是非もなし
私は、ノルディン軍団の中心に降り立った。そして、その軍団の長に遭遇する。いや、この場合は面会か。
「お主、何者だ。」
王が護衛に囲まれながら、話す。
「そうだな、魔王を倒せし者とでも言おうか。」
私は事実だけを淡々と述べる。
「馬鹿を申すな!!そんなことがあるはずが・・・。」
王はその事実を素直に受け入れることができなかった。あの魔王軍が、こんな若造に倒せるわけがないと頭では否定するが、感情がそれを認めさせようとする。
「して、その魔王を倒せし者が、我に何の用だ。」
「魔王軍はすべて滅ぼした。あとに残るは各地の残党だ。それを滅ぼせば、この世界に平和が訪れるであろうな。手始めに私があそこにいる魔王軍幹部を殺して差し上げよう。」
その言葉に一同が驚く。なにせ、そこにいる魔王幹部は魔王軍の中でも一番の猛将と呼ばれている怪物であった。
そんなことが、人間にできるはずがないと誰もが思った。
しかし、王ヨルダはその言葉を信じてみた。
「その者の首を持ってまいれ。さすれば、なんなりと願いを叶えてしんぜよう。」
その言葉に私は、
「その言葉に二言はないな。」
と確認し、さっそく、そこにいる幹部の城へと乗り込むのであった。
魔王軍きっての猛将と言われるだけあって、先ほどの魔王軍とは違い、少し強そうに見えるが、私にとってはそんなに大して変わりなかった。
大鬼たちが一斉に私に襲いかかってくる。皆、血に飢えた面構えをしている。その荒くれる獣どもを「黒炭」で次々と顔を破壊していく。血の華が、そこに咲き散る。
その一瞬の美しくも儚い姿に、私はもっと見たいと渇望する。大鬼たちが死に物狂いで突進してくる。
「ウヴァアアアアアアアアアアア!!!」
大鬼たちの顔に恐怖と狂気が入り乱れる。実にいい、実にいい顔をしている。その顔を「黒炭」は次々と華に変えていく。大鬼たちの顔は段々と恐怖の色に染まりあがっていく。
そして、恐怖に震えあがったまま、自分の胴体を見るのであった。最後の一匹を華に変えた時には、一面に血の花弁が咲き乱れていた。
我ながら、良作と思いながら、この光景を「鬼の華」と名付ける。ゆらりゆらりと猛者が待つ。階へと足を進めるのであった。
扉を開けたその先には、ひどく怯えながらも荒々しく立つ鬼の姿がそこにあった。
「汝、何者だ。」
と鬼は問うてくる。
「人なり。」
そう答えると、
「馬鹿なことを申すな、汝は人の子にあらず、そしてこの世の者にもあらず。」
と言い返してくる。
「では、問う。我は何ぞや。」
その問いに鬼は、
「外道なり。」
と吐き捨てる。しかし、その目には諦めと強い生への執着心が入り乱れていた。
「では、参る。」
そう鬼は言い放ち、渾身の力で棍棒を振りきる。無情にも「黒炭」がそれを防ぐ。
鬼の意志とは無関係に棍棒が手から離れる。その瞬間、鬼は悟る。その顔は、何の未練もない顔であった。
私は一言、鬼に語りかけ華を咲かす。
「是非もなし。」
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