第15話 かかるブラザーズSP

 


 剣の修行を始めて2年経った……。

 いや少し盛ってしまった。そんな経っていない。


 だが2年は経たずとも修行を始めて、はや半年が経とうとしている。

 季節は肌寒かった冬を越え、暖かな春を過ぎ去り、もう夏へと移り変わっていた。


「よしっ! シヴァGO!」

「わふっ!」


 今日も修行のためにテニールハウスへと向かうのだ。

 アルドレア邸から、徒歩だと1時間の距離。

 現代日本から来た者にとって決して近い距離とはいいがたい遠さだ。

 それでも今日も通いなれたテニールハウスへの道をシヴァに乗ってやってきた。


 我がアルドレア家の愛犬は毎日、欠かさず俺の送り迎えに付き合ってくれている。

 今ではシヴァとの友情もなかなかのものになっている自信があるくらいだ。


「あれ? シヴァ、今日も町に行くの?」

「わふわふっ!」


 テニールハウスの前に俺を送り届けた後、シヴァは町へと1人で出かけていくことがある。

 もしかしたら異性のDOGでもいるのかもしれない。

 案外隅に置けない犬なのである。


 テニールハウスに到着し元気よく玄関扉をノックする。


「師匠、おはようございます!」


 まずは師匠への挨拶からだ。


「おやおや、今日も早いねアーカム」


 師匠は俺が扉をたたけばすぐに出てきてくれる。

 そしていつも通りの優しい笑顔で迎えてくれた。


「では、今日もはじめていこうかねぇ」

「はい!」


 元気よく返事をして裏庭へと師匠とともに向かう。


 ー


 この半年は体力づくりをメインに修行してきた。

 走りこんだり、走ったり、そして走りこんだり。


 うん。


 修行というよりランニングをしていたと言うほうが正しいかもしれない。

 草原を走り、森を駆け、山を奔った。

 とにかくどこでも走りまくった。


 もちろん半年間ただ走っていただけではないが。


 剣術における足の運びを教えてもらったり、木剣で素振りしたり、いくつか型を教えてもらって、教わった型のとおり木剣を振ったりした。

 時たま、型どうりに師匠をぶっ叩きまくるメニューも行った。


 木剣を振っていると高校生のときの剣道の授業を思い出す事があった。

 この半年の剣の修行で師匠から教わった型は剣道の授業同様にほとんど意味がわからないものばっかりだった……が、俺は理屈はわからなくても言われたと通りにひたむきに取り組んできた。


 およそ半年の間やってきたことは上記のとおりだ。

 そして、今日も俺は言われたとおりに木剣を振り続ける。


 ー


 剣の修行を始めて1年が経過した。


 季節はめぐる。


 草原は真っ白に染まり、家の屋根やら道にも雪がたくさん積もり積もる。

 季節と共に修行の内容もだんだんと変化した。


 いままでは体の成長を待ち、体力を付けるという目的で走り込みばかりしてきたが、

 最近は走りこみをそこそこに剣を振る時間が増えてきていた。


 さらに、少しずつであるが剣の振り方、一定の型の意味、なぜこの構えなのか? どうしてこう振るのかといった技術面での理屈がわかるようになってきていた。


 技のことわりを理解できるようになってきていたのだ。

 映画ベストキッド(リメイク版)の「ジャケットをかける、ジャケットを下ろす、ジャケットを着る、ジャケットを脱ぐ」のように、師匠に教わってきた一連の動作の中には、確かに理があったのだ。


