第47話 体験!カウンセリング

 科学の道本部の入り口をくぐると、左側に受付があった。一階の一番奥には陽子が送ってきたあのマークが大きく飾られており、左右には扉が並んでいる。カウンセリングルームだろうか。済は受付の女性に声を掛けた。


「あの、あそこに無料カウンセリングと書いてあったんですが。ちょっと興味がありまして。」

「カウンセリングですね。三十分ほどかかりますが、大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。」

「それでは、こちらへどうぞ。」


 そう言うと、受付の女性は一階に並ぶ部屋の一つへ済を案内した。やはりここがカウンセリングルームだったようだ。部屋は人が五人も入れば一杯になるくらいの広さで、テーブルが一つと、椅子が二脚置かれているだけの殺風景なものだ。警察の取り調べ部屋のようにも見える。それにしても、一階には受付の女性しか人影が見当たらない。ちゃんと信者はいるのだろうか?


「それでは、しばらくお待ちください。」


 そう言って受付の女性が出ていくと、しばらくして痩せた中年男性が電圧計のような器具を持って入ってきた。これが噂のEメーターか。独立したとは言え、サイエンス・ムーブメントとほぼ同じカウンセリングをしているように見えるが、訴えられないのだろうか?まあ、小さな団体なので黙認されている可能性はある。


「はじめまして。科学の道でカウンセラーをやっております吉野と申します。カウンセリングを申し込まれたとのことで、今日はよろしくお願いします。まず状態の確認ですが、今空腹だったり、寝不足だったりしますか?あるいは昨夜結構な量の飲酒をしたとか。」

「いえ、特にそういったことはないです。」

「分かりました。では始めていきましょう。椅子に深く腰掛けてください。そうしましたら、この電極を握って下さい。これはEメーターと言いまして、あなたの心の動きを読み取るものです。ゆっくり呼吸をして、肩の力を抜いていきましょう。」


 吉野は単一電池ほどの太さがあるEメーターの電極を二本、両手に握らせた後、済をリラックスさせる段階に入った。心の動きを読み取ると言っていたが、これは恐らく、昔からあるウソ発見器と同じ原理だろう。警察の本格的なポリグラフでは呼吸や心拍なども測定しているが、市販のおもちゃで見ているのはほぼ手汗と言って良い。人間は緊張すると手に汗をかくことが知られている。このため、ウソを吐いた時には手に汗が分泌されることで電気抵抗が減る。これによって電極が振れるというわけだ。


 吉野はゆっくりと済に話しかける。


「段々とリラックスしていきましたね。今日はカウンセリングにご興味がおありということでしたが、何か悩みはありますか?」

「そうですね、上司が高圧的な人に変わっちゃったんですが、なかなか合わなくて。上から一方的に言われるとモチベーション下がっちゃうんですよね。」

「なるほど、それは大変ですね。うまくいかないのは、もしかしたらあなたの過去に原因があるのかもしれません。子供の頃に似たような経験はありましたか?過去に戻ってみましょう……十年前……二十年前……ほら、今は小学生時代です。」

「うーん、そういえば親から理不尽に怒られたことがあったような……。」

「今、Eメーターが振れました。このあたりに何か強い思いがありそうです。もう少し思い出してみましょう。」

「友達に自転車を貸してたら鍵がなくなってたことがあって、親がそれを僕がなくしたんだって怒ってきたことがありましたねえそういえば……。」

「それは辛かったですね……。あなたはその時どう感じましたか……?」


 科学の道のカウンセリングは、退行催眠とまではいかないものの、今の悩みの原因を過去に遡って調べていくものだった。カウンセリングのスタイルもほぼサイエンス・ムーブメントと同じようだ。こんな調子で子供時代の記憶をほじくり返されること三十分。原因が分かったような分からなかったような調子でカウンセリングは終了した。


 済は途中から(というかこれ、ほとんどの場合親の育て方が原因という結論になるんじゃ?どう考えても上司がサイコパスなのが原因なんだけど。)と思っていたが、潜入のことを考え、それとなく話を合わせていた。


「悩みの原因に近いところまで行けたようですね。ご興味ありましたら、是非また連絡下さい。ウェブのフォームからも問い合わせできますし、私の名刺に書いてあるメールアドレスにご連絡頂いても大丈夫です。」

「ありがとうございます。ところでここ、入会とかってあるんですか?」

「ありますよ。私ども科学の道では、カウンセリングを重ね、また施術を行う側に回ることで『クリア』な状態を目指すことができると考えています。もし良ければこのあと説明しますよ。」

「是非よろしくお願いします。」


 こうして済は、入会説明を受けることになった。

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