第19話 いざ、空中要塞へ
空中要塞デッドマンから降注ぐ粉は、ゾンビパウダーと言い、これを浴びた人間はたちまち、ゾンビになると大鏡越しでハーデスが説明する。
「どうやって、あそこへ行こうかしらね……」
悩みに悩み抜くジール、陸路も、海路も当然無理。
「おいっ、一千歳ババァや」
ハーデスが、何か言いたそうにジールを呼ぶ、最初は返事がなく、一千歳ババァと言った矢先に向きになり、ハーデスの問い掛けに応えるが。
「老骨うるさい! 考え事しているんだから、だ・ま・れ」
「あらぁ? そんな事言って良いのぉ? せっかく知恵を授けようと思ったのに」
顔が骸骨なのにニヤニヤと笑いながら、何かを知っている素振り。いいから、答えろとジールも負けじと強要し、鏡越しでの喧嘩が始まる。
「教えてもいいけどぉ……その代わり」
「その代わり?」
………モジモジしながら、顔を赤らめて中々口に出さないハーデス、流石にジールも怒りの拳が繰り出す寸前である。言い合いが収まらず、話が段々路線から外れ、伊織の怒りのハリセンチョップが炸裂。
「喧嘩しないで下さい! 埒があきません。神里君が呆れて、漫画読み出してますよ」
皆護に注目し、護は自分の世界に入り浸る。
ヤバい、この子いつにも増して集中している。話しかけづらい。
「神里君は置いといて。老骨! 早く用件を言え!」
「えっとねー、今売り出し中のグラビアアイドルのDVDが見たいのよ。しかも、この子、チチチチ、乳がでかいのよ。ワシはこの子に、ぱふぱふされるのを想像しながら見たいのよ」
………この老骨エロジジィ、ジールと伊織が思った事の第一声。部下を派遣させ、ハーデスのお望みの物を調達。
「ハァッハァッ………ありがとうね……もう一つお願いが。そこのメガネのお姉ちゃん、ワシ、清純派も好きなの…………お姉ちゃんの写真が欲しいの」
「はいぃーっ!?」
グラビアアイドルだけじゃ物足りず、伊織の写真まで要求するハーデス、当然伊織は反対し、ジールはぶちギレ寸前、護は我関せずとひたすら漫画を読んでいる。
「仕方ないわね……伊織の猫写真を提供するわ」
「えっ? ちょっといつの間に」
前にフロストと戦い、催眠術により猫にされた伊織の写真をジールは隠し撮りしていた。伊織の黒歴史が再び甦るが………。
「ジール様ぁ………ちょっとよろしいですか?」
別室へジールを連れ出す伊織、ドカッバキッズガッと大きい音が鳴り響く。何事もなかった様に伊織が戻り、ジールは顔と体がアザだらけで服がボロボロとなり、調子に乗りすぎたと反省する。
「空を飛べばいいんじゃね?」
すっかり護の存在を忘れていた二人、ボソッと簡単に空を飛べば良いとか言う。ハーデスもそれが言いたかったらしいが、あまりにも焦らすから、ジールと伊織に睨まれ縮こまる。
魔法王国だけあるし、絶対空を飛ぶ乗り物とかある筈だと、護は予想していたのだが。
「乗り物とかそんな物あるわけないじゃない」
「即答かよ………」
ジールが自信満々に即答したが、直ぐ様何かを閃き始めた。
「神里君、前にやった書き取りノート見せて」
色んな事が縦続けに起こり、すっかり書き取りノートの存在を忘れていた。自分の部屋に戻り、ノートを差し出す護。ジールがパラパラとノートを眺め出した。
「神里君、空を自由に飛びたいわよね?」
「………それが何か?」
「ムッフフフーーン、願いを叶えてあげようじゃないの」
護が書き取りしたノートに、空を飛べる魔法エアーボードの魔法、前にジールに一喝され、一時は諦めたこの魔法。こんな所で役に立つ来る日が来るなんて。エアーボードの魔法を覚える為、ジールの部下が何か板の様な物を持ってきた。
「これね、人間界の遊び道具のスケボー。これを二人乗りに改良して、魔力を注ぐの」
何でこんな物を持っている? と言う顔をする護と伊織、スケボーが二人乗りに改良され、ジールは床に魔法陣を描き出す。魔法陣の真ん中に立てと護に指示をし、護に魔法大全集を手渡す。
「エアーボードの魔法が書いてあるページを開きなさい。そして、念じるのよ、空を飛ぶ所をイメージするの」
魔法陣からは光が溢れ出し、護はひたすらに念じていた。
「とりあえず、一時間はそこから出ないでね」
「おいっ待て、トイレとかどうするの?」
聞こえないふりをし、ジールは伊織を連れ、ジブリールの街中でのんびりティータイム。護はこれが終わったら、ジールに何か仕返しをしてやろうと企みだす。
目を瞑り、空を飛ぶ姿を想像中、何か欲しい………一人で飛んでいる姿を想像してもつまらない。
後ろに可愛い女の子を乗せている所を想像しよう。
真っ先に伊織の顔が浮かんでしまった、でも、日頃お小言を言われたり、ハリセンでツッコミ喰らったり………。でも、確かに伊織は可愛い、コキュートスから伊織を助けた時、かなりドキドキした。そして決断した、護の後ろに乗せている女の子を。
「宮本さん、君は確かに可愛いと思う。だが、魔法を完璧に覚える為……ご、ごめん……ここは二次元嫁の紫音ちゃんを選ぶよ」
決して三次元の女の子が嫌いな訳ではない。魔法を覚える為、必死で二次元嫁の紫音ちゃんと楽しい所を想像する。そして、離れた場所にいるのに伊織は何か悪寒を感じた。
「まも君、行こうよ私に見せてよ、まも君の世界を」
「紫音ちゃん、この空の向こうが見てみたい、一緒に行こう………」
「うん、行こうよ」
ふわりとした、ピンク色のボブショートヘアーをなびかせた女の子を後ろに乗せ、護は今空を飛んでいる。
「………紫音ちゃん落とされないようにね」
「うん、まも君の背中温かい………まも君………大好き」
二人の唇が重ね合うその瞬間………パコーーン。
「何やってたの? 神里君」
「えっ? あっいやぁそのぉイメージトレーニングを」
「顔がにやけてて、気持ち悪かったんですけど」
良いムードだったのに、ハリセンチョップをした伊織が戻って来た。伊織が戻り、その時の護の顔が緩みに緩み切っていたと言う。
いつの間にか一時間経過していた、エアーボードの魔法が習得できたのだろうか。
「そのボードに魔力を注ぎ込みなさい」
すぐにジールも姿を現し、スケボーに魔力を注ぎ込む護。エメラルドの輝きを放ちながら、スケボーが宙に浮きだした。護は新たな魔法エアーボードを習得し、願いが叶いめでたしめでたし。ではなくて、早速空中要塞デッドマンに乗り込む準備をする護と伊織。
ゲートで神魔町に戻り、エアーボードの魔法を発動し、いざ大空へ。ぐんぐんと高度が上がり、デッドマンの姿を捕らえた。周りには警備も居なくてあっさりと突入できそうだ。入口らしき場所を見つけ、二人は不気味な雰囲気を出す要塞の内部へ。
「神里君、私は補助系の魔法とかは得意だけど、攻撃魔法はホーリーボールとセイントアローだけだから。火、氷、雷の魔法が使える君に期待する」
「それ、今言うのーー?」
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