第123話 廃墟と来客

 

「″おりぁぁあー!″」

「ぐぅぅ〜、参りましたぁぁあ〜。我輩の負けですぅぅぅ〜」


 騒がしい環境音に眠りを妨げられ、温かいふわふわとした感覚から引きずり降ろされる。

 代わりにやってきたのは柔らかいような、あるいは硬いようなーーそうまるで畳の上に寝かされているかのような感覚だ。


「ぅ、ぅ、な、なんだ?」

「″参ったかぁ! ここでは私が最強なんだから!″」

「はいぃぃ、すみませんぅぅ〜」


 聞き覚えのあり過ぎる声がけたたましく嘶いている。

 声の主人が誰かは一瞬で見当がついたので、自身が精神世界へとやって来たのだという事も一瞬で理解できた。


 人は頭の認識が追いつけば案外落ち着いて物事に対処する事ができるものだ。

 もちろんこの俺もその例に溺れてはいない。


 瞼を開けて腕立ての要領で、突っ伏していた体を起き上がらせる。

 すると、真っ先に目に飛び込んできた光景は、精神世界の出入り口として見慣れた「和室」ではなく荒れに荒れた廃墟であった。

 俺の寝ていた場所以外の畳はめくり上がり、四方の壁はほとんどが炭となり無くっており、唯一残っている掛け軸の掛かっていた壁には穴が無数に空いている。


 天井は焼け落ちてしまっており「和室」に併設されていた「和風庭園」を作る際についでに用意した、常時満月の自然現象に逆らった月が部屋の中からでも眺められる様になってしまっている。

 もはや跡形にしか無くなった思い入れのある部屋を見て無念と怒りの感情が同時に湧き上がって来た。


 あの銀髪少女がやりやがったのだ。


「あぁもつ、アーカム! どこだ! あれほど火は使っちゃダメだって言っただろう!」


 銀髪アーカムか火遊びしたに違いない。

 何度も言って聞かせたってのに。

 あいつの事だ、きっと約束を破ったに違いない。


 怒りに任せてすぐさま立ち上がりーー気がついた。


「ーー今度いう今度な許さな、い……何してんだ、アーカム、それ」

「″アーカム、安心して。もう悪魔は私が取っ捕まえたんだから!″」


 立ち上がって最初に目に入って来た同居人ーー銀髪の少女アーカムに声を掛ける。

 寝ていたせいで気がつかなかったが、どうやら「和室」から一段下がったところの「和風庭園」の地面の上に寝転がるようにして銀髪アーカムはいたらしい。


 ついでに言うとアーカムの下敷きになって《・》人影があることにも俺は気がついた。

 本来ならばありえない事態が起こっているのだと瞬時に察する。

 俺は怪しいげな風態の来客を縁側から見下ろした。


「おやおや、これはどうも」


 アーカムに組み倒されロープでぐるぐるに巻かれて拘束された不審者は、エビ反りして顔をこちらへ向けて来た。

 上から見た感じの後ろ姿からもう怪しかったが、顔を見て疑念は確信へと変わる。


 胡散臭い喋りに不気味なほど高い鼻。

 性格悪そうな顔は白塗りでセンスのない化粧が施されており、狂気的なまでに口を広げ綺麗に磨かれた白い歯が三日月を連想させる笑顔を称えている。


「さっきぶりですねぇぇえ〜、我輩のアーカム・アルドレア!」

「お前は、なんとかソロモン!」


 精神世界で初となる第三の存在。

 そいつはつい今朝方に死闘を繰り広げ、あえなくこちらの心臓を破壊した大罪を持つ悪魔だったーー。

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