第13話.鬼殺しその3

「弱い内に倒しておきたかったのだがな……」


『ドウシテ! 私ダケダッタハズナノニ!』


左胸が盛り上がり、這い出てくるようにして老いた小鬼の顔が現れ喋るが……こちらに対して言葉を放っているわけではないようだ、百を超える小鬼を統合して意識があやふやになっているのか?


『オ母サン、寒イヨ』


「『我が願いの対価は愛しき椿 望むは昇華 寄り添い 笑いかけ 共に歩む君の瞳に 僕は勇気づけられて!!』」


リーシャが造り出した長剣を魔法でさらなる強化を施す……鍔にある笑顔の鉄人形に寄り添うように椿の華が咲き誇り、柄からこちらの腕を蔦で絡め取って、刃を緋い葉脈が走る。


『子ドモラマデ犠牲ニスル必要ハナカッタ! ソウダ! 寒イヨ!』


「リーシャは絶対に前に出ず、離れすぎるな!」


「わ、かった……!」


こちらへと一足飛びで飛び込み、両腕を金砕棒を平たく刃にした様な形状へと変えて殴り付けてくるのを刃を立てて受け流す……金属同士が擦れる耳鳴りと火花が舞い、腕には強烈な衝撃により骨が縁起の悪い音を出す。


「うっ、ぐっ……おぉ……?!」


『寒イ、痒イ、痛イ、寂シイ、ソウダロウ、ソウダロウ』


「……せ、めて……人格、を統合しやがれ……!! 『我が願いの対価は愚鈍なる向日葵 望むは山を砕く衝撃』!!」


奴の攻撃を無理やりに捌いて魔法で強化された脚で腹を蹴り飛ばす。周囲の木々を巻き込み木屑と粉雪によって視界の大部分は遮られるが、その巨体を隠すことは出来ず、腹に大穴を開けた奴が立ち上がるのが見えてしまう。


『痛イ痛イヨ! 子ドモハ違ウダロ!』


「ちっ……!」


地面を叩き付けて抉り、破片を飛ばしながら再度の突撃を後ろ飛びで斜面を滑り降りる事で回避する……上から重力に釣られて降ってくる破片は長剣で弾き飛ばしていきながら、リーシャの方を確認するが……大丈夫そうだな、見れば彼女は自身が造り出した鉄人形の一体に抱えられて移動しながら十字鉄器を操り、奴の突撃を阻害してくれていた。


『イヤダイヤダ! 帰リタイ!』


「うっ……ぁ……」


「リーシャ! 共感するな!」


「は、い……!」


奴の悲哀の叫びを聞いてリーシャが涙を流す……それに焦って声を張り上げて彼女に呼び掛けると、まだ低度だったのも相まって直ぐに我に返る。……急がねばこちらが呑まれる、産まれたばかりでまだ自身の力を掌握し切れていないと言うのが唯一の救いか。


「……今、帰らせてやる」


「三号、は……そのまま、四号か、ら七号は……クレ、ル君……の支援」


泣き顔の鉄人形が鬼の顔面を殴り付けて意識を逸らしたところで左胸を貫くが……痛みによって絶叫を上げながら一振りで大地を陥没させうる腕を暴れさせる奴の猛攻を笑顔の鉄人形と憤怒の鉄人形と一緒に突き込まれる腕を下から弾き、振り下ろしを刃を立てる事で受け流して、横薙ぎの一撃を躱し、凌いでいく。


『痛イ、痛イ、痛イ、痛イ、痛イ、痛イ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!!』


羞恥の表情を浮かべた鉄人形が鬼の長い首に組み付き、リーシャがそこに十字鉄器を叩き込んで砕き折る……だらんと垂れ下がった奴の首を長剣の袈裟斬りで刎ね飛ばす。


『アァ……?』


左胸の半ばから貫かれて左右でズレた顔が呆けた表情を晒し、首からはドス黒い血の噴水が周囲の雪のキャンパスを染め上げる。


『……絶対二許サナイ!』


雪山の斜面を滑り降りながら長剣を振るう……袈裟斬りを裏拳で弾かれ、拳の突き込みを首を反らして躱し、奴が下からの突き上げた左拳を慈愛の表情の鉄人形が腕に組み付く事で反らしながら態勢を崩し、それに合わせて長剣をその左腕の肘裏へと振り下ろす。


「か、たい……!」


「手伝、い……ます!」


食い込むがそれ以上進まない長剣の上から十字鉄器が釘打ちのように叩き込まれ、奴の左腕を半ばから寸断する。雪山の斜面を滑る事で発生する粉雪と奴のドス黒い血飛沫のコントラストが対比を生み、視覚の遠近感覚が狂う。


『ァァァアアア!!!!』


怒り狂った奴が右腕で斜面を殴り付けた事によって大地が陥没し、雪が舞い、こいらの足場が崩れ態勢を崩してしまう……そこを見逃してはくれず、跳躍からのかかと落としを放ってくる。


「ちっ! 『我が願いの対価は儚き百合 望むは盾!!』」


頭上へと百合の盾を展開し防御するが長く持ちそうにない……今も盾の端から花びらが散り崩れていき、奴の蹴りの圧力の強さを窺わせる。


「『我が願いの対価は俯く鉄人形 望むは拘束 主人に造られ 主人に尽くし 主人を護るため 戒めの鎖をここに』」


『ッ?!』


鉄人形の肩に乗り、こちらと並走していたリーシャが魔法によって鎖を造り出し、それを鬼の四肢へと巻き付けて引きずり倒し、残りの十字鉄器を奴の身体へと突き刺し固定する。


「『我が願いの対価は麗しの椿五輪 望むは昇華 遠くから眺めていた君の悲しみ それを晴らすため 僕は修羅となる!! 』」


「『我が願いの対価は傲慢なる鉄人形 望むは鍛錬 降りかかる理不尽 それらを受け入れ 貴方はより鍛えられる』」


最高品質の供物を消費して、椿の花弁を束ねたような刃を生み出す……それにリーシャの魔法の強化が重なり、金属質な光沢を帯びた緋の刀身が出来上がる。


『帰リタイ! 帰リタイノ!』


「……文句は後で聞く」


鎖で四肢を巻かれ、身体中を十字鉄器が貫き、鉄人形が抑え込む……そうまでしてやっと動きが鈍った程度だというのはさすが魔物と言ったところ。そんな奴に対して刀身を構える。


『子ドモハ助ケテ……』


「すまない……『我が願いの対価は緋刃 望むは全てを貫く力 哀れな老人 慰める童子 無慈悲な冬 それらを断ち切る一撃をここに──』」


左胸の老いた小鬼が泣きじゃくる……必死に懇願しながら自身の血から溢れ出る赤子の小鬼を庇い、魔力を膨れ上がらせる。……でもさ、そろそろ楽になってよ……僕も見ていて辛いよ ……その子ども達を護っているようで慰められていたのは君なんだろ? だからさ……もうすぐ冬は終わるから、春になるまで少し眠ろう……。


「『──眠って春を待つデイブレイク・スプリング!!』」


魔法は言葉である、叶わぬ願望を抱き、大事な物を失って壊れた彼らを慰める奇跡でなくてはならない。『対話魔法』……まだまだ未熟な僕ではありったけの対価を用意しないと出来ないけれど、魔物に起源に直接語りかけるようなそれを、彼に対して放つ。


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