大人になるということ
「じゃあ、先輩。お先に失礼します」
「えぇ、お疲れ様。気をつけてね」
夜の帰り道の春風は、生温くてふわふわとあたまにまとわりつくようだった。空ばかり見つめていたら家についた。
鍵穴を回すと玄関はしまった。もう一度鍵を回し、玄関を開けるとその先の狭い土間には父の靴はなかった。パチンコにでも行っているのだろうか。
リビングに入ると部屋には白くモヤがかかっていた。付けっぱなしのテレビ番組ではゴールデンタイムで人気のクイズ番組を放送している。
今夜はリビングの煙を吸い込んでも、不思議と不快ではなかった。父がダイニングのテーブルに置いていったタバコのケースを手に取る。先輩と同じ銘柄だったのか。
「先輩、趣味が渋いな」
気がつけばテレビ番組は深夜のニュース番組をお届けしている。
不意に父のタバコを一本取り出した。
人生で初めて吸ったタバコは、煙でいっぱいの肺にすんなり吸い込まれていった。
それがなんだか悲しくなって笑った。
タバコ みどり @kiki3_rara
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