第20話 護のピンチ

 内部に突入し、不気味とエンジンの音だけが要塞の中に響き渡る。他にも敵が居ておかしくはないのに、妙に静かだ。

 長い通路がひたすら続くが、迷うはずのない一本道。何故か、同じ場所をループしている様な気がしてならない。


「神里君、何かおかしくない?」


「妙に静かだね。後、さっきから同じ場所をぐるぐると」


 RPGを良くやっている護には、直ぐにこのからくりが解けた。セオリー通りなら、隠し通路もしくは、隠し階段があると言うが、それを見つける手立てが見つからない。


「私の出番かしらね」


「宮本さんどうしたの?」


 護の言った事をヒントに、仮説が合っていればこの通路は幻か、はたまたどこかに必ず隠し通路か、隠し階段がある筈。


「聖なる光よ、真の姿を今ここに見せたまえ、ライティング!」


 ライティングの魔法は本来は、暗闇を照らす魔法なのだが、詠唱内容により、幻を打ち破ったり、隠れた物をサーチする魔法に変わる。伊織の手から放たれた光が一直線を描き、辺りに光が差し込み出した。


「見つけた」


 光の屈折により、見えなかった隠し通路が壁の横に扉となって現れる。扉を開き、先を急ぐ二人だが、突如天井からゴゴゴッと音を唸らせ壁が降り出し、二人の行く手を阻む。


「宮本さん、走るよ!」


「ちょっと神里君!!」



 無我夢中で伊織の手を取り、このとらっぷを回避して行く、次から次へと天井から降りてくる壁をギリギリ回避しながら。何か手を離したらいけないような、そんな気がしてならない。


 とにかく、ひたすら走った……走ったのだが。

 ガコンッと音が鳴り、床がタラップの様に真っ二つ、咄嗟に伊織の手を離してしまった護、そのまま穴に真っ逆さまに伊織を残して落ちてしまった。


「神里くぅーーん!!」


 伊織の叫びも虚しく届かず、護の返事はなかった。これくらいで、死ぬ筈がないと信じて先を急ぐ伊織。


「まも君、まも君」


「ん? 紫音ちゃん、どうしたの?」


「ほら、これ見てよ、綺麗な貝殻だね、お日様に照らすと虹色に輝くよ」


「うん、本当だ綺麗だね」


 穴に落ちた護は気を失い、夢を見ていた。二次元嫁の紫音と二人で海岸を歩いている。あまり、恋愛シミュレーションゲームをやらない護だが、紫音の清らかな性格と小柄な体型、それを演じる声優の声にドストライク。


「ねぇ、あっちの丘に行ってみようよ」


 夢の中とは言え、二次元のキャラとここまで良い雰囲気になれるものなのか? 護の手を引っ張り、無邪気にはしゃぐ紫音。


「ねぇ紫音ちゃん、急に黙ってどうしたの?」


 丘に着くなり、急に黙り込む紫音。突然護の両肩に手をかけ、紫音らしくない色目を使い出す。


「し、紫音ちゃん?」


「うふふ、まも君永遠に二人きりになろうね」


 両肩に乗っていた腕が次第に、首筋へと回り、護の首を絞めだす。


「や、やめてくれーー!こんなの紫音ちゃんらしくないよーー!!」


「チッ目が覚めたのか……」


「げっお前?」


 夢から覚めると、見慣れない部屋に居た。そこは、妖艶なピンク色の霧を醸かもし出している部屋。そして、目の前には見た事のある魔族、サキュバスが護の前に立ちはだかっている。護が気を失っている間に首を絞めたのは、紛れもなくサキュバスであった。


「うふふーん、アタシ蘇ったのよー。前より綺麗に、そしてセクシーになってね」


「うわっ……ビッチ度MAXだねー」


「はぁっ!? 今そんな口を利けるのぉ? あんたの置かれている状況がわかってないのねぇ……クソ童貞が」


 護の顔を足蹴にし、今の護の状況を見るサキュバス。良く見ると、護が手足を鎖で拘束されている。


「げっ!? お前これ強度が増しているじゃねーか」


「そうよ。ただの鎖じゃないのよ、これは魔封じの鎖。つまり、童貞君は魔法を封じ込められたとさ、アーハッハッハッ」


 動けないだけならまだしも、魔法まで封じ込められた護、もはや絶体絶命のピンチを迎えている。更に護の胸元には、ルービックキューブが鎖で繋がれていた。恐らくこの鎖を解除する鍵と推測した護だが、今はどうする事も出来ない。


