第三章 魔術闘技会への挑戦状
第26話 シスコンVSお嬢様
休み明けの月曜。
土日にいつも通り遥と鍛錬を積み、少しだけ士道に訓練をつけてもらい、香織の手伝いをしながら、流斗はどうやって椿姫と仲直りをするか考えていた。
やはり出合い頭に開口一番、誠心誠意謝ることが最善である。という結論が出た。
そして、朝――
「じゃあ流斗、今日もまた校門でね」
「分かった」
流斗は遥と別れ、自分のクラスへと向かう。今日は廊下で誰かとぶつかることもなく、無事に教室へたどり着いた。流斗は扉を横に引いて教室に足を踏み入れる。
その瞬間、クラスメイトが騒ぎ立て流斗を取り囲んだ。
「ねぇねぇ! 先週灰原に勝ったんだって?」
「俺は武藤にも勝ったって聞いたぞ」
「えー! あの武藤君に!?」
「神崎君、質問してもいいかな?」
クラスメイトから質問攻めにあう。
(またか……。これは、土日の間に噂が広まったみたいだな)
「おう、相棒。二日ぶりだな」
弾が近づいてきただけで、流斗を囲んでいたクラスメイトの半数ほどが離れた。
(灰原弾、お前……どんだけ他の生徒に嫌われてんだよ……)
少しだけ可哀想になり、流斗は憐れむような目で弾を見た。
「おはよう弾」
弾に挨拶を返すと、
「神崎君、灰原といつの間に仲良くなったの?」
とクラスメイトが疑問の声を上げた。
しかもそこに、二人目の声がかかる。
「おはよう神崎。僕は君を信じることにしたよ。でも監視は外せない。これからは僕とも仲良くしてもらうよ」
相馬が微笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
だが、その目が完全には笑っていないことを、流斗は見逃さなかった。
(半信半疑ってところか。まぁ敵視されていないだけマシだ)
そう思い、
「ああ、よろしく」
手を差し出して、相馬と固く握手を交わす。
「え? なんか武藤君とも仲良くなってるし、一体何があったの?」
クラスメイトたちの疑問は尽きなかったが、話の途中で教室に茜が入ってきたことで、みんな大人しく自分の席に座った。誰も茜のアイアンクローは食らいたくないのだろう。
「よし、全員席に着いたなー。じゃあ、今日は二週間後に行われる魔術闘技会に出る生徒の選出をするぞー」
黒板に大きく『魔術闘技会』と書く。
意外なことに字は綺麗だ。
「魔術闘技会?」
流斗は疑問を口にするが、周りの生徒にそれを気にした様子はない。
「そうか。神崎は転校してきたばかりだから分からないな。じゃあ、私が改めて説明してやろう。ありがたく聞くことだな」
流斗の呟きを、お得意の地獄耳で拾った茜が続ける。
「魔術闘技会というのは、クラスから代表を一人選出して、中学内で学年ごとに代表者が戦い、各学年の優勝者で当校の最強を決める戦いをするものだ。その戦いには厳密なルールがあるが、まず重要なこととして、戦闘時に魔術の使用が認められている。国が優秀な魔術師を求めている以上、当然の帰結だろう。だから毎年、代表に選ばれる生徒は選択授業で魔術を専攻している者だ。いくらウチのクラスの灰原みたいに腕っ節が強くても、真の魔術師の前じゃまったく歯が立たんからなぁ~」
「先生! オレの吊るし上げは酷いと思います!」
弾が喚く中、流斗は静かに考える。
(魔術科の生徒……しかもクラスから一人ということなら、俺には関係ないな)
「とまぁ、一通り説明を終えたので、そろそろクラス代表を決めたいわけだが」
茜が腕時計を見ながら呟く。
「私は神崎君を推挙したいと思います!」
前の方に座る髪の長い女生徒が大きな声で言うと、
「私も賛成です」
「ああ。灰原はともかく、あの武藤と互角に戦えるなら、今年は神崎だな」
他のクラスメイトたちも次々と続ける。
(――は? ちょっと待て、もしかして俺!?)
「へぇ……面白い。以外にも代表候補は神崎か。他には誰かいないのか? 自信のある奴は自分から名乗り出ても構わんぞ。なにせこの戦いの結果で、職員室での私の立ち位置が決まるんだ。本気でヤれよ」
茜の化けの皮が完全に剥がれている。
「去年と同じく、僕はこれに出ないからね。僕も神崎を薦めるよ」
「同じくオレも! やっぱ相棒が出るからには、優勝を狙わねェとなァ」
相馬と弾まで自分を推してくる。
(こいつら、ふざけやがって。俺はこれ以上目立つわけにはいかねぇんだよ)
「先生、ちょっと待ってください。俺はそんなのやるつもりは――」
流斗は立ち上がって抗議する。
しかし、
「うるさい! 選ばれた以上、死ぬ気で戦え! 相手をぶち殺せぇえ~!」
興奮状態に入った茜に容赦なく撥ねつけられる。
(……酷い。酷過ぎる。この人、本当に教師か?)
