第15話 聞き込みで分かった、危険な集団の真相

 翌日から、済は退社後の時間を利用し、オフ会で取ったメモを整理していった。この結果分かった「サークル」の姿は、以下のようなものだ。


 まず、サークルの会員から街コンや交流会で声を掛けられ、連絡先を交換すると、彼らの勧誘リストに入れられる。会員はこの勧誘リストに従って次の食事の約束をする。これを「アポを取る」と言う。その後何度か食事やパーティーに誘い、今持っている不満や将来の夢を聞き出す。聞き出した内容は、毎日LINEで師匠に送られている。


 ある程度仲良くなり、現状への強い不満や起業願望を持っていそうな場合は師匠に紹介する。そこから何度も師匠に会わせ、夢を叶えるためには資金が必要であり、それを稼ぐには起業しなければならないという考え方に染めていく。済はここで激怒してしまったために、次の勧誘ステージに辿り着かなかったのだった。また、ブラック企業に入ってしまったために現状への不満をぶちまけ、勧誘のターゲットにされる人が多い。


 洗脳が完了すると、自分達は起業のための勉強団体である、ここに入れば夢が叶うと言って入会させる。ニューステージ時代はここでマルチ商法であることを明かしていたようだ。入会するとまず、土日のセミナーへの参加が義務付けられる。これはコミュニケーションや人生についての「正しい」考え方、飲み会を運営して稼ぐ方法などを学ぶセミナーで、済からすると新入社員が受ける程度の内容だった。しかし、サークルの会員はこれを指して「経営の勉強」と言っている。このため、真面目に経営学の勉強をしている人とは話が噛み合わない。セミナーでは「自分が源」、「過去は生ゴミ」といったフレーズを学ぶのが会員間でのあるあるネタとなっており、この言葉を知っているかどうかで、おおよそ会員かどうかの判別が付くという。一ヶ月でセミナーのカリキュラムは一周するが、以降内容は変わらないにも関わらず通い続けなければならない。この結果、彼らが実際に行っているのは「チームビルディング」で、先に仲間を集めておけば店を開いてからも一定の顧客が見込めるという、まるで互助会のような考え方だった。確かに店の立ち上げよりも前に顧客を集める行為を経営と言ってしまえば、彼らの活動を経営の勉強と呼んでもおかしくはないかもしれないが、無理がある印象は拭えない。


 巧妙なのは、入会した段階でもまだ組織の本当の姿を教えてもらえないことだ。入会して三ヶ月経つと、初めて「自己投資」について告げられる。自己投資とは、師匠の店からの買い込みのことで、月十五万円分のサプリメントを買い込むこととなる。建前としては健康への投資や、今のうちから大きな金を動かす訓練をするためだが、要はこれが師匠の主な収入源である。さらに紹介者にはマイルが入ることになるが、これは買い込みの相殺に使えるポイントを指している。つまり、マルチ商法とは異なり現金が還元されることはない。自己投資は一応強制ではないが、周囲の雰囲気から買い込みを行ってしまう会員が多いのが現実だ。ここで疑問が沸く。二十代の若者が多いサークルで、月十五万円もサプリを購入していたら、普通は生活が成り立たないのではないか?どうやって生活を成り立たせているかといえば、多くの人はダブルワークをしている。男性は居酒屋、女性は風俗が多いという。それでも足りずにサラ金に手を出してしまう人もおり、多重債務者を生み出してしまう。このあたりで一気に闇が深くなる。仕事との関係についてはもう一つ情報があり、残業の多い正社員の仕事では勧誘がままならないからと、残業の少ない派遣の仕事や、師匠の店への転職を勧められ、実際に応じてしまう人も多い。このため、入会前に想定していたキャリアとは全く異なるキャリアを半ばマインドコントロールされた状態で歩まされてしまい、脱会してから後悔することになる。


 自己投資を三ヶ月続けていると共に一人暮らしで、土日に時間が取れるという条件を満たすと、さらに次のステージに進む。毎月幕張メッセで行われる「全国会議」というイベントへの参加が義務付けられるのだ。参加費は一万円で、土日の両方を使って行われる。これについては毎回違うゲストを呼んだり、サークルトップのありがたいお話があったりするので若干ながら内容は異なっている。ここでは自己投資十五万円を達成した会員や、新規勧誘に成功した会員の表彰が行われ、独特の高揚感があるそうだ。


 こうした日々を送り、自分の直下に毎月十五万自己投資してくれる仲間を九人集め、配下全体で五十人のチームを作り上げると、めでたく起業が許可される。起業といっても内容はほぼ決まっており、「株式会社 販売」の製品や、その他オーガニック製品を売る店舗を出すこととなる。ところがこの条件をクリアするのはかなり難しく、ほとんどの人が体力の限界に来たり、借金を重ねてやめていく。


 まとめてみて分かったのが、この組織は、末端会員が一般企業やサラ金から稼いできた金を内部に還流し、上位者に分配していく仕組みになっていることだ。最初は互助会に見えたが、十五万を師匠の店で使うのがメインな上、起業できる人も滅多にいないため結局は金が下から上へと流れることになる。外部から資金を吸い込む様子はまるで暴力団のフロント企業か、新興宗教の企業集団のようだ。結局はマルチ商法によく似たシステムだが、頑張って労働した結果還元されるのは組織内で使えるマイル……。済は某賭博黙示録に出てくるペ○カを思い出した。しかも、夢と起業をエサに、自らのキャリアさえ師匠に操られてしまう。浮かび上がってきたサークルの姿は、実に恐ろしいものだった。完全なる搾取システムだ。これを考えた人間はサイコパスではないだろうか。


 済はさらに、この集団と自己啓発セミナーとの関係についてもまとめてみた。

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