 それを良いことに護に近づいては、首筋をペロリと舐めだし、護を弄ぶサキュバス。護をじっくりと痛めつけ、恐怖を植え付ける魂胆だ。


「臭っさーーーお前息臭いぞ。酒くせーーー近寄るなこのビッチが」


「あんたを殺す前祝いにお酒飲んだのぉ許してね……チュッ……てゆーかアタシはお前を許さないけどね」


 護の頬に口づけをし、護のスマホを取り上げたサキュバス。護のプライバシーを除き込む……と言うか護の心が汚されていく。


「なぁにこの美少女恋愛ゲーム、キモーイ、だからはあんたは童貞なのよ。こんな物はねアタシが消してあげるわよ」


 護のスマホにインストールされている美少女恋愛ゲーム、当然このゲームに登場するヒロイン、紫音との思い出がサキュバスによって消されてしまった。

 続いて護が一年かけて育て上げた、オンラインRPGのキャラまでもあっさりと消されてしまう始末。


「どう? 大事な物を失くして絶望した?」


 絶望所か、怒りを覚える護。でも、万が一データ消失した時の復旧パスワードは別途控えているので、その辺は問題ないのだが。

 目の前で苦労と努力? の結晶を踏みにじったサキュバスに倍返しで仕返ししてやると誓いだす。

 先ずはこの状況をどうするか、鎖で繋がれては身動き一つも取れないし、魔法も使えない。


「抵抗したって無駄だからね。あんたの生気を根こそぎ吸い取ってやるんだから」


 酒気を浴びたサキュバスの容赦ない発言、このままだと、本当にヤバい。


「ねぇ、死ぬ前にゲームやらせてよ、これで人生終わりだし、後悔して死ぬのは嫌なんだよな」


 咄嗟に思い付いた発言に、サキュバスは戸惑い出す。どうせ死んだら、アタシの奴隷だし、まぁいいか的に手だけ自由にさせてあげた。


「妙な真似したら、ぶっ殺すから」


「いやぁ優しいね、サキュバスちゃん。惚れちゃうね」


「今頃、アタシの魅力に気づいても遅いからね。三十分だけ猶予をあげるわ、その後はたっぷりイジメてあげる」


 ポイっとスマホを護に投げつける。サキュバスは、前に護に良いように騙され、そして倒された。そのトラウマをまだ引きずっている。


 スマホを片手に、胸元のルービックキューブを眺める護、構造はかなり複雑だが、ルービックキューブと同じ原理なら解き方は同じと睨む。

 刻一刻と制限時間が迫り、サキュバスは護のスマホを取り上げた。


「はぁい、時間切れでちゅよ。覚悟は良いでちゅか?」


 護を赤ん坊扱いし、胸元からナイフを取りだし、切っ先を向け出すサキュバス。


「最後の仕上げ完了」


「な、何?」


 護の胸元にあるルービックキューブが全面揃いだし、鎖が解除された。

 護はスマホでゲームをする振りをしながら、ルービックキューブを解いていたのだった。しかも、サキュバスの目を盗みながらの行動。


「サンダーボルト!!」


 護が直ぐ様サンダーボルトでサキュバスの不意を突き、サキュバスに命中。サキュバスの体が感電して体が動かない。


「さぁてと………やられたらやり返す」


「ちょっとアタシのスマホ返しなさいよ」


 サキュバスからスマホを取り上げ、サキュバスのスマホを除き込む護。サキュバスも恋愛シミュレーションゲームの女の子バージョンをプレイしていた。


「あらぁ、サキュバスちゃんもこんなのやるんだねー意外。二次元の旦那でも居るのかなぁ?」


「ちょっと、勝手に見るなぁー!!」


 スマホを床に叩きつけサキュバスのスマホを破壊した護、それだけ怒りが沸き上がっている証拠でもあった。


「この恨みは俺の怒り……!!」


「よ、よくも、やったわね」


 サキュバスは立ち上がり、護にナイフを突きつけ襲いかかるが、足と羽が護の氷魔法により、凍らされて身動きが取れないでいる。


「こんな物じゃ、済まさねぇ……こうなるなんて予想していなかった。スマホの画面ロックしとけば良かったな」


「くっ………」


「そして、これは………紫音ちゃんの恨みー!」


 怒りを込めて、ファイヤーボールを乱射する護、やがて炎はイレギュラーを起こし嵐となる。


「きゃあぁぁぁっ。ゆ、許して………お願い……」


「ハァッ? 聞こえなーい」


 慈悲もない護の攻撃でサキュバスに逆転勝利。


「紫音ちゃん、仇は取ったよ……」


 先を急ぐ護、早く伊織と合流しなければと、ひたすら要塞の中を突き進む。


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