第14話 活動終了

 それからは生徒会のこれからするべきこと、部活などの予算のこと、今後の学校行事や今日あった出来事なんかを話していた。

 俺はそれを自分には特に関係のないことだと思い聞き流していた。

 そして、10分程度が経った。


 「それでは今日の活動報告は以上とします。皆さん、お疲れ様でした」

 「お疲れ様でした」


 会長の挨拶と共に生徒会の一同も挨拶した。

 どうやら報告はもう終わったらしい。


 「それではお疲れ様でした会長、部活に行ってきます」

 「ええ、部活頑張ってきてね」


 神崎はそう言って席を立ち、真っ先に生徒会室から出て行った。サッカー部へと行ったのだろう、忙しい奴だな。

 そして前に座る東條も立ち上がる。


 「…お、お疲れ様でした…会長」

 「はい、お疲れ様。また明日ね」


 東條は小さく頷いた。


 「…お疲れ様です…秋山先輩。それから…影井先輩も…」

 「おつかれー」


 東條は俺に対しても小さな声で挨拶をした、それに秋山と同時に挨拶を返した。


 彼女はもう帰るのだろうか、それとも何か部活動に入っているのか。


 「それじゃあ私も部活行ってきます。お疲れ様でした、会長。勇綺ももう帰ってもいいよ」


 秋山は立ち上がり、そう言った。

 やっと帰れるのか、正直本当に俺が来る意味があったのかわからない。


 俺も立ち上がり、秋山と共に生徒会室から出ようとした時。


 「———影井君…!」

 

 会長に名前を呼ばれた、そして後ろを振り向いた。

 

 「私、影井君がここに来てくれたこと、とても嬉しかったの…ありがとう。それで…明日も、来てくれるのかな?」


 正直、ここが俺の居ていい居場所だとはとても思えなかった。どこの集団にいようがいつだって疎外感がある。ここもそうだ、馴染める気がしない。馴染もうとも思わない。たかだか10分程度の付き合いだったとしても、俺は二つ返事で「はい」とは言えなかった。


 「…はいはい!もちろんです!絶対来させます、安心してください」


 秋山は俺が何も答えないことを見限ってかそう答えた。

 絶対来させるだなんて…好き勝手なことを言うなよ。


 「…あの、無理しなくてもいいからね。迷惑ならそうはっきり言ってくれた方がいいな」

 

 俺には何か特質したものがあるわけでもない。平坦…いや、それ以下の人間だ。誰かに必要とされることなんて今まであった記憶がない。

 それでも、俺がいるというそれだけのことで誰かが喜んでくれるなら、まぁ…悪い気もしない…か。


 「明日も…来ますよ」


 俺は会長の方に視線は合わせずにそう答えた。 

 そして、会長に視線を向けて顔を見ると、とても嬉しそうな笑顔を見せていた。


 「よかった…。それじゃあ、また、明日ね」

 「はーい、お疲れ様です」


 そして、秋山と共に生徒会室を後にしてドアを閉めた。



 「…ありがとね、来てくれて。ちょっと無理言っちゃったことはごめん、謝るよ」


 ドアを閉めるなり、秋山は俺の方を向いてそんなことを言った。秋山もあれで少しは反省してたようだ。

 

 「でもさ、勇綺変わったと思うよ。いつもなら強引にしても絶対に来ようなんてしなかったからさ…」


 多分、そうだったんだろうと思う。


 「それってさ…やっぱり、会長の影響なのかなって」


 …影響された、なんて正直思いたくない。 


 「やっぱりすごいんだな…会長って。人を惹きつけるような不思議な力を持っているんだと思う」


 不思議な力か…。俺は無意識にもそれを受けているのかもしれないな。


 「勇綺、最近なんだか顔付きも変わったというか…どこか雰囲気も変わったように思うよ。少しだけど穏やかな表情になって、少し前までよりは話しかけやすくなったよ。最近じゃあんまり向き合ってこなかったけどさ、かっこいい顔してるよ」


 秋山はそんなことを言い出した。

 すると、すぐに今発言したことを恥じていたのか顔を赤くしていた。


 「違うから!変な意味で言ったわけじゃないから!」


 大丈夫だ、わかっている。勘違いはしない、今のは世辞を勢いで言っただけだろう。



 ———かっこいい顔だなんて言われたが、果たしてそうなのだろうか。

 俺の全盛期時代の小二の頃だったか。一度だけ、人生最初で最後の告白まがいのことをされた。耳元で「好き」と言われた。子供の時だ、それにその女の子もそういう性格だったので、ふざけていったことなのだろうとも思う。俺もまったく真に受けていなかった。

 昔は親御さん達からもかわいらしくて、良い顔をしているなんて言われていた。それぐらいには容姿は良かったのか?

 まぁ、それは幼少期の頃だ、みんな似たり寄ったりの顔なんだから特別なわけでもないか。


 …そして中学生の頃か、俺が人と馴れ合わなくなっていた時期だ。顔も現在と同じように形成されている頃だ。

 確か身体測定の時だったか、当時二年で学年が一つ上の先輩の女子生徒二人に計測されていた時だった、俺に対してこんな会話が聞こえていた。


 「ねえ、あの子結構かっこよくない?」

 「あ、本当だ。…どっかで見たことあるような顔なんだよな〜」

 「え、だれだれ?芸能人?」

 「あ、思い出した!市原一哉いちはらかずやだ」


 市原一哉、というのは芸能人でもなんでもない。当時話題になった凶悪殺人犯の名前だった。

 その犯罪者の顔は知っている。確かにイケメンでネットでも話題になっていたほどだ。しかし、犯罪者に似ているだなんて言われても喜んでいいのかわからない。

 その男と似ているような顔をしているのも事実だ。顔はシュッとしていて、少しボサついた髪型をしている。そして、あの如何にも何かしでかしそうな死んだような目が一番似ているのだろうか…。


 それが今は、表情は少し変わったと…。会長と出会ったことで俺は何かが変わってしまったのだろうか。



 「———あ、ごめん。何か一方的に話し込んじゃって。…私も来てくれたことが嬉しかったから、それだけは言いたかったの。じゃあね!」


 秋山は笑顔で俺の右肩をポンと右手で軽く叩いてからその手を振って、階段を降りていった。秋山も軽音部の部室へ行ったのだろう。


 …まずい、また何か嫌な感情が湧いてきそうだ。好きになりそうなんて感情はグッと抑えていよう。

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