 我が師匠は異世界のジャッ〇ー・チェンことテニール・レザージャケットだったってことだ。


 うん……めっちゃしょうもないな、俺。


「ん? どうしたんだい、アーカム?」

「いえ、なんでもないです」


 もう一つ変わってきたことがある。

 俺は同じ失敗は2度しない男……を目指す男だ。


 以前の魔法の勉強の失敗したときの苦い経験を糧に、俺は物事へ注ぐ意識を変えることにしたのだ。

 剣だけに没頭するのではなく剣以外のことにも意識を向けてみた……と言うことである。


 ー


 今日はトニースマス。

 今までは、魔法に打ち込んでいてトニースマスを完全に楽しむことができなかったので、今年はこの世界の恒例行事を楽しんでやろうと企んでいる。


 というわけで、シヴァの背に乗ってアディとエヴァと一緒にクルクマの町の中央区にやってきた。


「ぶるぶる、ぶるぶる」

「ねぇ見てアディ、アークがぶるぶる言ってるわ!」

「はは! 確かにぶるぶる言ってるな」

「わふわふっ」


 正直めちゃくちゃ寒い。

 早く家に帰りたい。


 アディやエヴァは特に寒くなさそうだが……あぁ、そういえばそうだ。彼らは火属性式魔術の応用で体をぽかぽかと温かくしていると言ってたな……。

 まったくもって本当に憎たらしい魔法だ。

 俺には決してなびかなかっただけに魔法を操る魔術師全般に嫉妬心が沸くのを抑えられない。


 報復としてキンキンに冷えた手のひらでアディの右手とエヴァの左手を掴む。


「うわっ! 冷たっ!

「ひッ! 冷たっ!」


 うんやはり温かい。

 2人ともなかなかいい反応をするじゃないか。

 自身の手が温かい分、余計冷たく感じるのだろう。

 自分たちだけ魔法を使うからバチが当たったんだ。


「って、なんだ、アークか」

「もう、そういう悪いことする子はこうだ!」


 エヴァはシヴァの上から俺を抱き上げ、ぎゅっと抱きしめてきた。柔らかくていい匂いがする。


「母さん、恥ずかしいです。もう4歳なんですよ。降ろしてください」


 内心で思ってる事とは反して存外に俺はエヴァの抱っこが嫌だった。中身年齢のこともあり、正直、町中で抱っこされるのは恥ずかしいのだ。


「お母さんは恥ずかしくないもんねぇ。まだ4歳なんだからおとなしく抱っこされなさい!」

「うぅうぅうぅ」


 エヴァがうりゃうりゃと頬を擦りつけてくる。

 すごくやわらかいほっぺた。

 よくこんな可愛い生物とうちの親父は結婚できたものだな。

 アディなんかのどこに惹かれたんだよ。


 ー


 町中央の広場へやってきた。


「ここボンレス広場って言うのか」


 毎年トニースマスの夜にはここ来ていたのに、はじめて広場の名前を知った。


 ボンレス広場から見える時計塔をみる。

 時刻はちょうど18時を過ぎたくらい。

 すっかり日も短くなって、この時間帯でも当たりは真っ暗になってしまう。


 だが、ここだけは違う。

 このボンレス広場だけはクルクマの人々が寄り添うことのできる明るく暖かい空間になっているのだ。

 毎年、トニースマスの日にはこの広場はお祭り状態になる。

 エレアラント林森で切られてきたその年最大のウォークの木を飾りつけ、それをトニースマスツリーとして、毎年この広場に設置するからだ。


 松明があちこちに立てられて、ボンレス広場全体を明るく照らし出している。


 今年もなかなか盛り上がっているらしい。

 いいぞ、こういう雰囲気はわりかし好きだ。


「おー、やってますね」

「あぁ、今年も賑わってるな」

「1年って本当あっという間ね」


 この毎年恒例の年末行事は、みんなの心に年の終わりを告げる役割も持っている。


「今年も乗り切った」と喜色の笑みで頷く店の主人。

「1年なんてあっという間だね〜」と笑い合う老夫婦。

「みろよ今年のツリーさ、チン〇みたいじゃね!?」と、とにかく騒ぐ若者たち。


 楽しみ方はそれぞれだ。


 まぁ、一応このトニースマスにも広義の意味はあるっちゃある。

 本来の祭りの意味はノウ・トニーの降誕を祝いましょう、というものなのだ。


 しかし、広場にはそんな聖トニーの降誕を祝う者だけではなく、ただの年末イベントという感覚できている者もいるーーというかほとんどがそうだろう。


 敬虔けいけんなトニー教信徒はこんなところで騒いだりはしていない。

 トニー信徒はこの広場ではなく、教会へおもむく。

 そして、そこで儀式を行うのが彼らにとってトニースマスの過ごし方のつねなのだ。


 大人も子供も、騒ぐ口実が欲しいだけにイベントを活用する。

 まったくもってうち日本と似ているじゃないか。


「あそこで子供達が遊んでるな」


 広場の一角を指差すアディ。


「アーク、お前も混じってきていいぞ? 思えば、お前には友達作る機会なかったんじゃないか? せっかくの機会だし行ってきたらどうだ?」

「友達……ですか」


 俺もう中身は22歳いってるしな。

 正直、友達というかちっちゃい子くらいにしか接することができないと思う。


 それに俺は子供が嫌いだ。

 話の通じない相手というのが嫌なんだ。

 よって返答は決まっている。


「そんなの必要ないですよ。子供相手は疲れるんで」

「お前なぁ。同年代の友達は大事なんだぞ? 一緒に大きくなって……幼馴染って言ってな、共に成長した仲ってのは人生において特別なものになるんだぞ?」


 アディの口から放たれた甘美なる響きが俺の脳を刺激する。

 待ちたまえよアディ。幼馴染って今言わなかった?

 なるほど、そうか、その手があったか!


「ふふ、幼馴染……ですか」

「ん?」

「なるほど……確かに。流石です父上、遥か先の未来を見据えてのご提案。いやはや恐れ入りました……では、わたくしは友達を……いえ、幼馴染を作って参りますので、少々お時間をいただきたく思います」

