第213話 狩人協会への要請 その1


「ごめんねぇん、待たせちゃったかしらアーカムちゃん」


 地下の一室で、外回りから帰ってくるペンデュラムを迎えて、お茶をだしてあげる。


 ペンデュラムは頬を緩ませ「ありがと♡」と言うと、紅茶を上品にひとくち口に含んだ。


「それで話って何かしらぁん、アーカムちゃん」

「はい、実はですね、現状起こっている混乱収拾の目処がついたんです」

「あら、それは興味深いわねぇん」

「そうでしょう? その独自の調査のもと判明したことなんですけどね、いや、本当ですよ、僕の独自の調査、です。えっと、まず竜学院に地下があること、ペンデュラムさんはご存知ですか?」

「ふふーん、竜学院の地下、ね。……いいわよ、話を聞こうじゃなぁい♪」


 俺はペンデュラムへビジョンパルスから貰った情報を、古代竜からの救援であるということ消し去って上手いこと話していった。


 伝えたのは『夜空の眷属』という単語。

 空から降ってくる神造兵器に名称があるかも、ということ。


 蒼い花が間接的にその『夜空の眷属』を地上に呼び込んでいて、巨人の召喚効果をもってること。


 蒼い花の芽生えには竜学院から続く異空間内で儀式を行なっている暗黒魔術教団が関わっていて、彼らは極大の戦力ーー悪魔を5体使役していること。


 トニー教会の宣教師はすでに現場にいて調査にあたり、古代竜たちは彼らの掌握に苦戦していること。

 

 俺の話をけわしい顔で聞き終えたペンデュラムは、肘を抱いて「ん゛ー」と、低い声で唸りはじめた。


 ふと、気が緩んでいたことに気づいた彼は、ハッとして取り繕い、陽気な笑顔をとりもどすと懐から何かを取りだした。


 それは、一通の手紙だった。


 冒険者ギルドのマークで封蝋ふうろうしてあり、高級感のただよう封筒だ。


 ペンデュラムは手紙を机に置いて、咳払いをひとつして、話しはじめた。


「アーカムちゃん、まずは、ありがとうねぇん。その情報はとっても助かるわん。ーー……ただね、注意しないといけないわね。これからはドラゴンクランでの″狩人としての諜報活動″なんて絶対にしないで頂戴ねぇん」


 目の前の男の顔つきが変わった。


 普段の飄々として掴みどころのない態度から、他者に自身意見をつたえ、聞かせる指導者の色が表情にやどっている。


 俺はそれを見て、漠然とした″危ない状況だった″という自分の感覚が間違いではなく、そして、ことに気がついた。


「あのオールド・ドラゴンたち、そして学校と協会とのすっごく大事な約束事なのよ。決して私たちから、約定やくじょうを違えてはいけない。『竜神王りゅうじんおう』はその約束のもとでなら、狩人協会とくつわを並べることを容認しているんだから」

「……すみません、勝手なことをし過ぎました」


 俺は目元を伏せて、深く頭をさげた。


 学業優先、だから狩人としては任務もあたえられず、今は知識を溜め、技を鍛えるーーそういう名目めいもくのもと俺の存在は許されていたんだ。


 なのに、興味本位で「ちょっと狩人しようなー」「やっぱ学生してみよっかなー」なんて、学院からも協会からも厄介な存在に違いない。


 俺は本当に、中途半端で、どうしてこうも自覚と覚悟が足りないのか。


「幸い、まだ学院から何も通達が来てないからいいけど、もしかしたらもう古代竜たちも、学院もあなたが狩人である事に気づいているかもしれないわ。先日のドラゴン退治にしてもそう。ねぇ、アーカムちゃん、なんで今更になって″インチキ・アルドレア″なんて呼ばれだしたかわかる?」


「……? わかりませんけど……」


 ペンデュラムの質問の意図が掴めず、困惑する。


 さっき廊下ですれ違った時に話した雑談、どうしてそれが今なんだ。


「全部、あたしが流したのよ。アーカムちゃんの格を落とすために」


 親は眉をひそめた。

 なぜ、ペンデュラムがそんなこと?

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