかかってくる可能性もある。だからまだ、礼なんて言われたくもない。それに、俺はどうも感謝されることは苦手らしい。どう反応していいのかわからなくなる。
〜〜〜〜〜
俺は三年三組の教室まで着いた。
そのクラスを覗いてみると、先にその依頼者の男が着いていた。そして、他の見知らぬ三年の男子二人と駄弁っていた。
一人は制服の男子でもう一人は体操服の男子だった。何かの部活の途中か?こんなとこで話してる場合じゃないだろう。
後方の開いていたドアの前からそちらの様子を見ていたら、前の教壇付近にいた依頼者の生徒はこちらに気がついた。
「お前おせーよ、来ないのかと思ったぞ。先に一人で探してたんだぜ」
いや、絶対探してないだろこいつ。
「誰、あれ」
制服を着た方の男子は俺について聞いてきた。
「生徒会の奴で、探し物させてんだよ」
…全く、要らぬ時間を使わさせる。
その二人は深く聞こうともせず、また駄弁り出した。
そして、俺は探し始めた。
床、それから教室の隙間という隙間を探した。
しかし、一向に見つからない。なんであれ、注意をそらせていることはいいことだ。こいつには東條のことを忘れてほしい、そしてもう生徒会室には来ないでほしい。
それからも俺は探していたそんな途中で、なんで俺はこんなことをしているのだとアホらしくなってくる。
依頼をした生徒も、探す気配を見せずにその二人の生徒と話していた。
無駄にでかい声で話が聞こえてくる。聞きたいとも思わないのに耳に入ってくる。俺は探す素振りをしながらいたら、会話の中でその生徒がやっと本題である話を聞いていた。
「そうだそうだ、俺のネックレスだよ。知らないか?どこにあるか」
友達であろうその二人に話を持ちかけた。教室後方にいた俺はそちらの方へと視線を向けた。
「え?知らねえけど」
制服の生徒はそう言う。
「…え?し、知らねえよ…」
依頼者から目線を向けられた体操服の男は顔の向きを変え、キョドりながらそう言った。どう見ても今のは何か知っている感じだぞ。
「知らないか…」
いやいや、どう考えても知っているようではなかったか。なぜ気が付かない。
「今教室の中調べさせてんだがよ、まだ見つからねえっぽいんだわ」
「こ、ここにはないんじゃね?自分の家ん中探せば見つかるんじゃねえの」
その体操服の生徒は動作が変に激しくなりながら焦っている感じでそんなことを言った。
「家も探したんだがなぁ」
「今、散々教室探してたけどなかったんだろ?きっとそうだ」
「…おう、そうかもな」
「…じゃ、俺そろそろ部活に戻るから」
そう言ってから、体操服の生徒はそそくさと教室を出て行った。その後、もう一人の生徒もその場から去っていった。
どう考えてもあの体操服の男は挙動がおかしかった。依頼者の生徒はなんらおかしいとも思ってない様子だ。こういったものは付き合いが長い方が分かりそうな気がするするのだが、ただ単にあいつが疑おうとしないバカで、俺が人を疑うことしかできないからなのだろうか…。
そしてその二人が離れた後、依頼者の生徒は俺の方へと向かって来た。
「おう、見つかったか?」
「いいえ…」
「ったく、使えねえな」
「でも、見当がついたところがあります」
そう、一つだけ見当がついた。確信はない、それに見つかるまで付き合う必要もあるのかと考えてしまう。…それでも、見つけないとまたこいつは生徒会まで来るかもしれないので、探さないわけにもいかないか。
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