第13話.彼女を救うために

「アリシア……」


彼女の口と胸へと耳を寄せる……まだ息は少しだけ……本当に弱いけどある。心臓もちゃんと、微弱だけど動いてる! 安心は絶対にできない……それでも今はまだ……生きてる!!


「……アリシア、僕も好きだったよ」


彼女の頬を撫でる……彼女のおかげで母さんを失った僕がどれほど救われたか、照れ隠しなのがわかったけど、ディンゴの虐めはキツかったし、それから庇ってくれて嬉しかった。


「だから、絶対に助けるから待ってて」


それから僕は一度彼女の元から離れて、戦闘があった場所へと赴く……魔物と狩人が争った跡と僕の魔法で虫食いになった屋敷の残骸、そして羊達が出てきた大穴に、勢い余って齧った地面の跡……。


「……これが『魔力残滓』」


ドス黒く、絶えず形を変え、生き物の様に脈動する『魔力残滓』……アリシアを助けるためにはまだ一度も魔力を取り込んでおらず、まったく強化されていない僕では無理がある。……だからせめて、この一回だけでも……!


「『君の願望は果たされず終わる 僕の中でスヤスヤと眠る それでもいいのなら 満たされる事よりも安寧を望むのなら 僕は拒まない』」


魔物が死に、その場に残ったドス黒く、絶えず形を変え、生き物のような『魔力残滓』……時間が経てば地面に溶け込み土地を汚染するそれを、丁寧に紐解き、バラバラの闇の帯と粒として自らの内へと取り込んでいく……。


「ぐぅっ……!!」


魔物の元となった人間の記憶──君は孤児だったんだね──魔物になったきっかけとなった出来事と願望──路地から眺める家族が恋しくて、母の愛情が欲しかったんだね──魔物になってから殺して喰らってきた人達の記憶──息子が心配だった、産まれてくる子どもが楽しみだった、それが奪われた悲痛な嘆き──が一気に流れ込んでくる……!!


「今は君たちの問い掛けには応えられないけど、力を貸して貰うよ……!!」


半ば強引に押し込みながらも、日頃の鍛錬の賜物か、魔力を取り込むための操作は思ったよりも上手くいく。


「げほっ、ごほっ!! ……アリシア!」


表面上は安定して落ち着いたところで、急ぎアリシアのところへと駆け抜けて行く……途中転んで足を擦りむき、腹から血が滲むが知ったことではない。


「コヒュー……コヒュー……」


アリシアのところへと辿り着くともう既に呼吸音がヤバい、急がないと! 他人の傷を……それも重症や、胸などの重要な内蔵を治すのは制御が難しいけど、素早くしなければ手遅れになる……覚悟を決めよう……。


「『我が願いの対価は──』」


……ごめんね、アリシア。僕に今払える対価なんて……それもアリシアをほぼ蘇生させるような……僕にとって価値ある対価なんてこれぐらいしかないんだ……。


「『──尊きアリシアとの思い出』」


でも許しておくれ、ディンゴとの記憶はあるし、違和感には気付けると思うし、君には負担をかけると思うけど、また僕と一から友達になって欲しいな……?


「『幼子の淡い恋心を薪とくべ 奏でる戯曲 初恋の相手へ捧ぐ想い』」


それにさ、僕はまた君に一目惚れすると思う……君は周囲から褒められた事がないって言ってたけど、凄く可愛いから。本当に凄く……笑った顔が可愛いし、怒った顔も可愛い、考え事してる時は美しい、かな? 僕はそんな君が大好きだった。


「『蘇生リザレクション』」


緋と瑠璃色の帯が彼女を包んでいく……それによって胸に開けられた穴は塞がれ、左腕も包まれていく。帯の中がどうなっているのか、左腕までちゃんと生えてくるのかは分からないけど……。


「よかった……?」


あぁ、なんだろうか……? 僕の中から何か大事な物が抜かれていく……半身を引きちぎられるかのように痛い、寒い、辛い、悲しい、憎い、恋しい、寂しい、苦しい、淋しい……。


「ぁ、アリシア……?」


アリシア……アリシア、アリシア、アリ、シア……アリ、シア? ア……リ、シア……ア? アリシ……?? ア……???


「アリ……ア??」


誰だろう? 誰の名前なんだろう? ……思い出せない、わからない、誰だ? 大事な人の様な気がする! 忘れてはならない気がする!


「頭が……」


激しい頭痛に襲われて倒れてしまう……僕の隣に誰か倒れていた気がするけど身体中が痛くて……特にお腹が痛くて向きを変えられない。


「あぁ、ディ、ン……ゴ……」


なんだかよくわからないけど、僕はちゃんとやり遂げたんだよね? お兄ちゃん……。


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