第13話.帰還

「ガイウス・マンファン特務中尉並びにアリシア・スカーレット准尉、ただ今帰還致しました」


「あーうん、おかえり〜……おぉ! このチョコ美味い!」


ウィーゼライヒ子爵領から帰還した後、すぐ特別対魔機関バルバトス司令室に赴き、ガイウス中尉が代表してスズハラ大佐に挨拶をするのだけれど……こちらには生返事を返すくせに、手元のチョコには夢中なその様子に脱力してしまう。


「詳細な事の推移は手元の渡した書類を読んで貰えれば、と……」


「……ふーん?」


ガイウス中尉のその言葉でやっとこちらをチラ見した後に手元の書類に目を通す。その際やはりチョコは離さず食べながら……だけど、これで話が進むから仕方ないわ。


「人を人為的に魔物へと変質させ、『ガナリア区』の子ども達のみを攫う……?」


「「……」」


書類に目を通しながらチョコを食べていた手が止まり、眉間に皺を寄せてからこちらへと視線を寄越すけれど……明らかに機嫌が悪い、わね?


「……なにこれ?」


「……私に聞かれましても」


「まぁそうなんだけどさ? もっと何かないわけぇ〜?」


「……申し訳ございません」


呆れたような溜め息をつかれ書類を机に放り投げながら叱責されてしまう……確かにこれでは当初の目的である『情報源の確保』は失敗でしょうし、この叱責は当たり前の事ね。


「まぁでも? 無理やり人為的に魔物を産み出すなんてイレギュラーが起きたんだし、上には僕が取り成してあげるよ」


「「……ありがとうございます」」


……何が目的なのかしら? この『甘党腐れ外道愉快犯』とバルバトス内で悪名高いスズハラ大佐が、そんな面倒な事を無償でする筈がないとガイウス中尉と二人で固唾を飲み込む。


「そんなに警戒しないでよ、僕ちん傷ついちゃう!」


「「……」」


「……大したお願いじゃないんだけどー」


自身の両肩を抱き寄せ、震えながらこちらを上目遣いで見ながら批難するスズハラ大佐に思わずその場の時が止まってしまう……それを見て、チョコを口に含みながら真面目なトーンで切り出す彼に対応が追い付かない。


「これから任務で遠出する事も増えると思うから、その時に甘いお土産をお願いね?」


「……それは構いませんが」


「ん? 何か問題でも?」


「いえ、そう頻繁に遠出するとは思えなくて……」


「……あぁ、言うの忘れてたね」


ただ甘いお菓子のお土産をお願いするだけで終わる訳がなく、そんな頻繁にあちこちに飛ばされる予定もないと思っていたら案の定まだ何か有るみたいで……まぁそうよね。


「これから君たちに極秘任務を受けて貰う」


「「っ!!」」


え……? 極秘任務? まだ新人の私が居るのに、そんな重要そうな任務になぜ選ばれたの? そんなものは師匠とかの方が適任なんじゃ……。


「あー、なんで君たちなのかと言うとボーゼス中佐からの推薦があるのと……人為的に魔物を産み出すところを目撃したからだね」


「師匠が……」


まだ内容は知らせていないけれど、師匠が推薦するのならそれは絶対に私にとって地獄のような難易度で、もし達成できれば『私の目的』に近付ける事だということね。


「実は人為的に魔物を産み出す……以下『堕天』と呼称する。それ自体はほんの何件かだけだけど、こちらでも確認されているんだ」


「まさかそんな事が……」


ガイウス中尉は私よりも軍務経験が長いだけあって信じられない事柄のようだけれど、一般的にも魔物を人為的に産み出すなんて非常識よね……それが数件だけとはいえあるなんて驚きしかないわ。


「君たちにはそれを成した組織を追跡調査し、全容を暴き、魔物にされた人々が『回帰』できるように努めて貰いたい」


……そうよね、魔物に無理やりされるなんて酷いこと許せる訳がないし『回帰』……元の人間に戻れるのならそれに越したとはない……もしクレルが魔物に成っていたとしても、その方法がわかるのなら助けられる。


「手掛かりはあるのでしょうか?」


「そうだね……肥沃する褐色の大地メシアが一番怪しいというのと、今回の件に対しては皇帝陛下自らが口を挟んで来てね?」


こ、皇帝自ら?! 本当かどうかはわからないけれど、何千年もずっと生きてこの大陸を統治しているとか噂されている天上のお人が?! ……絶対に失敗できないじゃない、私には荷が勝ちすぎていると思うのだけれど。


「……新人には荷が重いのでは?」


「大丈夫大丈夫、この任務は新人ベテラン関係なく優秀な人材のみで編成されているからね」


初任務が微妙な結果に終わった私が優秀かどうかは疑問が残るけれど、何もこんな重要な任務が私たちだけで遂行する訳ないわよね……そこは安心だわ。


「……確かにアリシアの『猟犬』との適合率などは無視できませんな」


「でしょ? 座学も素晴らしい成績だったしね」


「き、恐縮です……」


ガイウス中尉から褒められるのもスズハラ大佐の茶化しの入っていない賞賛も慣れていないから凄く気恥しい……。


「そうそう言い忘れていたよ、皇帝が口出した件だけど──」


そう言えば皇帝陛下自ら何かを言ってきたって話だったわね、一体どんな事を要請したのかしら? それは私たちにこなせる事柄なの? ……凄く、嫌な予感がする。


「──『羊飼い』を見つけ次第殺せってさ」


「──」


……羊飼い? もしかしてクレルの事? いやでもクレルが人を無理やり魔物に変質させるような事をする訳ない……いったいどういうこと?


「『羊飼い』……ですか?」


「そうそう、なんか知らないけど皇帝陛下は『羊飼い』に大層な恨みがあるようでさ〜……まぁ今回の件に関わっているんじゃない? あの時ばかりは僕もふざけられなかったよね」


いや、前向きに考えるのよ……羊飼いを探すということならばクレルに会えるかも知れないということ……もし見つけ出せたらガイウス中尉には悪いけれど、軍と国を裏切ってでもクレルを連れて逃げるしかない。


「……アリシア嬢はどうかしたのかな?」


「っ! い、いえ……なんでもございません」


「そう? まぁいいや、君はこのあと定期検診に行ってね」


「了解致しました」


「じゃあ、正式な辞令はもう少し待ってね」


いけないしっかりしないと……ここで変に勘づかれてもまったく面白くないわ、しっかりするのよアリシア。


「あ、そうそうアリシア嬢のコードネームは『緋色』で正式決定ね、面倒だから今決めた」


「……了解致しました」


そ、そんな適当に……自分の通称が酷い理由で決められた事に若干落ち込みながら司令室を後にする。


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