第165話 現行犯参加
アーケストレス第2段層と同高度にあるドラゴンクランのその1階。
授業がおわり、昼休みのため、生徒たちの大移動でにぎわう廊下を人気のない方へ突きすすみ、昨日のうちに厨二病に教えてもらったポイントにむかう。
見つけた。
立ち入り禁止の注意書きが書かれた部屋のまえに、目をつむり壁に背をあずけて透かしたおす男がいる。
「フッ……遅いぞ、魔剣の英雄。俺は待てるが、世界の終焉は我々を待ってはくれない」
ーーカチッ
12時15分か。
遅くはないのでは?
昼飯食って、結構急いできたんだしな。
「では、行こうか、アーカム。ここから先は未知と危険が蔓延する学院の深淵、生半可な気持ちでくるならここで引き返せ」
「んじゃ、不安になってきたし、引き返そっかな」
「ーーだが、英雄にはどうしても引けない場面がある。俺は貴様が恐怖に打ち勝つことを、強く望んでいるぞ。望んでいる、ぞ」
発言を転換させるチューリは、もはや有無を言わさずと言った風、俺の返答を待たず、短杖を手にとり、古びた扉の鍵穴にその先端をちかづけた。
ほう、解錠の魔法を使えるのか。
どれ見せてもらおうか、お前の神秘魔法とやらを。
「≪
ーーバギァンッ
内部からの圧力に耐えかねて、あっけなく弾ける金属具。
鍵穴がずいぶんと大きくなったが。
「よし、開いた」
「一気に不安になってきたんだけど……」
赤く火照り、熱をもつ変形した金属具に視線をおとし、この冒険のゆくすえに不安を禁じ得ない。
あーあ、ここまで壊しちゃってどうすんだよ。
こんなんだったら俺が
「いいや、それより凄い音したけどバレてないか? それに、この魔法を誰かの魔感覚に引っ掛かったらおしまいだろ。というか他にも……ーーぁぁ」
「クック……安心しろ、バレているはずがないだろう。なにせこのチューリ・グスタマキシマムの魔術は、極度の集中をもって唱えることで、無意識下での魔感覚にほぼ引っ掛からなくなる。絶対に気づかれないさ」
自信満々に言い切ったチューリ。
言ってることをちゃんと実現してるから、こいつは確かに凄い魔術師だ。
けどね、世の中には魔感覚以外にも、たくさん知覚はあるわけで、そう例えばシンプルに視覚とかさ。
「何をしてやがりますか、このチューリは! たまたま通りかかったシェリーは驚愕の犯行現場を目撃してしまったのですよ! ……とシェリーは怒りと呆れをあらわにするのです!」
「っ!」
古扉に手を伸ばしかけたところへ届く高い声。
肩をビクリと震わせ、チューリが背後へ振りかえる。
目を見開き、背後にあらわれた陽光を背にひかる桃色の瞳を睨みつける蒼瞳。
『
昨日、チューリを激闘のすえに破ったドラゴンクラン四天王最年少のロリッ子少女だ。
「どうしましたか、昨日の惨敗にやけになって、破壊の衝動に目覚めたのですか? もしかして今朝の頭の悪いイタズラ事件もチューリと魔皇アルドレアがやりもうしたのですか?」
俺にまで被害が及ぶのは避けなくては。
こんなところで共倒れなんて笑えないぜ。
「いや、断じてちがう、ちがうから、ちがいますからね? そのですね、クリストマスさん。これには海より深いわけがあるのでしましてよ?」
「『
チューリの早口まくしたて攻撃に、耳を傾け終えると、シェリーは顎に手をそえて疲れた様子で口を開いた。
「『夜空の眷属』ですかー……はぁ、これはまた新しいチューリ語が飛び出したのですよ。シェリーはどんなリアクションをとれば正解なのでしょうか、アルドレアくん」
俺に助けを求めるな。
むしろ、俺を助けてくれよ。
禁止区域への故意的な侵入なんて、問答無用でローレシア強制送還だよ。
いや、もっとまずい処罰も十分考えられる。
だってこの世界、なんだって起きるもん。
「うぅ、コートニーさん助けて……」
無意識のうちに頼れる姉御の救済を願う。
「おや、魔皇アルドレアが弱気なのですよ……!? 弱さを見せるのは愛を誓った女子だけという、あのレトレシアの慈悲なき魔皇アルドレアが……。これはもしやコートニーちゃんと出来ているという噂の信憑性が増してきたのですよ……!」
「アーカム、そうか、貴様コートニー・クラークに弱みを握られて……クク、茨の道をいくな」
無意識にホストファミリーの名をよんだだけで、明後日の方向に勘違いが加速する。
しかし、今はそんなこと気にしてる場合ではない。
神頼み、姉御頼みしたところで解決にはならないのだ。
くっ、やりたくはなかったが、ここは
俺はここで終わらないのだ
すまない、チューリ、明日へのたむけとなれ。
「クリストマスさん、聞いてください。俺たちは今まさに禁止区域の扉を打ち破り、校則へのテロ行為に及んでるように見えるかもしれません、しかし、それは間違いです。真実はこの悪名高き四天王にそそのかされて、無理やり付き合わされてる悲劇の留学生の一幕ーー」
「ほむほむ、なるほどなのです。ここ禁止区域だったのですね! 全然気づかなかったのですよ、どうりでアルドレアくんも、チューリも焦ってるわけですねー♪」
「っ、オウ、マイ、ガァッドッ! このガキ全然気づいてねぇのに全部説明しちまった! あ゛ぁぁあ、完全に墓穴掘ったァア!」
このジャリガール、ここが禁止区画なの知らなかったのかよ、ちくしょう!
自滅一直線快速急行、もうどこへほっても詰みしか見えない地獄行きだ。
おしまいだ、運命がここで袋小路になってるのだけが見える。
さようなら、ドラゴンクラン。
「やれやれ、そんなに怯えて子犬みたいにならなくてもいいのですよ、アルドレアくん。お姉さんは意地悪ではありません、ましてや、ちょっと悪い子だったりするのですよ」
シェリーの謎発言に顔をあげる。
「というと……?」
「耳を貸すな、魔剣の英雄。やつの色香に惑わされるぞ」
「ちょっと本気で静かに」
戯言の止まらない男に手を突き出して、真顔で制する。
「シェリーも興味があるって言ってるのですよ、その扉の先と、あなた達の描く英雄譚に。だから、この事は黙っててあげるのですよ、シェリーたちは共犯なのですー、えっへん♪」
なんたる
近くにほかの気配はない。目撃者はシェリーだけ。
この少女を仲間にしてしまえば、万事解決するじゃないか。
「仕方ないですね、いいですよ、クリストマスさーー」
「俺は認めんぞ、シェリー・ホル・クリストマス! 貴様の企みはわかっているのだ、俺たちの進行の邪魔をし、最悪の結末を呼びこもうとしてーー」
「うっせ! 邪魔すんな! 黙ったろォ!? 最悪の結末を呼び込んでんじゃねぇ! ブチ転がすぞ、厨二野郎!」
「ぐっ! 魔剣の英雄なんのつもりだ! まさかこの女の色香に……そうか、今、目を覚まさせてやる!」
不毛な争いは加速する。
その後、なんやかんやの厳格な協議の結果、俺たちの学院立ち入り禁止区域捜索隊に『
そうそうに仲間割れとなったが、その分頼りになりそうな人員が入ったので、プラスマイナスで言うならば、ややプラスに傾いたといえるだろうか。
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