第66話 君の名は‥

「痛っ!」

殴り飛ばされたノームが顎をおさえながらヨロヨロと戻ってきた。


「…ん?そういえばアンタそんなに喋ったっけ?」


「え?…そういえば…なんで?」

無明も記憶が戻って今の状態に違和感を感じているようだ。


「まあいいかご苦労さま。解除」

とアバターを解除するとノームが消え影も形も無くなる。


「え!?」

 その光景を見ていたミーシャが唖然となる。


「さてと折角だから王都をまわってから帰るか…」

 マップを展開し近くに王都があるのを確認し取り敢えずそこに向かおうと歩き始める。


「ちょ!ちょっと待って!!」

 その場を去ろうとしているリリスをミーシャが慌てて止める。


「ん?」


「ノームは!ノームはどこですか!?」


「ノーム?って誰?」

 

「とぼけないで下さい!さっきあなたが殴り飛ばした子です!」


「…?無明の事?アイツなら帰したよ」


「帰した…?」

 そういえばアイツこの子を守ろうとしてたけどどういう関係なんだろう?







「帰した…」


「あなたにとってアイツは何なの?」


「私にとって…」

私にとって?死んだ兄弟代わり?…………違う。

 確かに最初はノームと混同していた。似た容姿を見て彼はノームだと決めた。だが彼は兄と口調も性格もまるで違った。

 だが…たった半年しか一緒に暮らして無いが確かに彼は…


「私にとって…彼は家族です!」

もう彼はノームでも兄とは別のノームなのだ。


「そうか…」

そう言うと何か考える素振りを見せた魔王…いえ……そういえば名前聞いてない。


「…ん…できるかな?よし!そこのあなた私と友達になりなさい!」


「へ?」

 互いの名前も知らない人に友達になれと言われました。








「友達になりなさい!」

 うん言っていておかしいと思うがしょうがないずっと無明…ノームを彼女の側においておくにはこれしか手が無いのだから。


「無明…ノームと一緒にいたいんでしょう?」

と言ったら少し戸惑いながらも肯いた。


「…よし!あった。」


 メニュー画面からフレンドを選びリストを確認すると一番下の欄に見覚えの無い名前が追加されている。


「ミーシャ…設定…助っ人…無明…あ、そうだ変更…」


「え…えーと…?」


「これでよし!ミーシャ今から言う事を復唱して」


「え?なんで私の名前を?」


「いいからいくよ」


「助っ人召喚」


「助っ人ノーム召喚?」








 私が友人になる事を了承すると彼女は後ろを向き何かゴソゴソと作業し始めた。

4,5分たったぐらいになってようやくこちらを向くといきなり私の名前を呼ばれて驚いた。


「助っ人ノーム召喚」


と言われた通りにすると隣に光が集まりノームが現れた。


「「え!?」」

 私は突然現れたノームに驚きノームも私の顔を見て驚いていた。



「よし!成功!!無明…いや…ノームちゃんとその子を守るのよ」


「ミーシャノームは死んでも解除と召喚繰り返せば復活するからこき使っても大丈夫よ」


「え!?」


「じゃあね!」



 まさかこの世界でも助っ人システムが有効だとは思わなかった。

まあフレンド登録もいきてて良かったけど。




「「……」」

 去っていくリリスの姿を状況について行けず呆然と見送る二人。


「え…っとお帰りノーム」

「た、ただいま…姉さん」

 少し落ち着いたミーシャはやっとそれだけを絞り出した。







 ミーシャを担ぎ街道に出るとちょうど馬車が通りがかった。


「ミーシャ!!」


「アイン!?」


「ミーシャ怪我は!?グリフォンはどこへ行った!?」

 御者台から飛び降りて来るなりミーシャに詰め寄る。

「少し足を切っただけで大したことは無いわよ」


「あ?あれ?ノーム?なんでこんな所に!?」

 余程焦っていたのかノームには全く気がついて無かったようだ。


「姉さんの悲鳴を聞いて駆けつけたんですよ」

 まあ嘘は言っていない。


「そうか…でグリフォンは!?」


「えーとそれが…旅のハンターの人が倒してくれました。」


「…!そうか…良かった…あ!早く報告に行かないと騎士団が来ちゃう!」

 二人を荷台に詰め込むと急いで馬を走らせるアイン。


「姉さん…アインさんて馬扱えたっけ?」


「来る途中で教えてもらってたから大丈夫…だと思う」


「そういえばあの人名前はなんて言うの?」


「……」

目を逸らすノーム。


「…言っちゃいけないの?」


「いえ…なんというか形容し難くて…」

 彼女…いや彼は13の姿14の名前を持っているその対象の名前をなんだと聞かれてもどれを答えればいいのかわからない。彼にとって今はも名前の一つなのだから。


「…ふーん?なんかよくわからない。けど大変なのね」


「まあいいか…ありがとう『魔王』さん」

 そう小さくお礼をいうのだった。


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