第52話 第一部完
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見たことのない絶世の美少女がいた。
切れ長の瞳に艶のある桃色の唇。澄んだ瞳はエメラルドグリーンに輝いている。
左目の下にある泣きぼくろが、なんとも言えない妖艶さを醸し出していた。
肩にかかるくらいの艶のある黒髪はサイドが少し長く、軽くシャギーが入っている。
頭には純白のカチューシャを乗せており、黒のミニスカートに真っ白いエプロンを着込んでいた。まさにメイドさんといった風体。
「あの……これ、私のだけ……スカート短くないですか?」
少女が隣にいる香織のロングスカートと見比べながら、遥を咎めるような目で見つめた。
「……いい。可愛いわぁ~! やっぱメイドさんはミニスカートでしょう! まぁ、香織さんは年齢的に無理だろうけど」
ぼそっと言ったセリフを香織に耳聡く聞き取られ、遥は香織に頭をがっちりとホールドされていた。
「えっと……お前、もしかして紫苑か?」
脂ぎった黒髪を丁寧に洗ったあとに断髪し、身なりを整えて綺麗な姿に生まれ変わった少女に問いかける。
「はい。もしかしなくても私は紫苑ですけど。その……えっと、似合わないでしょうか」
紫苑が恥ずかしそうにスカートの裾を握ってそわそわする。
その仕草と可愛らしい姿に、流斗の心は完全に魅了された。
(……凄い。めちゃくちゃ可愛い。あくまで俺は姉さん一筋だけど、紫苑って本当はこんなに綺麗だったんだな。姉さんと椿姫のロングヘアーを見慣れていたせいか、ショートヘアーも結構新鮮で良いかもしれない……)
なんて考えていると、間近に紫苑が接近していた。
こちらの思考を探るように、エメラルドグリーンの瞳で見つめてくる。
「とてもよく似合っている。凄く可愛いよ、紫苑」
「……そっ、あ、ありがとう……ございます」
それだけ言うと、紫苑は下を向いて顔を赤くしていた。
親以外の誰かに褒められたことがないんだろうな、と思う。
「姉さん、紫苑を春から御園高校に通わせるよ」
「なぁに? もう父さんと話をつけたの?」
「うん。学費は俺が軍の手伝いで稼いだ金を出す」
「なら別にいいんじゃないかしら。ずっと家にいてもすることないだろうし」
遥が適当な調子で言い、隣に並ぶ香織も頷く。
「ちょ、ちょっと待ってください! 私は流斗様のメイドとして、このお屋敷で働くのではなかったのですか?」
「いいんだよ。俺も士道さんに『神崎家にいるなら学校に行って色々学んでこい』って言われているし。それに、紫苑の記憶を見た限り、お前は山奥での生活が長く、家事はある程度できても機械類の扱いや礼儀作法が分かってないだろう。御園高校に行って、選択科目で『家政科』を取ればいい」
「いいんですか? 本当に? 私なんかが学校に行っても」
「なんかじゃない。お前は俺のパートナーだ。御園高校には姉さんがいるし、来年は俺も御園中学から御園高校に進級するから」
神崎(日向)流斗は今年十五歳。天枷紫苑は今年十六歳。神崎遥は今年十七歳。
三人は一つずつ歳が離れている。
「それならば。私は流斗様により良い奉仕ができるように、学校で家事スキルを磨き、神崎家に帰宅次第、存分にその腕を発揮したいと思います」
「家事について分からないことがあれば、先輩メイドの香織さんに聞けばいいしね」
遥が香織の肩に手を置きながら言う。香織はその手を軽くあしらっていた。
「私もできる限りのことを紫苑さんに叩き込むつもりです。先輩ですからね」
香織のメイド魂が熱く燃え上がっていた。むんっと胸を張っている。
「それと、私も流斗様の仕事を手伝わせてもらいます。仕える者として、主にお金を払わせるなんて、言語道断ですから」
契約した手前、紫苑を戦いから遠ざけることはできない。
人間と半人半魔の『共鳴度』の高さは、二人の距離によって決まる。
戦闘中はなるべく近くにいるほうがいい。
「軍の手伝いの手伝いの手伝いか……」
遥が困惑した顔で噛みそうになりながら呟いた。
「ないよりマシかな」
いつものように軽いノリで決めてしまう。もう慣れてきた。
「三人の力を合わせて、頑張るとしましょうか」
遥の言葉に、流斗と紫苑が続く。
「任せてくれ。姉さんは俺が守る」
「私は流斗様がどのような道を歩むのか、最期まで傍で見届けさせてもらいます」
――《日本軍》VS《暁の光》。
その大きな戦いの背後で行われていた、違法な奴隷売買は決着がついた。
天枷紫苑という半人半魔の仲間を加えて。
そして、今日この日が――
神崎(日向)流斗、武藤相馬、神崎遥、天枷紫苑。
四人の運命を、この先に待つ未来を、大きく変えるきっかけとなった。
やがて彼等はぶつかり合うことになる。
己が信念のために、命を懸けて。
いくつもの夜と星が流れ、月日は過ぎていく。
…………一年と、数か月が経った。
◇ ◇ ◇
あとがき
プロットはあるが、時間がない。
ということで、第一部完!
九月中旬――『高校生編』開幕。
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