第12話.奇襲

「「……」」


ガイウス中尉と一緒に物置部屋を遮るカーテンの裏で息を潜めて魔法使いの帰還を待つ……村長が言うには相手は一人だけらしい。……最初の一撃を決められたら後が楽になるなどと考えながら、今のうちに『猟犬』の真名を解放しておく。


「……今の内に言っておくが、しばらくは様子を見る」


「魔物を討伐したのか等の情報を得るために、ですね?」


「そうだ」


まぁ当たり前か……もしも見つからなかったから倒せず戻って来たのだとしたら私たちが代わりに討伐しなければならないし、もしどうやって倒したのかの説明があるならばその魔法使いがどんな事を得意としているのかがわかるため、対処しやすくなる。


「そして初撃は俺が斬り込む」


「了解致しました」


経験豊富なガイウス中尉がタイミングを見計らい突撃して大剣の重い一撃で一気に相手を追い詰め、それが出来なければ汎用性の高い長剣の私で逃がさないように立ち回る事を確認する。


「だいたいそのように──来たか」


「……女性?」


目的の魔法使いが来たために小声での会話をやめ、カーテンの隙間から覗き見る……幸い時刻は昼を少し過ぎたあたりで窓から陽の光が当たる事もない。……だけど、来た魔法使いは女性であり、私が想定していたような人物ではなかった。


『そ、その……魔物は討伐されたので?』


『は、い……』


「「……」」


目が泳ぎ挙動不審な様子の村長に思わずガイウス中尉と顔を見合わせ、額に手を当てる……魔法使いの女性は人と話す事が苦手なのか、話し相手の方へと視線を向けてないから良いものの……普通の相手であればまず疑われて、警戒されてしまうでしょう。


『そ、それはそれは……ど、どのように?』


『えっ、と……そ、の……群れの、長だ……と思わ、れ……る小、鬼が本体……だっ、たの、で……それ、を奇襲で……』


『き、奇襲でですか……』


ちょっと! それでこっちを見ないでよ! 魔法使いの女性の話し方はゆっくりで聞き取りやすくて助かったけれど、奇襲という言葉に反応してこちらをチラ見する村長に思わず溜め息が出そうになる……これでこの女性以外に魔法使いが居たら完全に失敗するところね。


『なるほど、では魔物は退治できたのでもう心配はいらないと……』


『は、い……』


そこは演技でも心底安堵した感じに装いなさいよ、なに怯えているのよ……執拗に私たちが居る物置部屋の方をチラ見して確認してくるし、心休まらないのだけれど?


『……しかし、困りましたな』


『? ……ま、だ何……か……?』


なにかを思い付いたのか……軽く深呼吸して改めて魔法使いの女性に向き合う村長に嫌な予感がしてくる。……本当に大丈夫なのかしら?


『……実はまだ魔物が居るようなのです』


『まさ、か……』


まだ魔物が居る? ……雲行きが怪しくなってきたわね……ガイウス中尉をチラ見すれば仮面に隠しきれていないこめかみに青筋を立てていて……少し怖い。


『一体ど、こに……?』


『それはですな……』


こちらを一回チラ見してから机の下で気合いを入れるように拳を握る村長に『まさか……』『いやでも……』『やめて』という思考が渦巻く……勝手な行動は慎んで貰いた──


『──今目の前に! 『巨狼』殿!』


「チッ! あの馬鹿!」


こちらの懸念通りに勝手な行動を起こして奇襲をバラしてしまう村長に対してガイウス中尉が思わず罵倒しながら飛び出し、大剣を振るう……当初の予定とは狂ってしまったがまだ事態に追い付いていない彼女が現実に戻る前に重い一撃を決めたいところね。


「っ?!」


「チッ……もう一人いたか! 『緋色』!」


「はい!」


しかしながらガイウス中尉の一撃は姿を隠して潜んでいたもう一人の魔法使いの手によって躱されてしまう……どの道もう一人いたのなら村長が勝手な行動をする前にあの挙動不審さで奇襲は失敗していたと悟り、悲しくなってくる。


「待ちなさい!」


後ろ姿しか見れていないために彼があの二人組の協力者の魔法使いなのかは判別がつかないけれど、猛スピードで逃げていく魔法使い達に『猟犬』による銃撃をしながら追い掛ける……なぜかこの時になってクレルから貰った胸と左腕が熱くなる。


「──《緋き屈辱スカーレット》!!」


「っ?! 『我が願いの対価は嫉妬する鉄人形 望むは全てを防ぐ盾!!』」


胸と左腕の熱さと共に蘇る苦々しい思い出を吐き出すようにして、赫赫とした焔を上段から振り抜くようにして撃ち出すものの……魔法使いの女性が造り出した盾によって防がれる。……そんな物で私の悔しさが防げるとは思わないで!


「……でかしたリーシャ、数秒あれば充分だ……『我が願いの対価は不遜なる羊毛八束 そちらへ行ってはいけない 獣がいるよ そろそろ帰る時間だ─』」


こちらの放った焔を防いでいる間に男性の魔法使いが何か魔法を行使しようとしているわね? ……その前にこの盾を破壊して──クレル? いや、そんなはずは……こ、声も低いし。


「『──羊飼いの帰宅鐘ホームベル』」


「っ逃げられた?!」


動揺して焔の火力が下がり、盾を破壊するのに想定よりも時間がかかった為に魔法が発動してしまい、気付けばこちらに追い付きかけていたガイウス中尉と二人で村の入口へと飛ばされていた……。


「……転移を扱うとは相当な大物だったようだな」


「……そうなのですか?」


「あぁ」


魔法使いの中でも一部の例外を除いて転移を扱えるのは『名持ち』のような『特別指定殺害対象』ぐらいらしいし……さっきの彼はクレルじゃないのかしら? 七年も経っているからわからないけれど、私の知るクレルはまだ魔法の扱いが上手くなかったはず……。


「……まぁそれよりも」


「えぇ、そうですね」


とりあえず今は情報が少なすぎるし、考えても仕方ないわね……何よりも彼の顔を確認できなかったのが痛いし、それよりも──


「「──村長を説教ですね村長を説教だ」」


根拠はないけれど、彼はクレルの可能性が高いと感じる……だけど今は原因不明の自分の中の不思議な感情を押し込んで、ガイウス中尉と二人で青筋を立てながら村長の家へと向かう。


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