第24話 妥協点
流斗は更衣室に戻る途中、弾に気になったことを尋ねる。
「お前はたいして魔術を使えないんだよな?」
「その話を何回もすんじゃねぇ。ちょっとくらいは使えるっつーの」
「なら、なんでお前は、周りの生徒に恐れられているんだ?」
弾の見た目はチンピラのそれだが、強力な魔術を扱える生徒なら、何も臆することはないはずだ。
「あ? それはあれだろ。魔術はものによるが、発動までに時間がかかる。まァ、肉体強化系は一瞬でできるのが多いけどな。例えば廊下で出合い頭にケンカになったとする。その場合、オレは一秒あれば相手にボディーをお見舞いできる。つまり、相手は魔術を使う前にノックアウトされちまうってわけだ」
「なるほど。それに魔術は、学園内で勝手に使うことは禁止されているからな」
だからといって、この学園での暴力行為が許されているわけではないが。
「だが、俺に絡んでくるのなら、今までのように好き勝手をされたら困る。俺までお前と同類だと思われたくないからな」
「ってことは、それさえやめればオレの相棒になってくれるってわけか!?」
弾が嬉しそうに声を弾ませる。
「……勝手にしろ」
流斗は歩くペースを速めた。こんな風に自分に絡んでくる奴は小学校以来だ。
不満げな言葉とは裏腹に、流斗の表情は満更でもないようだった。
★ ★ ★ ★ ★
流斗が去った闘技場で一人、相馬は物思いにふけっていた。
去り際に流斗が残した言葉の意味は、半分ほどしか理解できていない。
流斗と遥の関係を知らない相馬にとって、それは当然のことだ。
それでも、流斗は自分が思っているほど危険な人物ではないのかもしれない。という思いが相馬の中に生まれていた。先程の戦闘――あのまま流斗の貫手をくらっていれば、相馬といえども、かなりの痛手を負っていただろう。あのとき、わざと流斗が貫手を外したことは、もはや相馬の中で確信に変わっている。
思い返してみれば、あの戦闘で他にも何度か違和感を覚えていた。
流斗は何回か技を繰り出そうとして、途中でやめていたのだ。
相馬はそれをフェイントだと思っていた。しかし今になって冷静に考えると、あれは使い慣れた技を出そうとして、咄嗟に引っ込めているようにも見えた。
その技は、おそらく相手に致命傷を与えるものなのだろう。
(それを本能的に出しそうになり……必死に抑えていた?)
だから全体の動きに違和感を生じ、相馬の目に不自然に映ったのだろう。
(――神崎流斗。彼は信用に足る人間なのだろうか?)
相馬には、まだ流斗のことは分からない。出会ったばかりなのだ。知っていることのほうが少ないだろう。否、ほとんど何も知らないと言っても過言ではない。
(でも、誰にだって隠したい過去の一つや二つある。そうだ、僕にだって……)
相馬は流斗のことをとりあえず信じてみることにした。
流斗が『姉さん』と呼ぶ遥のことを語った目、あのときの大切なものを守ろうとする目に、相馬は何かを見出そうとしていた。
(とはいえ、まだ完全に彼を信用したわけじゃない。しばらく一緒にいて、彼のことを見守らせてもらおう。そうだ、これは監視だ)
弾と同じように、自分と互角に戦える存在に少しばかり胸を躍らせていたことを、このときの相馬は理解していなかった。
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