第181話 保護者は私だけか
円形テーブルの四方をかこみ紅茶をたしなむ。
ここではミルクも砂糖も入れ放題なので、今のクラーク邸では味わえない甘味を存分にたんのうする。
一息つき、カップに囲まれたテーブル中央の羊皮紙に視線をおとす。
魔術言語とエーテル語をもちいて、つらつらと何かが書かれている。シェリーが持ってきたものだから、きっと旧校舎探索に役にたつアイテムだろう。
「ではでは、混乱治まらぬアーケストレスを救うための算段と参るのですよ」
小さな手を打ち合わせ、シェリーが場を取りしきる。
「幸運にもここにはドラゴンクランの決闘強者たちがそろっています。生粋の魔術師たちにとっては、何ともない称号らしいですが、シェリーはそれなりに鼻にかけてるわけなのです。何にせよ、強いのですから。だから、これを凄いことだと思うのですよ」
「クク……左様。……ぁぁ、左様だとも」
チューリはシェリーを一言で肯定し、隣の金髪女史をチラ見、それ以上言葉を発せずに押し黙った。
「アーケストレスは今、とっても大変な時期なのです。ゆえにシェリー達しかこの窮地を救えるものはいないのですよ! わかりますか、クラーク先輩!」
シェリーの小さな拳をふりあげ、主に正面で真顔のまま紅茶を味わうコートニーへ向けた力説を終える。
シェリーも大概、チューリと似た性質をもっている。
本人に自覚はないだろうが、多分、コートニーからしたらこの2人に大差はないんだろう。
どちらも等しく患者だ。
「で、アーカムはどう思うのだ? 私はクリストマスの説明を受けても、
仕方ないからついていくスタンスは変わらず、か。
して、俺の所感をのべよ、と。
まず、ドラゴンクランの前身と空から落ちてくるアレに、何の関係があるのか。この2つにたいする興味はいまだ尽きない。
ゲートヘヴェンが歓迎するとか、意味深な言葉をこぼしていたのも俺をこの先に駆りたてる原動力だ。
さらに加えるならば、あとは予感か。
いつかクルクマで感じたような
毎晩、精神世界で会議してるから、考えが固まっているのもあるかもしれないが……。
ある時からか身についた能力。
最近、自覚しつつある霞む引力。
ただの直感に過ぎないコンパスは、今はドラゴンクランを指し示している。
ならば、きっと行くのだろう、俺は。
「……ま、テロリストと混乱の沈静に忙しい協会様に貸しをつくるのもいいしねぇ……」
「ん、協会? どういう意味だ、アーカム」
「ああ、いえ、何でもありません、独り言です。……僕は行くべきだと思います。やっぱり、僕たち世界を救う使命にあるんじゃないかと」
「む……そうか、そう言えばアーカムもそういう感じだったな。ほんとうの仕方のない」
なぜかコートニーに落胆される。
どうしてだ、まったく理由がわからない。
これではまるで俺がチューリやシェリーと同類みたいではないか。
「じゃ、決まりなのです! クラーク先輩、ようこそ我らの探検隊へ。先輩のチカラはきっとシェリーたちの役に立つことでしょう、なのです!」
「ふむ、やはりこうなるか」
コートニーはため息をつき、近くに見えるドラゴンクランへ遠い目をむけた。
「では、ここでシェリーが今日という日に集結していただいた
小さな手は机のうえの羊皮紙に言及しはじめる。
「こちらの羊皮紙、ただの羊皮紙ではないのです。かと言って魔術が封印されただけのスクロールでもございません。これこそがシェリーのお家に伝わるクリストマス家謹製の特級魔導具『
「ほう、夜の階位……。クリストマス、それがあると、どうなる?」
興味深げにコートニーが羊皮紙を覗きこむ。
「ふふ、これがあると未熟なシェリーでも契約状態にない使い魔と迅速に契約をむすべるのです、えっへん♪」
シェリーは腰に手をあてて、自慢げに鼻を鳴らした。
「使い魔か。わからないな。お前のところが得意としてるのはわかるが、契約の補助? そんなものが必要なのか? 話が見えないぞ」
「ふふ、焦らず、心して拝聴するのですよ、クラーク先輩。実はですね、シェリーたちが挑もうとしている立ち入り禁止区域は不思議な状況にありましてーー」
声をひそめるシェリーは、首をかしげる我が家主へ丁寧に説明しはじめた。
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