「お、おう、なんか喋り方おかしいが、どうしたんだいきなり?」

「父上のお言葉に感銘を受けた次第でございます」

「やっぱおかしいよな!?」


 困惑するアディを置いてさっさと、エヴァの抱っこから逃れようともがく。こんなところで抱っこされていては折角の企みも実行できやしない。


「急に態度が変わったのが気になるけど、お友達を作る良い機会よね。さぁ行って来なさいアーク」

「はい、母さん。何かあったらを起動させますので、気にしないでください」


 それだけ言うと、エヴァは俺を降ろしてくれた。


「あと、そうだ、シヴァを連れて行きますね」

「構わないけど……アーク、わかってると思うがシヴァが柴犬だって事は言っちゃダメだぞ?」

「えぇ、もちろんわかっていますよ」


 シヴァを手招きして呼び寄せ、子供達が集まっている広場の一角へ向かう。


 近づいてみて彼らの背後から観察していると、彼らが今何をしているのかがわかった。

 これは……あれだ、雪だるま作りだ。


 雪での遊びとして真っ先に思い浮かぶものの1つ。

 なんとも幼稚な遊びなので、正直なところ参加なんてしたくないが……俺ののためにはこの子供の輪の中に飛び込むことが必要不可欠だろう。


 ただ、子供の輪の入り方など遥か昔に忘れてしまっている。

 さて、第一声はどう声をかけるんだったか。


「……よし」


 数瞬考えて言葉が準備できたところで、子供達の輪へ大人の魔の手を伸ばす。


「Shall we dance!」


 昔どこかで聞いた格好いいフレーズ……完璧だ。

 これほど完璧な切り込み方が、あるだろうか……いや、ない。


「ふぁ?」


 子供達が振り返ってこっちを見てくる。

 それぞれの瞳には突然現れダンスに誘ってきた黒髪少年が写っている事だろう。


 あまりに鮮やかな切り込み方だったので、こいつら切られたことに気がついてないようだ。

 もう手に落ちたも同然よ、ふっふっふ……。


「一緒に遊ぼ!」


 リアクションがいまいち薄いので極力大人の邪気を抑えながら、もう一声をかける。

 もしかしたら言葉が理解できなかったのかもしれないからな。


「あ、なかまに入れてほしいんだね! いーいよ!」

「いいよっ! いっしょにあそぼ!」

「あーそびましょ!」


 女の子たちから元気な返事が返ってきた。


 子供の純粋さとはかくも素晴らしいものだな。

 それじゃその純粋さにあやかって、将来摘み取るための花の種をまく作業に入ろうではないか。


「みんな、何してるのー?」

「これはねー! おしろたててるのー!」


 雪だるまを作る手を止めて快活そうな金髪碧眼の女の子が答えてくれた。

 将来はきっと美人になるだろう、小さい鼻とくりっとした大きな瞳を持っている。


 あ、てか今気がついたがこれ雪だるまじゃなかったわ、これお城だ。


「そっかぁ! お城を建ててるんだねぇ! ふーん、僕はーー」

「わー! おっきいワンちゃんかわいいー!」

「おー! このいぬでかくてかっこいいー!」

「わふわふっ」


 金髪の子に自己紹介ついでに、名前を聞こうとすると、男子達がシヴァを見て騒ぎ始めた。


 あータイミング逃した。

 まぁうん。

 いや、いいんだけどさ。

 別にいいんだよ?

 そのために連れてきたんだしね。

 これも想定内ってことよ!


「あー、その子ね! 僕のワンちゃんなんだよ!」


 気を取り直して、子供達に努めて純粋に応じる。


「そーなんだ! お名前はなんていうのー?」

「その子の名前はシヴァって言うんだよ! ちなみに僕の名前はーー」

「シヴァちゃんって言うんだー! かわいいー! さわりたーい!」

「おれも! さわるー!」

「わたしもさわるー!」


 これはダメだ。流れがよろしくないぞ。

 まずい……が、ここで諦める俺でもない。

 全ては幼馴染フラグ構築計画のため……ッ!


「あー、いいよ。優しく頭を撫でてあげてねー。ほら、シヴァ撫でさせてあげて」

「わふわふっ」

「ありがとー!」

「ありがとなっ!」

「さんきゅー!」

「…….へへ、いいってことよ」


 はいはい、シヴァシヴァシヴァシヴァ……どうせ俺はシヴァのおまけですよ。もう。


 女の子達はシヴァの頭を撫でたりして、男どもは尻尾を引っ張ってみたり、乗っかろうとしてみたり、分厚い毛並みにパンチしてみたりとやりたい放題だ。

 シヴァが困った顔でこちらを見てきている。


 そこまでやっていいとは言ってないのにな。


 おっとと、ダメだぞーアーカム。

 子供相手に少しイライラしてしまったぜ。


 クールに行こうじゃないか。

 そう、俺はクールな男。子供相手に何をイライラしてるんだか。


「すぅーはぁー、よし」

「くぅーん……」


 だが、あれだな、そろそろシヴァもまじで困った顔してるし止めに入った方が良いかもしれない。


「ほら、みんなー。シヴァも困ってるしそろそろお城作りでもしないかい?」

「やだ! この犬もっとさわりたい!」

「まだ、なでてたいー!」

「なんで困ってるってわかるの? ちがうかもしれないじゃん!」


 あれ? 思ったより反発してくる。


「なんでって、そりゃ……困った顔してるっぽくない?」

「へぇ! 犬のこころ読めるんだー、スゴー!」

「困ってないかもしれないじゃん」

「ケチー! もうちょっといいでしょ!」


「……なんだこれ、おかしいぞ」


 ムカつく言い方……てか、話が噛み合わねぇ!


 なんなんだこいつらは。

 俺は別に子供が好きなわけじゃないってのに。

 どつき回したろか。

 クソ。


 将来の幼馴染との恋愛フラグを今のうちに成立させておこうと思ったけど、はやくも心が折れそうだ。


「尻尾を引っ張ったり、パンチしたりしていいなんて言ってないよね? それにシヴァが可哀想だから、もうやめてあげてよ」

「別にいいじゃん! ちょっとくらい」

「へぇー! 犬のこころ読めるんだー! スゴースギィィ!」

「なんで、かわいそうって決めつけるの!」

「困ってないかもしれないじゃんっ!」

「ケチだと背のびないんだよー!」

「おまえ、しんじんのくせに生意気!」

「あっちいけよ!」


「……チッ」


 お前ら正気かッ!?