人間性を疑う発言にこちらの頭が痛くなる。
「いや、俺にも事情が――」
なおも不服を唱える流斗の声を、よく通る高い声が遮った。
「ちょ、ちょっと待ってくださいな」
クラスの真ん中の席に座っていた椿姫が、縦ロールを揺らして立ち上がる。
(よし! いいぞ、まさかこいつが俺を助けてくれるとはな)
「そんないい加減な選出を認めるわけにはいきません。魔術の実力から考えて、このわたくしが魔術闘技会に出るべきです! それを転校早々ちょっと目立ったからという理由でこの変態にされては困りますわ!」
神崎流斗は、いつの間にか変態扱いされていた。
「クラスの代表は実力が上位の人間がなるべきです。去年と同じく武藤さんが出ないのであれば、このわたくしが出るのが自明の理では?」
椿姫の中で、流斗が相馬と互角以上に戦ったことはなかったことになっているようだ。
別に椿姫が出るというなら、流斗は辞退すればいいと思っていた。むしろラッキーだ。椿姫の態度は鼻につくが、代わってくれるというのならそれも我慢しよう。
「それに、去年生徒会長をなさっていた、神崎先輩の親戚のようですけど、別に彼女も大したことなかったじゃありませんか。魔術闘技会にも一度も出たことはないようですし。大方、負けるのが怖かったのでしょう」
「あ?」
椿姫の発言は、流斗の理性を簡単に吹き飛ばした。
鈍い光を放つ、黒く濁った目が鋭く細められる。
「オイ……黙って聞いてれば。調子に乗るなよ、ドリル女」
「な、何か文句でもありますの?」
流斗の剣幕に、椿姫の隠し切れない恐怖心が見え隠れする。
それはもう、ドリル女と言われても言い返せないほどに。
「俺のことはどう言おうが構わない。だが、姉さんの悪口だけは聞き捨てならないな」
「ふ、ふん! 姉さん姉さんって、あなたシスコンですの?」
自分と遥の関係を馬鹿にされた気がして、さらに頭に血が上る。
「図に乗るなよドリル女。お前こそ、理事長の娘らしいけど本当に実力あんのか? この前戦ったときは、お前のことを強いなんて微塵も思わなかったけどなぁ~~!」
「なっ、なんですって!」
(やば……マズイ……)
遥に仲良くしろと言われたばかりだというのに、つい怒りで口が滑ってしまった。
椿姫の顔を見ると、怒髪天を衝くと言わんばかりに、いや、実際に縦ロールを逆立てて椿姫が顔を真っ赤に染めて怒りを露わにしていた。
(ちょっと待て。どうなってるのそれ?)
そんな疑問をよそに、椿姫の怒りはヒートアップする。
「あっ、あなた! よくも、よくもわたくしを……っ!」
これはもう後戻りはできそうにない。
「わたくしと勝負なさい! ギッタギタにしてやりますわ」
音を立てて勢いよく机を叩く椿姫。
(こいつ、台パンしてやがる……)
その姿は言葉遣いのわりに、全然お嬢様らしくなかった。
「仕方ねぇ、やってやるよ。とやかく言う前に、体に分からせてやるぜ」
こうなったらやるしかない。
自分にそう言い聞かせる。
「あらかじめ言っておきますけど、わざと負けたり、手を抜くことは許しませんわよ。後で言い訳されてもかないませんし」
「ハッ、それはお前の実力次第だな。ちゃんと俺に本気を出させろよ?」
「ぐっ……ふん! 言ってくれますわね。なんにせよ、ちょうどいい機会ですわ。これを機に、わたくし宝条院椿姫と、あなたの実力差をはっきり理解させて差し上げます。わたくしは何事も常に『一番』でなければ気が済みませんの。あなたがその障害となるのなら、容赦なく叩き潰しますわ!」
結局、また戦うことになってしまった。
この学園に来てもう三戦目だ。
好戦的な者が多すぎる。
「で? ルールはどうする?」
「この際、細かいルールはなしですわ。相手に負けを認めさせる、相手を気絶させる、もしくは相手が息絶えた場合。これが勝利条件ですの」
先程の激昂はどこへ行ったのやら、椿姫は冷淡でおぞましい笑みを浮かべていた。
「魔術闘技会まであまり時間がありませんわ。決闘は明日でよろしくて?」
(チッ、先に切り出されたか)
周りのクラスメイトたちは、流斗と椿姫を面白そうに見ていた。
「構わん。お前に合わせてやるよ」
流斗の横柄な態度に、椿姫が目を吊り上げる。
「さてと、どうやら話はまとまったようだな」
軽く二度手を打って、茜が話の流れを締めた。
「二人の勝負は明日の放課後、予備アリーナにて行う。神崎と宝条院の二人はそれぞれ準備をしておくように。さぁ~授業を始めるわよ~」
それを合図に、流斗と椿姫は互いを睨みながら席に座った。
◇ ◇ ◇
あとがき
仕事が忙しくて第三章開幕が遅れました。
マリン船長が今の癒しです。
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