第14話.踊るピエロその3

「デルタ、次はメス共を──」


「──行かせん」


背後でカルマンが戦っているのだろう、激しい銃撃音が響き渡っている……それをバックに既にこちらを倒した気になりリーシャ達の所へと向かおうとする奴の足首を掴む。


「……死に損ないが、まだ抗うか」


「……お前ら如きを通すほど、彼女たちの『価値』は安くはないんでな」


人殺しはしたくはないくせに俺たち魔法使いを人間とは認めない、コイツを……彼女たちの最期の別れすら認めないコイツらを……行かせて堪るものかと、そのまま紅く強化された腕で奴の足首を握り潰す。


「がァァァアッ?!! 貴様ァァァァァア!!!!」


「ぶぅっ?!」


激昴した奴に顔面を膝で蹴りつけられるが絶対にこの手を離してなるものか……無詠唱の魔法で応急処置を施し、一応出血は止まってはいるが傷が塞がっている訳でもなく、血も結構な量が出たために少しフラついてしまう。


「絶対に殺す! メス共も犯して嬲って辱めて殺してやる! 《蒼き復讐の誓いア・マァーダァ・ラバー》!」


「『我が願いの対価は偲ぶ蓮華 望むは悪意からの守護』!」


右肩や左の太ももにスナイパーライフルからの狙撃を受けながら、魔法で障壁を張って奴の強烈な一撃を真っ向から受け止めながら無理やり立ち上がりその首を掴む。


「がッ?! 穢れた大地の手で触れるんじゃない、化け物がぁ!」


「ぐぅぅうっ?!」


こちらの腕を離そうと長剣を脚に突き刺され貫かれる。後方から今もスナイパーライフルから狙撃されている……幸いな事にこの男と重なっている急所が狙われないのは運が良かった。


「お前の主義も主張も思想すら要らん……ただ俺の『願望彼女たちの最期』の為の『対価』となって貰う」


「ふ、ふざけるなぁ?!!」


リーシャはコミュ障だ、酷すぎて偶にもどかしい想いを抱く事もあるが頼りになるし真面目で芯の通った良い娘だ。


「『我が願いの対価はこの身に流るる血と人一人 望むは邪魔者を屈服させる暴力──』」


「っ?! 貴様正気か?! 敵対する人間を対価にするなど、自らに取り込むなど!!」


レティシャは見栄っ張りだ、高圧的で偉そうにしなければ人とマトモに会話する事が難しい面倒くさい奴だが人の悲しみに泣ける良い娘だ。


「『──僕が安らかに見守る君 望むのは笑顔の大団円──』」


「ァァァァァア!!!! クソガァァァァァァァア!!!! 絶対に許さん! お前の中で! お前の魂を! 精神を! 内側から掻き乱して喰い破ってやるからなァ??!!!」


ミーナは情緒不安定だ、いつ完全な魔物になるか分からないくらいだが自身の境遇を理解しても悲観しない強い娘だ、なによりもその絵の才能は何者にも替え難い。


「小隊長!」


「『──それを穢す獣 邪魔をするな 消し飛ばす 僕の大事な物だ 触れるな』」


「いいかァ?! 絶対にお前の中でお前を殺す! お前の手で大事な物を奪ってやる! お前たち魔法使いに奪われた俺の恋人と同じ目に! 貴様の手で! 遭わせてやる!!」


猟犬を槍に切り替えながら後方の狩人が駆けてくのを視界の隅で捉えながら無視する……小隊長であろう男が喚いているがそれも知らん、そんな些事で結末は変わらない……ミーナという幼い少女から両親を、未来を、友人を奪おうとする貴様らなんかに配慮は要らない!!


「絶対に後悔させてやる! いいんだなァ?!」


「これでいいんだよ!! これでぇえ!! 『羊飼いは狼からトゥ・スレイ・子羊を護るア・ウォルフ』!!」


俺の内側から掻き乱して喰い破るだと? 既に何人も先住民が居るんだ、今さらお前如きが増えたところで一向に構わん! 僕の中には頼れる兄のディンゴや子ども好きのおじいちゃんだっているんだからな!


「……地獄に落ちろ化け物め」


「……死ねよ駄犬」


自身から流れ出た血液とそれを浴び、さらには直接首を掴んで触れている事で魔力を邪魔するものはない目の前の男を対価に魔法を発動する……流れ落ち雪に染み込んだ血液が光の粒子となって散り、目の前の男は紅黒い帯となって身体が解けていく。


「小隊ちょ──」


『──』


自身の血液のみならず生きた人という大きな『価値』を『対価』として魔法を発動する……黄色透明の無表情で素朴な青年が自身の背後に現れその手で狩人を一人握り潰し、飲み込んでしまう。


『──』


そのまま青年はリーシャ達がいる方角を向き一数拍置いてその身を光の粒子へと解けさせ、彼女たちの所へと飛んで行ってしまう……おそらく守護しに行ったのだろう、そうでなくては困る……そう『願って』から魔法を発動したのだから。


「ごふっ……!」


少し、無理をし過ぎたか……まだまだ魔法使いとしては新参者の癖に狩人を一度に二人も相手取るなど正気の沙汰ではないからな。


「……カルマン、無事か?」


余力を振り絞り、なんとか近くの岩にもたれ掛かり、カルマンが居た方角を振り向けば彼も雪の降り積もった大地に新たな赤の軌跡を残して木にもたれ掛かったところだった。


「げほっ……『我が願いの対価は五万ベルン 望むはアイツの両鼓膜 金は払う きちんと仕事しろ 移植は綺麗にな』」


どうやら鼓膜がやられていたのか『対価』として捧げたのか知らんが機能しなくなっていたらしい……それを自身が倒した狩人の死体から奪い、移植した様だ。


「……後はアイツらが帰るのを待つだけだな」


「……そうだな、大変だった」


「全くだぜ、お陰で散財しちまった……後で請求しなきゃな」


「ふっ……ほどほどにな」


相変わらずブレないなコイツは……だがまぁ、軽口が叩けるくらいには深刻な状態では無いのだろう、その事実に対して安堵する。


「……上手く別れられているかな?」


「……ハッ! 知らねぇよ、失敗してたら追加料金だ」


僕は残り少ない供物を使って自身の回復に努めながら、カルマンとミーナとの最期の別れを終わらせた彼女たちの帰りを待つ……あぁ、彼女たちの代わりにミーナを殺す事は出来そうにないな。


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