 子供嫌いの俺にとって子供たちのこの態度はた。


 気づかないうちに堪忍袋の尾が切れてんだもん。

 恐ろしく低い沸点、俺でも見逃しちゃったよ。


「おい、ちょずくなよ、クソガキども。優しく接してりゃ勝手なことばっか言いやがって。シヴァこっちおいで。俺はこれでもシヴァのことを大切な家族と思ってるんだ。たしかに邪な考えで、シヴァを連れてきたことは認めーー」


「はなしながいー!」

「カッコつけてるのぉ?」

「あーワンちゃん行っちゃった!」

「意味わからないー!」

「心読めるんだぁー! スゴスギィィワロタッ!」

「おまえもこどもじゃん! いくつだよ!」

「オレもう7才ー!」


 おいィィイ!最後まで喋らせろよ!

 クソガキがよ!

 殺してやろうかぁぁあっ!?

 しばくぞぉォオ、コラぁあ!


 今この瞬間、俺は子供という生物が嫌いから大嫌いになった。


「え、え、え? ちみ7才なんでしゅかぁー? てか顔きもーすぎぃ。 僕まだ4歳でしゅよ? 年下の子供に顔真っ赤で怒り出すとか、短気すぎて、流石にワロタピーポーじゃね? てか顔きもー」


「なにいってんのかわかんねーよ!」

「おまえ年下かよ! おれたちよりガキじゃん! 生意気!」

「えー! 4才ってこどもじゃん!」

「としうえに逆らっちゃいけないんだよ!」

「おれきもくねーし!」

「かってにはいってこないで!」


「こころ読めるんだぁー! スゴスッぐへぇぁっ!?」


 とっさに出でしまったビンタが心読める系男子児童を直撃する。


「おまえ! やったな!」

「ころしてやるぅ!!」

「いーけないんだ! いけないんだ!」

「い、いたいぃ……」


 ビンタされた男子は涙目でうつむき戦意喪失。

 言葉でわからないのなら体で教えてやるしかないのさ、へへへ。

 俺から手出しちゃったけどこれで喧嘩両成敗ってことにしようじゃないか。既成事実を作ればこっちのもんだぜ。


「かかってきな! ガキども!」


「もうかかってますー!」

「もうかかってるー!」

「はい! かかったー!」


「かかって」という言葉の意味がわからなくなりながらNEW SUPER KAKARU BROTHERESを迎え撃つ。


 まずは向かってきた子供達の大将のような奴だ。

 大きく右手を振りかぶってぶん殴りの構え。


「ヴァカめっ! テレフォンパンチだ」


 止まって見える、というセリフを吐きたくなるようなノロマなパンチじゃないか。

 うん、いいな言ってやるか。


「止まって見えるぞっ!」

「なにィっ!?」


 半身になってテレフォンパンチを軽く避ける。

 通り過ぎる右手首をに軽く左手をそえ、さらに背中を右手で少し押してやることでキ大将の突進力を増加させた。


 するとどうでしょう。

 ベタなセリフを吐きながらガキ大将は俺の後方へすっ転んで行くではありませんか。


「ぶるるるるぐはぁっ!」


 パンチなんか避けなくても俺の「鎧圧がいあつ」を殴らせてやれば、拳なんて簡単に粉砕骨折させてやることもできた。

 しかし、脳の冷静な部分が「それはちょっとやりすぎじゃね? 完全に悪者になっちゃうぜ?」と判断を下したので、今回は手首粉砕コースは無しにしてやったのだ。

 かかるブラザーズ長男には感謝してほしいものだ。


「いってぇぇええ!」


 すっ転んだガキ大将が泣き叫ぶ。


「ぅッ!」

「やばッ!」

「さぁ! まだまだパーティはこれからだ。かかってきなボーイたち! お兄さんが遊んであげよう!」

『ヒィィィイッ! アァァァァッ!』


 俺はかかるブラザース次男と末っ子を鎧圧で怪我させないように慈愛と思いやりを持って、丁寧に転ばせていった。


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