第2話.暗殺依頼

「うっ……ぐすっ…………(コクッ」


「……落ち着いたか?」


あれから約十分ほど大声で泣き続けてからレティシャはようやく落ち着いてきたようでこちらの確認に対して素直に小さくだが頷いてみせる。


「ふん……な、泣き止んで……あ、あげたんだからっ……感謝しな、さいよね……!」


「……あぁ、感謝する」


泣き止んだと思ったらまた高圧的な……でもこれを指摘するとまた泣くと思うと上手く合わせていくしか無いのか? 絶対普通にした方が良いと思うんだがな?


「時間が掛かりすぎ、五〇万ベルン」


「お前は黙ってろ」


「暴言により精神的苦痛、慰謝料二〇〇万ベルン」


「……」


コイツもブレないな……カルマンの恐ろしいところは何も冗談やキャラ付けではなく本気で俺が払うべきだと思っているところだろうか? 今も正式な書類を用意して請求書を作成していやがる。


「おぉ居った居った、どうやら揃っておるようじゃの?」


「……遅せぇよクソジジィ」


「セ、セブルス様?!」


「本物だ……」


背後から師匠ジジィに話しかけられレティシャが驚いて飛び上がり、カルマンは静かに呟くが……そういや師匠ジジィは割と有名人で奈落の底アバドンの重鎮でもあったな? 自分はそうは思わないが、一般的な魔法使いからしたら憧れの人なんだろうか? ……想像できん。


「まったく、小僧もこの二人を見習わんか」


「今さら過ぎる……」


「かぁっー、本当に年寄りに対する敬意がなっとらん」


「唐変木に捧げる敬意などない」


どうせまたくだらないことを企んでいるんだろう? この前だって『リーシャはそんなに人付き合い苦手なのか?』とか言っていきなり目の前に転移して来やがって……あの後目を見開いたまま気絶したリーシャを介抱するの大変だったんだぞ?


「……それで? リーシャはいつ目覚めるんじゃ?」


「……多分もうすぐだと思う」


「……ぁっ」


「目覚めたな」


師匠ジジィとくだらない会話をしている間に丁度タイミング良くリーシャが目覚める……まだ状況の推移に着いていけてないようだが師匠ジジィの姿を認めて背筋を真っ直ぐと伸ばして目を逸らす……逸らすのはもう仕方ないな。


「まぁよい、本題に入るぞ?」


「あぁ」


「……(コクッ」


「五〇〇ベルン……初回割引でタダでいいです」


「仕方ないから話を聞いてあげなくも……なくも……聞きます(ボソッ」


コイツら……リーシャは相変わらず視線を向けず頷くのみで、カルマンは料金を請求しようとして相手が不味いと思ったのか自分なりに納得する理由をつけて取り下げ、レティシャはもうどうして良いのかわかってないな。


「本当に大丈夫かや?」


「こっちが聞きたい」


「まぁよい、詳細はこの依頼票に書いてあるが今回の依頼は貴族の暗殺じゃ」


「……暗殺?」


なんで魔法使いである俺たちが貴族の暗殺をしなければならない? これが街に紛れ込んだ魔物を探し出しての討伐ならばまだわかるが……そんな仕事をこなせる人材はレナリア帝国にはいくらでもいるだろう?


「その貴族家の先代が残した妾腹でな、半分はガナン人だ」


「? 監視付きにするなり、俺たちで引き取るなりあると思うが?」


いくら妾腹で半分はガナン人と言っても貴族の血を引いている事には変わりはないし、それこそ監視付きにするか自分たちで殺せば良い……俺たちも暗殺せず引き取るという手段があると思うのだが。


「その子どもは魔力は持っていたが扱う事は出来なくてな、半分魔物となりかけて居るらしい……そんな半端者はこっちで引き取るほどの『価値』もないという事じゃ」


「……そうか」


魔物になる前兆があり、魔法使いとしても……いや、魔法使いにもなれないのなら人間でなくなる前に殺してあげた方が良いのかも知れんな……その子どもにとって部外者である俺が決める事ではないかも知れんが。


「では、自分たちで処分しない理由は?」


「知らん」


「おい」


「あー、同じレナリア人を殺す事に忌避がある、全ての原因をガナン人に擦り付けたい、まぁ色々考えられるんじゃけどな」


そうか、レナリア人貴族が魔物に成りかけているのもそれを同じレナリア人が殺す事も外聞が悪いという事か……そしてそれを俺たち魔法使いに暗殺させる事で全て解決すると。


「一番可能性が高いのが罠じゃな」


「罠?」


「たまーに使われる手でな? 自分たちで依頼を出しておいて、待ち伏せさせた狩人や機士に襲わせるんじゃよ」


なるほど、それが一番しっくり来そうだ。俺たちに暗殺させた後で仕留める事が出来れば外聞の問題もなくなり、敵対する奈落の底アバドンの戦力を削れ、レナリア人を魔物に変えた魔法使いを討ったと国民に宣伝する事でアピールもできる。


「特に今回の依頼場所が帝都じゃからな、いくらでも罠の準備はできよう」


「……新人の俺たちには荷が重くないか?」


「じゃからお前ら同期で組んでこの依頼を完遂させろ」


「……そういうことか」


なんでいきなり他の魔法使いのコンビが話し掛けて来たのかと思ったらそういう理由か……いつもの如く俺に対して特別に難易度の高い依頼を押し付けて来てはいるが、ちゃんと調整はしてくれるようだ。


「じゃあな、後は依頼票を読め」


「あぁ、わかった」


「ちゃんと受付に持って行って受注手続きをするようにの〜」


そう言って面倒臭い仕事は終わったとばかりに師匠ジジィは去っていく……なんで自ら説明したのかは知らんが注意を促すためだろうか? それとも同期との初顔合わせを心配してくれ……はしていないだろうな。


「……『大樹』と普通に会話するんだな、今までの料金は特別に二割引でいいぞ」


「そうか……いや、払わないからな?」


こちらを認めて? くれたのは嬉しいがその内容が全然嬉しくない……元々払わなくても良いお金を割引されても何も変わらん。


「ふ、ふん! 最低限は私に釣り合うようね? いいわ! 一緒に仕事をする事を認めてあげるわ!」


「……そりゃどうも」


「光栄に思いなさい!」


「はいはい」


さっきまで話に加わる事すら出来ずにリーシャと一緒に黙り込んでいたくせに……大方口を開くと高圧的になってしまうけど、師匠ジジィにそんな口は聞けない……と板挟みになってしまったんだろうが。


「はぁ……」


今一度この帝都という敵の本拠地でレナリア人貴族の暗殺……そして高確率でその依頼前、依頼中、依頼後を問わず敵の刺客が送られてくるであろうという難しい仕事を一緒にこなす仲間を見渡す。


「ちなみに払わなかったら利子は一月毎に一五%だ」


「特別にあなたとも仲良くしてあげるわ! 光栄に思いなさい!」


「……(ビクッ」


異常なまでの守銭奴拝金主義者に上から目線に高圧的にならなければ人とまともに会話すら出来ず、許容値を超えると泣き出す女、それに頼りになるが重度の人見知りの我が相棒……。


「……」


僕……生きて帰れるかな…………?


▼▼▼▼▼▼▼

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます