第28話 真相推理

「え!? ということは自殺だと?」

「うん。昨日どういった出来事が起きたのか、具体的にはわからないけど、彼が自殺する動機はあった」


 式は奥田陽子をちらりと見ながら、


「それは吉田美穂子さんだ」


 と言った。

 式からその名前が出たのを聞いた奥田陽子は驚愕のあまり目を見開いた。


「吉田さんって、確か告白してフラれたショックで自殺したっていう」

「その吉田さんが告白した相手が、河本雄太さんだと俺は思っている」

「その根拠は?」

「それを話すには、まず奥田さんと川本さんが付き合い始めたきっかけを明らかにする必要がある」

「確か、陽子が告白したんだよね」


 春崎が言う。


「春崎さんの話では、奥田さんは中学時代は恋愛にはまるで興味がなかったのに、高校では恋人を作ったのが不思議だと言っていた。それに中学時代は結構モテてたんだよね」

「うん」

「そして河本さんは、中学時代バレー部に所属していた。柿本さんの話では、河本さんは奥田さんを以前から好きだったとも言っていた。これを聞いて、もしかしたら河本さんは中学時代から奥田さんを好きだったんじゃないかって思ったんだ。そして二人はバレーの大会で出会った」

「でも、河本さんのバレー部はそこまで強くなかったのでは?」


 榊が質問する。


「河本さんがいたチームは強くなかった。つまり男子バレー部はね。だけど女子バレー部はどうだったのかな。もしかしたら、奥田さんの中学時代と同じくらい強かったのかもしれない。たとえば女子バレー部の大会に応援か何かで同行することがあって、そこで河本さんは奥田さんのことを知って好きになった」

「まあ可能性としてはあるけど、それが今回の事件とどう繋がるの?」

「もしかしたら、そこで河本さんは奥田さんに告白したんじゃないですか?」


 奥田陽子に尋ねる。

 だが彼女は答えない。


「そして河本さんはフラれた。だけど奥田さんのことは忘れられなかった。だから彼女について調べ、彼女の進学先である明快高校に入学した。そして彼女に近づくためにバレー部に入部した。ところが……」

「吉田美穂子さんに告白された、と式くんは言いたいのですね」

「うん。河本さんからすれば奥田さんが好きだから、これは断ることにした。だけどまさかそれが彼女を自殺に追い込むとは、全く考えていなかった」


 奥田の表情が少しずつ強張る。


「吉田美穂子さんの自殺は、奥田さんにも河本さんにもショックを与えた。奥田さんは自分の親友が悩んでいることに気づけずに自殺させてしまったこと、河本さんは自分が断ったせいで自殺させてしまったことだ」

「でも、河本くんからすれば仕方ないことじゃん……。好きじゃない人と付き合うなんてわけにもいかないし」

「そう、これは仕方のない事故のようなものだ。しかし奥田さんは吉田さんが自殺した原因が河本さんにあると知り、復讐を果たすために彼に近づいた。それが告白の真相だ」

「なるほど。それで河本さんは自殺させてしまった吉田さんの責任を取るために、自分で命を絶ったというわけですね」

「うん。奥田さんがどういう復讐方法を取るのかはわからないけど、今回の事件で自分が殺人をしたように偽装したということは、恐らく別の方法で……」

「もういいわよ」


 式の話を遮る。


「大体、そこの彼が言っている通りよ」

「ということは、あなたが河本さんを殺したという発言は撤回するんですね?」

「ええ。私が着いた頃にはもう死んでいた。まあ警察がこれを信じるかどうかはわからないけどね」

「大丈夫、あなたはその証拠を持っているはずだ。そうでしょう」


 式が奥田にそう言うと、観念したかのように奥田はため息をついた。


「まったく、そこまで見破られているのね」


 そう言って奥田はスマホのカバーを取り外し、そこから折りたたまれた封筒を取り出した。


「それは?」

「多分河本さんが書いた遺書ですよ。それの筆跡鑑定をすれば、本人が書いたことの証明になるはずです」

「わ、わかりました。今から調べてみます」


 薫は遺書の筆跡調査を行うために部屋から退出した。


「どうしてそれを陽子が持ってるの?」

「もちろん、河本さんの自殺を他殺に見せるためだよ。奥田さんが偽装工作をして他殺に見せても、本人の筆跡の遺書が見つかったら自殺の線も追わなければならない。それを回避するために、奥田さんは現場から遺書を持ち去ったんだ」


 式は全てわかったように言っているが、榊達にはまだ疑問が残っている。


「式くん、何故奥田さんは河本さんの自殺を自分が殺人を行ったように偽装をしたのですか? そんなことをしても彼女には何の得もないはずでは」

「そこに関しては、正確なことはわからない。俺の予想では、奥田さんは河本さんが自殺してしまったことに対するけじめをつけようと思ったんじゃないかな」

「というと?」

「多分、過去に奥田さんは河本さんに告白されてそれを断っている。そして自殺してしまった吉田さんは河本さんに告白して断られている。この状況って結構似ていると思わない?」

「言われてみれば……」

「自分の友人を自殺に追い込んだ人物に対して、実は自分も似たようなことをやっていた。そういう過去があるから、奥田さんも責任を感じて自分が犯人として逮捕されることにしようと思ったのかも」


 式は奥田に視線を向ける。


「だけど、結局本当のところは奥田さんにしかわからない。よければあなたの心境を話してもらえませんか? それを聴かなければ、この事件は本当に終わりを迎えないんです」

「……わかったわ」


 奥田陽子は淡々と語りだした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る