平凡な勇者たち

葉っぱ、一枚の成長

 案外、人に物を教えてやるというのも、多少の暇つぶしになる。彼女らは、私の言うことを素直に受け止めて、上達していく。




やはり、私の教え方がうまいからであろうという結論に行き着く。それは、彼女たちも感じとっていた様で、




「なんだか、自分でも信じられないほど、強くなった気がします。」




とリンが呟く。アテナも、




「矢の速度が桁違いに速くなってる・・・。」




と信じられない様子である。




そんな彼女らを見て、私は、




「どれ、今日の締めくくりに、もう一度手合わせするか。」




と最後に、仕合をすることとなった。




先ほどと同じような形式でする。




「はじめ。」




と気の抜けた掛け声と同時に、リンが動く。先ほどの倍を超える速さで、こちらに近づいてくる。




「ほぉ~。」




そして、彼女は、その速さを利用して、刀身を振りかざす。先ほどの一撃の倍の威力が込められる。




しかし、私はそれを葉っぱで受け止める。すると、微小な切り込みが葉に入る。




リンは即座に離れる瞬間、アテナが呟く。




「我、汝に願う。我に力を授けた給へ。」




唱え、光が矢を包む。そして、放たれる。先ほどの倍の速さで向かってくる。私は、小枝の葉っぱでそれを防ぐ。




次の瞬間、リンの紅蓮の斬撃が、私の頭上から振り下ろされる。どうやら、アテナに注意が逸れた瞬間に、詠唱をしていたようだ。




それも葉っぱで受け止める。最後の一撃が途絶えた瞬間、葉っぱが、




『パサッ』




と小枝から、千切れる。




「よくやった。そこまで。」




と感心する。当の本人達は、何がよくやったのか、わからないと言った表情をしている。仕方ないので、私が説明してやる。




「お前たちは、私から、葉っぱを落すことに成功したのだぞ。これは、すごい成長だ。誇れ。」




まだ分からぬ様子だ。




「つまり、葉っぱ一枚分、お前たちは成長したのだ。」




そう言ってやると、当の本人達は、褒められているのか、貶されているのか、わからない複雑な表情であった。




ほどなく習練を終える。いい暇つぶしになったと、満足しながら部屋に戻る。対する、ふたりはぐったりしていた。




まぁ、いきなり、倍以上の力を出したのだから、こうなるのも無理はないな。そんなことより、飯だ飯。そう言って、満身創痍になっている二人を置いていくのであった。




 「あぁ・・・生き返るぅ~~。」




リンが湯船に浸かりながら、そんなことを言う。リンとアテナ、リリスらは、城内に作られた王女専用の大浴場で、疲れを癒していた。






「そんなに、ラン様の習練は過酷でしたの?」




リリスが、少し心配そうに彼女らを見つめ、質問してくる。




「いえ、主のそれは、そこまで大変なものではなく、急に実力以上の力が出たので、それで、身体が参ってしまったのです。」




アテナがそう答える。リンがコクコクと頷き、




「師匠の教え方は、わかりやすくてよかった。あの人、私達が考えている以上に強いと思う。」




そう付け加える。それを聞いて、リリスは、




「さすが、我が旦那様。ますます、好きになります。」




と言い、惚ける。そうして、少女たちの談笑は入浴後も続くの。一方のランは水浴びを済ませ、ガーガーと寝ているのであった。

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