第24話 復帰

 その日の授業が終わり、放課後となる。

 俺は教室を出て、階段の前まで廊下を歩いた。そして、上りと下りの階段がある。上れば生徒会、下れば帰宅。

 あんなことがあった手前なのだが、今でも凄く逃げたい、帰りたい。面倒ごととは常に関わらないようにしてきた。逃げて、逃げて…。


 俺はそんなことを考えながら階段の前で立ち尽くしていた。


 「何突っ立ってるの?」


 突然後ろから話しかけられた。

 その、話しかけてきた方を振り向くと、そこには秋山がいたのだ。


 「いつも一目散に帰るのに珍しいね」

 「いや、別に…」

 「もしかして…また生徒会に来るか迷ってたりする?」

 

 一発で勘付かれてしまった。まぁ、俺が向かおうとする場所なんてそこぐらいしか見当がつかないのだろうが。

 俺は、その問いに何も返せずにいた。


 「あ、あれ?もしかして本当にそうだった?」


 適当に言ったのかは知らないが、何か意外そうな顔をしていた。


 「そうだ…って言ったらどう思う?」

 「どう…って、私は全然大歓迎だよ。戻ってきなよ」


 秋山は優しい笑顔を向けていた。その笑顔を見てなんだか心が痛み、俺は顔を背けてしまった。

 失望させてもまだ、こんなことを言ってくれるのか…なんだか申し訳ないな。

 秋山はいつか言っていたな、俺は生徒会に入るとかそんなキャラじゃないと。それが今でも少し引っかかっていた。


 「俺はそんなキャラじゃない…秋山も言っていただろ」

 「あーっ…そんなことも言ったかも。…確かにそうだけど、それを無理矢理固定させる必要なんてないと思うの。キャラ変えていってもいいじゃん?どういう心境の変化があったのか知らないけど、現に勇綺は階段を上るか下りるかで迷っていた。以前なら迷わず帰っていたでしょう?この時点で勇綺は変わってるんだと思うよ」

 

 確かに、それはその通りだ。以前までの俺ならすぐにでも帰っていたはずなんだ。


 「また来たいって思ってるならさ…来なよ、みんな戻ってくるのを待っているよ。…私もね…勇綺のこともう生徒会の仲間だと思ってるからね」


 秋山は少し照れながらにそう言った。

 そうやって、待ち構えられている状況も苦手なのだがな。

 …仲間か。秋山からもそう言われた。ただ一緒にいるだけの存在、それが果たして仲間なんて言えるのだろうか。それでも、俺はその言葉に今は悪い気はしない。

 だが、俺はそんなことを言われてもなお、足がすくんで動けずにいた。


 「後一歩が足りないのかな…それだったら」


 そんな俺を見兼ねていたのか秋山は俺の前に来て、俺の右の手首を秋山の左手で掴まれた。


 「よし、来て!」


 強引に引っ張られ、階段を上らせようとする。

 これをされるのは二度目だ。

 意外と、こうやって強引にされるだけで拒むことができなくなる。それぐらい自分の意思も弱いのだ。ただ、この状況はなんだか嫌だ。

 階段を少し上ってから、俺は掴まれたその腕を軽く振り解いた。秋山は足を止めて俺の方を振り向いた。


 「大丈夫だから…自分で行くから」

 「…そっか」 

 

 秋山は朗らかな顔をしながら階段を上っていく。そしてそれについて行くように俺も上って行った。


 秋山と一緒に生徒会室の前まで着いた。

 そして、秋山はドアを開いた。


 「こんにちは〜!」


 秋山の挨拶と共に二人で生徒会室へ入る。

 中にはすでに会長と神崎、そして東條のいつもの三人が自分の席に着席していた。

 

 俺の姿を見るなり、会長は立ち上がっていた。そして、ものすごく嬉しそうな笑顔を見せていた。


 「影井君…!来てくれたのね…」


 ドアを閉め、少し前に出る。なんだか会長の顔を真っ直ぐに見ることができなかったので、少し目線は落としていた。


 「…その、数日間勝手に休んだりして、すいませんでした」

 「そんな…私がいけなかったの…自分のことしか考えていなかったから…」


 そんなことはない、俺が勝手に会長のことを解釈の違いをしていただけだ。


 「それで…今日からまた復帰しても…いいですか」


 そう自分で発言したが、俺は一体何を言っているのだろうと同時に思ってしまった。

 そもそも入りたくもない生徒会なんかに入れられ、それで一度離れたからまた復帰したいって…これじゃあ俺が進んでここの仲間に入れて欲しいって言ってるようなものじゃないか。

 

 …いや、違う。その通りなんだ。別にここまで来なくてもどうにかなっただろ。行く必要なんてなかったはずだ。それでも、自分の意思でここへ来てしまったんだ。

 本当に俺は変わってしまったのか。それも全部、この会長の影響なのだろうか…。


 「もちろんだよ…!こちらの方こそよろしくね」

 「いっそ、もう仮なんて取って本当に生徒会に入ればいいさ」


 神崎がふざけたことを抜かす。ただ、この疎外感、それはこの仮ということが故なのかもしれない。しかし、本当の生徒会になる意気込みなんてまだなかった。

 

 「そこはまだ仮ってことにしておいてくれないか」

 「…まぁいいさ、いつか心を変えて本気になってくれることを願うよ」

 「二人とも、そこに立っていないで座りましょう」

 「はーい!」


 秋山は会長の言うまま席に座り、俺も自分の席に座る。

 

 そして席に座ると、俺の前には東條と久しぶりに顔を合わせることになった。


 「せ、先輩…お久しぶりです…」

 「…ああ、ご無沙汰…」 

 

 律儀に向こうから挨拶してきた。

 秋山はいい、そして会長、それから神崎はもうなんとなく慣れた。自分のこともわかってくれているような存在だ。しかし、この子はまだよくわからない。

 話しかけてくるようなこともなければ、俺からも話しかけない。まあ、俺は誰に対してもそうなのだが…。


 「それでは、今日の活動報告をします」


 いつものように10分程度の報告が始まる。俺は変わらず、特に真剣に聞くこともなく報告は終わる。


 「以上です、皆さんお疲れ様でした」


 

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