第195話第二回公式イベント・collapsing kingdomその26
「……」
「……急に止まってどうした? 着いたのか?」
口元を抑えながらヨロヨロとポン子さんから降り、そのまま座り込んでしまうハンネスさんに苦笑しながら目の前の少女二人を見据えます。
珍しい組み合わせですが、私とハンネスさんの様にバランスを取るために今イベントでペアとなったと考えるべきですかね……そして敵国として私の前に立ち塞がる、と。
「……ハンネスさん、戦えそうですか?」
「……お"ぇ"っ…………三十分だけ時間くれ」
「使えませんね?」
「じゃあもうちょい安全運転を心掛けろや?! ……う"っぷ」
ポン子さんを背もたれに、うんうん唸っているハンネスさんに怒られてしまいましたね? 自業自得ですので仕方なくはあるのですが……うーん、ここは平野部ですので遮蔽物はありませんし、敵の人数が多い訳でもありません……私のポテンシャルを十全に発揮できませんね。
もう少し他のプレイヤー達に呼び掛けて大勢で攻めてくるか、この場に遮蔽物が少しでもあれば良かったんですけど……なるほど、これが私の弱点ですか。
「……今後の課題ですね」
遮蔽物もない開け放たれた空間のせいで『隠密』スキルや鋼糸に頼るのはほぼ無理ですし、敵対する人数が少なすぎて『虐殺者』等の称号効果にも期待できません。……さらに言えば、彼女達はそれぞれ広範囲の強力な攻撃手段を持っていますし、近づくのは困難ですかね?
……基本的に私の戦闘スタイルって暗殺者なので、正面からの正々堂々とした勝負って苦手な部類に入るんですよね……それに相手は二人ですし、回復手段も持っています。
「うぅ、ユウ大丈夫かなぁ?」
「ふふふ、せっかく助けに来たのに……あの男共の情けない顔ったら傑作だったわね?」
「貴女のせいで色々台無しよ……まぁ今は自分の心配をした方が良いけど」
「そうね、割と私達に有利な状況ではあるけれど……あの後ろの情けないナイトが復活するまでがタイムリミットよ」
周囲に何もない屋外で、トッププレイヤーの少数と正面で戦うというのは……案外初めての経験ではないでしょうか? だいたい大人数だったり、屋内や街中だったりしますからね……手探り状態になりますが、この状況を楽しみましょう。せっかくですからね。
……それに、どうしても火力が足りなくて攻めきれなくても、三十分凌げばハンネスさんが動けるようになります。それまで凌げば良いのです。
「──《フラッシュオーバー》」
「──《潜伏》」
「──《スノウ・フィールド》」
マリアさんの地平線を舐める様に滑る炎が一泊置いて閃光と大爆発を起こします……それらに紛れるように『隠密』スキルの《潜伏》を行いますが……ブロッサムさんの魔術かスキルによって広範囲の地面が薄氷に覆われてしまいますね?
歩くだけで薄氷が踏み割れる音が辺りに響き、『消音行動』と共に併用したとしても足跡はちゃんと残りますから対応は可能と……足跡まで消す事も出来なくはありませんが……割に合いませんね。一々何かしらの行動を取るたびにそんな事をする時間もコストもありません。
「……影山さん、伸ばしてください」
上空に煙玉を投擲、炸裂して吹き出した煙幕によって生じた影を経由して影山さんが私の足元から影を伸ばし、《物質化》を掛ける事で物理的に干渉できるようになったそれで二人の足首を掴み投げます。
「《閃光》」
「《氷板》」
しかしながらマリアさんには単純にフラッシュを焚かれて影を消し去られ、ブロッサムさんも……器用ですね? 表面がツルツルの氷の板を何枚か精製し、太陽の光を何度も反射させる事で自分の元まで日光を経由させるとは……二人共さすがに私の戦い方に詳しいですね。
花子さんや武雄さんを突撃させても……虫に炎と氷はダメでしょう。範囲攻撃で一気に殲滅させられますね。
「シッ!」
「《炎杖》」
「《氷刃》」
毒針等の投擲攻撃も……今までの強力なNPC達同様、牽制程度にしかなりませんか……いや、牽制になっているかどうかも怪しいですね? なんなら彼女達は武器で弾かなくとも、高温の炎で融解させたり、氷の壁で受け止める事もできるのですから。……で、あるならば──
「『──破滅遊戯・虐殺器官』」
──敵の懐に飛び込み、大技を封じつつのゴリ押し、ですね。そのまま自身に《減軽》を掛け、足元で《噴射》を炸裂させて一気に加速……目の前に迫る大鎌を視認すると共に影山さんの影を腰に巻き、そのまま地面に伸ばして突き刺す事で急制止します。
「『妄執慈愛・理想女性』」
「『震天動地・唯我独尊』」
喰らえば一発で瀕死になりかねない大鎌の振り下ろしを身体を斜めに傾ける事で避けつつ、短刀の柄で刃の腹を殴り付ける事によって軌道を逸らし、私の腰を絡め取ろうと迫る炎の鞭を刈り取ります。
そのまま体勢を崩したブロッサムさんの顔目掛けて毒針を投擲、それを弾く為に伸びた鎖を一時的な足場として跳躍……先ほどまで私が居たところに蒼炎が迸るのを視界の端に収めながら、毒煙玉をばら撒きます。
「『愚劣支配・魔統』」
毒ガスを凍らせ、また引火させる事で処理した二人が放つ魔術スキルであろう氷と炎の攻撃……それらを『結界魔術』で作り出した《光壁》を足場に空中で方向転換する事で避けつつ、飛び降ります。
「『魂魄昇華・鬼子母神』」
「『身体昇華・孤独女王』」
短刀から大太刀へと変化させ、肩に担ぎ背負うように構えながら姿勢低く疾走……要所要所で火薬玉を指弾で飛ばし、うねり迫る炎の鞭の軌道を変える事で凌ぎ、大鎌の横薙ぎの一閃を前に倒れるように飛ぶ事で回避しながらも、勢いを殺さずに一回転……そのまま背負うように構えていた大太刀を上段から振り抜きます。
「『神気冒涜・純朴幼子』」
「『神気憑依・日輪乙女』」
「『神気冒涜・傲慢女傑』」
陽炎として霧散していくマリアさん見て偽物を斬った事に気付きます……なるほど、《影分身》の様なスキルや魔術がまだまだあるんですね。
そのまま後ろを振り向けばまだまだ元気そうなお二人さんが構えていますね……もう少しだけ楽しめそうです。良い余興ですね。
「……良い? 隙を見てまた距離を離すよ?」
「分かってるわ。その後はノータイムで広範囲攻撃をぶち込んであげる」
「じゃあ今ここで首を落としますね」
「「「……」」」
──全力で後退する二人を追い掛けます……ふふ、鬼ごっこですか? 私って意外と得意なんですよ?
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