第180話 四天王集結
ーー2日前
アーケストレス第二段層、段壁のふちにあたり、下のふたつの段層都市を一望できる絶景のエリア。
もっと言うと、コートニーと一度だけ登った、段壁に取りつけられた階段、その頂上。
ドラゴンクランの権威を揺らし、生徒たちを恐怖のどん底におとしいれた事件から5日目。
今日もアーケストレスは燃えている。
風にのって運ばれてくる、かすかな火の匂い。
第二段層から見下ろせる、ひとつ下、第一段層の段壁ふきんの街の二箇所ほどから火の手があがっている。
おおかた竜学院への日頃うっぷんを晴らそうとする者と、それをとめる善良な市民が衝突でもしたのだろう。
「いや、今となってはなにが善良なのか、皆分からなくなってる、か」
早朝のドラゴンクランの大廊下で初めて蒼花が見つかった時、学院側がそれを些事と捨て置いたのがでかかったんだんだろう。
はてさて、流布された蒼花の脅威と、蒼花は伝染するデマ情報、それによる学生たちの差別、国内の有力魔術家と国外の貴族たちからの非難、全ての混乱が収まるのは、いったいいつになるのか。
シヴァとたわむれ、コートニーに勉強を教えてもらう過ごす非日常のなかの平穏は楽しく、有意なものなので俺としては構わない。
ただひとつ、大事な調査の最中に、かさなって怪事件がおこったのが不穏でならない。
この胸のざわめきは何なんだ?
狩人協会が現在、捜索中の巨人を召喚するテロリストの案件。俺は学業優先として、現状は狩人としての仕事など与えられないが、あちらの行方も気になる。
まだ、何もわからず仕舞いのうちに次から次へと。
何が起こっているのやら。
「ん」
視線を感じる。
手すりから身を乗りだし、眼下を傍観する俺の背後に、まっすぐ近いていくる気配がひとつ。
「チューリか」
「魔剣の英雄よ、すまない、遅くなった。うちの執事にかたくなに外出を止められてな。メイドたちの手を借りて、なんとか出てこれたというわけだ」
「こんな時期に大事な息子を外にだしたら、どこでぼろ雑巾にされるかわからないもんな」
「クク、言うじゃないか。だが、安心しろ。この手の修羅場はなれている。暴徒に身を堕とした市民ごとき、ドラゴンクラン四天王最強の俺の相手ではない」
「あんまりその名称使わないほうがいいと思うけど。誰が最強かはしらんが」
すくなくとも以前、シェリーにぼこされてたチューリではないような気はする。
「クク……その忠告、ありがたく受け取っておこう。さて、ではさっそくだが、参ろうか。俺の遅刻のせいで時間が押している。もうひとりの協力者も、そろそら家を抜けだしている頃合いだろう」
チューリは懐から懐中時計をとりだして、見せびらかすように、堂々と、高らかに、わざとらしく、目障りなほどにカチカチさせてそう言う。
この男、俺の影響で時計を仕入れたとみた。
面倒くさいが、一言そえてあげよう。
「良い時計じゃん」
「ッ! ククク、クハハ! そうだろう!? これはローレシアの超一流時計職人トーマス・エジサンによる至極の逸品なのだよ、魔剣の英雄! これで俺たちはともに時間の認識において対等ーー」
どっかで聞いたことある名前。
この世界ってあの厨二じいさんしか時計作ってないのかな。
ー
ドラゴンクラン大魔術学院の、巨大な豆腐型建築積み立てキャンパスが、通り数本向こう側にみえる。
今、あの学院をふくめた第二段層の一部は、いろいろな意味でとても危険な状況下にある。
近くで待ち合わせする事は憚られるということだ。
それが、我らの学院に所属するものなら、一層の注意が必要だろう。
「あ、待ち人来たりなのですよ! チューリ、アーカムくん、こっちですよ!」
いつもより
チューリ風に言うなら、我々の協力者『
俺とは別で家をでた、もうひとりもちゃんと来ているな。
シェリーの対面に座るもうひとりと笑みをかわす。
「クク……シェリー・ホル・クリストマス、寸胴のごとき貴様がそれを来ても滑稽なだけだぞ。貧しさは悲しさとは、我が兄がよくいっていた言葉だ。なるというか……」
目元を押さえて、チューリは苦笑をこらえられないとばかりに、肩を震わせて首をふる。
そんな彼の言葉に、まゆを動かす者がひとり。
「貧しさは悲しさ、か。グスタム。それはこのコートニー・クラークに対する挑戦とみていいのだな」
凛とした硬い声。
演技くさっていたチューリは、ハッとして顔をあげ、シェリーの向かい席で虫を潰す意志をかためた、金髪少女の青い瞳を見つけた。
「な、なんで貴様がここに!? こ、ここ、コートニー・クラーク! はっ、そうかそうか、シェリー、お前この俺とアーカムをはめたな! よくも!」
「ふふふ、まったく、チューリの反応はいつ見ても飽きないのですよ。可愛いです、まったく。こちらのエルデスト様は、どこかでシェリーたちの噂を聞きつけて、不思議と気が向いたとかで、ドラゴンクランの旧校舎の探索に力を貸してくれることになったのですよ」
シェリーはニコニコしてコートニーを手のひらで指し示す。
「ふん。こんな時期なのに、まだ独自調査とやらを敢行する、お前らの冒険野郎魂には感服するほかない。だが、あいにくと見守るにはいささか不安すぎる。ゆえに私が同行することにした。文句はあるか、グスタム。いや、あるだろうな、だが言うな。お前が喋りはじめたら、私はお前を殺すしかなくなる」
「あ、ぐ、クソ、恐っ……! 一体どこから情報が漏れたんだ……!」
悔しいのか、怒りなのか。
どちらでも無さそうな複雑な感情を噛みころし、チューリは力なくうなだれる。
これで紹介は済んだ。
ふにゃふにゃしてシャキっとしないチューリの手を引いて、俺は少女らのつく席へと着くことにした。
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