空虚な戦い
講和か継戦
その一方は、ノルディン王国の王都を震撼させた。ポスタニアとの交戦、これに、王ヨルダは動揺を隠せずにいた。
派遣した将の中には、息子も居た。そして絶対に交戦はするなと、忠告していたはずなのに、その約束を破ったのだ。
しかし、今は交戦してしまったことを、悔いてもしょうがない。そして、今は何よりも、隣国ポスタニアとの長期的な戦争はなんとも避けたい。
ここは、多少不利な条件を受けてでも、講和会議を開くべきだ。幸い、こちらはあらゆるで勝っているため、なんとか交渉で挽回できる。
それを察したのか、ランの策を見破った臣下が、進言する。
「この時の有事ために、ポスタニアの有力な政治家たちに、賄賂を送ってまいりました。今こそ、それを使うべきかと存じ上げます。」
その言葉に、王ヨルダは唸る。
「私は、実に、優秀な臣下を持っているようだ。お前の先見の明に大いに助けられた。」
「はっ! ありがたき幸せにございます。では、至急ポスタニアの政治家共に、和平交渉へと持ち込むよう、働きかけます。」
すぐに、その臣下は、ポスタニアの首都へ急ぎ向かう。すべては、王とこの国のために、まさに忠臣の鏡である人物であった。
一方のポスタニア国内の政治も、タカ派とハト派、中立派に分かれ、混沌を極めていた。
「我が国は、ノルディンとの全面戦争に踏み切るべきだ! 」
タカ派は強く主張する。
「いえ、我が国は、すぐにでも、ノルディン王国との講和を模索するべきです。今、無益に戦争を拡大するのは、得策ではありません。」
ハト派は、講和会議の開催を提案する。そして、日和見の中立派は、世論の動向に身を任せていた。
会議は続けど、結論は出ずにいた。痺れを切らしたタカ派が、ついに証人喚問の手続きをとり、軍人を証人として、出頭させる。
その人物は、先のポスタニアとノルディンとの戦で、指揮をとりランに面会したあの男であった。
タカ派の政治家が、
「ブルダ将軍、先の戦い、あのノルディン相手に、五分五分に持ち込んだそうじゃないか。」
と言って、先の戦果を発表する。中立派の政治家たちが、
「あのノルディン相手に、五分五分だと! 」
と口々に呟く。中立派は一気に、タカ派に傾くと思っていた。しかし、そこに、ハト派の有力者が待ったをかける!!
「五分五分に、持ち込んだのは、どうやら一人の武が大きかったと聞くが、それは本当かね、ブルダ将軍? 」
そう言って、ブルダに質問を投げかける。ブルダは、重い口を開き、
「それは、本当でございます。まさに、その男は鬼人のような戦い方でありました。」
と自分達の無力さを嘆くように告げる。
「ほぉ、では、その者が我が軍にいるということか? 」
といやらしく聞いてくる。
「・・・いえ、その者は、どこかへ行ってしまいました。」
そう言わざる負えなかった。その解答に、ハト派は追撃してくる。
「一人の武に頼るとは、何事か!! やはり、講和あるのみだ。」
「その者は、何故去ったのだ!! 」
その失態を攻めるが如く、次々にハト派から野次が飛んでくる。しかし、それに臆することなく、ブルダが大きな声をあげる!!
「然るに、その者は計り知れぬ武を持っていると考えまする。しかし、その者に頼らずとも、我が軍は、ノルディンに対して、敵対の意を示し!! 他国にもそれを呼び掛ける必要がございまする。」
と言い放つ。
講和に傾きかけていた場の空気が、一変し戦争の継続に流れが変わる。優れた将には、人を突き動かす何かがある。
その場に居た者たちが、それを否応がなく実感するのであった。
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