主人公、同行者とこれからについての話をする 2-2
――今回の話において本題と呼べるものはふたつある。
ひとつは、彼が城から立ち去る際に残した書き置きについてであり。
もうひとつは、彼が私の同行を本当に了承してくれるかどうかの判断についてであった。
昨日の時点で、どちらの件についても色よい返事を貰えたと認識しているし。彼がこうして約束した通りに姿を現していることからも、この認識に間違いはないのだろうと、そう思ってはいた。
だから、今日は彼の気が変わっていないことを確認するだけの、ある意味では気楽な話し合いでしかない――はずだったのだけれど。
「――――」
いざ話を始めようとしたところで、最初の一言がうまく出てこない自分がいた。
「……?」
彼がこちらの様子に純粋な疑問符を浮かべる姿が見えて、焦る気持ちもあったのに、それでも言葉は出てこなかった。
「……っ」
一息。彼から視線を外して奥歯を噛み、焦り逸る自分をすり潰してから思考を回す。
なぜ言葉が出てこないのか、その理由について考えるために、だ。
――そして、少し考えると思い当たるものがすぐに出てきた。
その理由とは単純で。
現状が私にとって都合のいい方向に進みすぎていることに、釈然としない気持ちがあったからだった。
……この感覚は、どう表現したらいいのかしらね。
物事が自分にとって都合の良い方向に進むのは、決して悪いことではない。
ただ、そこに"他人"と"利害関係"という要素が加わると、ことがうまく回りすぎる状況にわずかな――しかし拭いがたい不安や疑心が、頭の片隅にちらついて離れてくれなくなるのだ。
そうして芽生えた不安と疑心が、状況を進めることへの躊躇いとなって言葉を出なくさせているのだろう――
「…………」
――と、そこまで思考が進んだところで、溜め息を吐いて思索を中断した。
この感覚が間違っているものとは思わないが、それが杞憂であるかどうかを今判断することは難しいことだったからだ。
そしてそうであれば、今出来ることは状況に流されるままにならないように、思考を止めず、注意を続けることだけだ。
……だったら、それだけを忘れないようにして話を進めましょう。
自分に言い聞かせるようにそんな言葉を思っていると、
「……調子が悪いのであれば、日を改めてもいいぞ」
先ほどからこちらの様子を伺うような視線を向けていた彼から、そんな言葉が飛んできた。
……どこまで人がいいんだか。
そう思い、これ以上の借りは作れないでしょう、と自分へ向けた言葉を内心で追加してから言う。
「いいえ、その必要はないわ。
――単に、どの話から先に始めようかなって、考えていただけだから」
こちらの演技やごまかしが、彼にどれだけ通用するものなのかは微妙なところではあったけれど。
ここは素直に心中を吐露していい場面ではないのだから、そう言う以外に選択肢はなかった。
彼はこちらの言葉を受けて、少し考えるような間を置くように、じっとこちらを見つめていたが、
「……まぁいいさ。話を続けると言うなら付き合うだけだ。
あんたの好きなように話を進めればいい。
都合が悪ければ勝手に口を挟むとしよう」
そう言って、こちらから視線を外して溜め息を吐くだけだった。
だから言う。
「ええ、それで構わないわ。
――それじゃあ、まずはあなたが残した書き置きに関する話から始めましょうか」
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