第6話 晒し攻撃砲、炸裂

 新城が入里の団体から分派した団体の代表を務めていることを知った済は、久しぶりにメッセージを送った。


「新城久しぶり、新城って確か高専生団体の代表やってたよね?ちょっと知り合いの高専生にマルチ商法やってる奴がいて相談したいんだけどさ。」

「あー、もしかしてニューリ?」

「何だ、知ってたのか。」

「直接勧誘されたわけじゃないけど、ある時期からやたらと『日本人はお金の知識がないから皆サラリーマンになっちゃう。自分でお金を稼ぐ方向に行かないと駄目なのよ。』とか強引に言うようになってさ。ほら、高専出身者って起業してる奴もいるけど、大手メーカーで働いてる奴のほうが多いだろ。それで周りの奴をディスるもんだから煙たがられちゃったわけ。俺も起業とか新しい働き方に興味はあったけど、違う考えの人を排除したら駄目だろって思って、一回問い詰めてみたんだよ。そしたら大喧嘩になったんだけど、周りに信者みたいな取り巻きの奴らがいるわけ。それで色々聞いてみたら、マルチの勧誘を団体内部でやってたみたいで、こりゃ駄目だと思って別の団体を立ち上げたんだよね。」

「なるほどそういうことだったのか。いや、俺のところにもえらく選民主義的なコメントをしてきてさ、色々辿ったらマルチやってたことが分かったわけよ。証拠も押さえてある。」

「そういうことだったのか。あいつ元からちょっと変わったとこあったんだけど、まさかマルチに洗脳されるとはなー。めちゃめちゃ失礼なことを言いまくってたから、こっちの団体にも鬱憤溜まってる奴多いんだよな実は。」

「それでちょっと相談があるんだけど、今日これから『お前マルチやってるんだろ?』ってFacebookで晒そうと思ってるんよ。で、相手の反応によっては誕生日コメントでマルチの警鐘を鳴らしたいんだけど、手伝ってくれないか?あいつ、誕生日公開してるから誰でもコメントできる状態になってるんだよね。『友達が聞いたんですけど、本当なんですか?やめたほうがいいですよ。』みたいなスタンスだったら中傷っぽくもならないだろ?」

「ほほう、済らしい悪い思いつきだな。まあ自由参加な感じでこっちの団体に声掛けてみるわ。全部で五百人くらいいるから、五十人くらいは反応してくれるんじゃね?」

「ありがとう、それじゃ今からコメントするから様子を見ててくれ。」


 約束を取り付けた済は、早速コメント作成に取り掛かった。Facebookなのであまり過激なコメントはできない。あくまでも常識的に、こんなコメントをした。


「凄く良い活動をされてるようなので、参考までにちらりと見てみたんですが、もしかしてあなた、NatureVantageっていうマルチ商法の会員ですか?こういうの困りますよ。過去に薬機法違反で処分されてるし、被害者の会もあるじゃないですか。僕を馬鹿にした割にはあなたも随分ですね。残念ながら危ないマルチの人と関わってるわけにはいきません。ブロックします。それから共通の友人にも告知しときますので、そのつもりで。」


「ちらりと」と書いたが勿論そんなわけはない。吉井と四時間近く掛けて頑張った結果だ。吉井とメッセンジャーで軽口を叩きしながら入里の反応を待つ。Facebookでリアルの知り合いを前に軽い晒し行為をやっているわけで、頭は平静なものの、マウスを持つ手は軽く震えていた。三十分ほど待っていると、入里からこんなコメントが付いた。


「人をマルチ呼ばわりとかひどくないですか?証拠でもあるんですか?」


 済は小さく「よっしゃ!」と叫び、ビールを流し込んだ。こちらの作戦通りである。スクリーンショットを吉井とのメッセンジャーグループに貼り、メッセージを送る。


「ヨッさん、いよいよ来たぞ!」

「こいつ随分素直な反応するなあ笑 こうきたらもう、アレを出すしかないな!」

「そう、アレをな!」


 軽く深呼吸した後にマウスを握る。文面と画像を準備し、入里にコメントを返した。


「えっ?じゃあこの投稿は何なんですか!?」


 コメントには確定的証拠となった、アメリカ行きの投稿のスクリーンショットを添付した。これにはさすがに相手も驚いたのか、次の返信がくるまでにはしばらく時間が掛かった。午前中に買い、冷蔵庫に入れておいたスミノフを飲みながら、十五分程待っただろうか。ようやくコメントが付いた。


「私が成功してるからって羨ましいんですか?人の成功を邪魔するなんてあなた本当にクズですね!こんなの全然痛くないし、他の人に言いふらしてもらっても構いません!私は何をされても折れません。あなたとは違って他にも沢山友人がいますので。」


 ここまで来ても相手を見下すコメントしかできないとは、つくづく選民思想に毒されている奴は厄介だな、というかマルチやってることについては言及しないんかい、そう思いながら済は最後のコメントを書いた。


「ええそうですね!僕はクズですねー、まあでも人間なんて皆クズなんだしそれでいいんじゃないですかね。それより、言いふらして本当にいいんですね?本当に、いいんですね?」


 お前は戦争開始の狼煙を上げてしまったんだぞ、という意味を込めて念押しをしたが、この後入里から返信は来なかった。結局再度入里から喧嘩を売られた格好になったため、済は新城にメッセージを送った。


「コメント見てたと思うけど、反省の色が全くないし喧嘩を売ってきてるな。こりゃ駄目だ。」

「全く、洗脳されてる奴は仕方がないな、よし、今夜仲間に呼びかけてみるわ。作戦開始は四月十三日零時だな。」

「よろしく頼む。」


 その日は特定作業でかなり疲れていたこともあり、吉井と何度か特定の余韻に浸るメッセージのやりとりをすると、すぐに深い眠りに落ちた。


 攻撃開始は次の土曜日。済は週末を心待ちにしながら仕事に励んだ。

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