第194話第二回公式イベント・collapsing kingdomその25

「ていうか、今は貴女とおふざけがしたい訳じゃないのよ」


 そう言いつつ、目の前で縛られている私よりも歳上の癖に私よりも背も胸も小さい〝大人〟から離れながら、背後で繰り広げられているPvPに振り返る。

 そこではスキルの効果によってドス黒く肥大化した筋肉の上半身と、肌の色以外は変わらない下半身とのアンバラスさが目立つ変態紳士化け物婦女子蘭花を襲っている光景がまず目に飛び込む。


「絵面は酷いけど、わざわざあのモジャ頭に頼まれてアンタを助けに来たのよ」


 事案から目を背けつつ、その背後で繰り広げられる戦いに目を移す……ヒンヌー教祖何処かで見かけた変態の高火力の連撃を、まるでおちょくってるのかと文句を言いたくなるくらいにヘンテコなスキルで迎撃するモジャ頭。

 ……まぁ表情を見る限り、実際に余裕がないのはモジャ頭の方でしょうけど。


「てかなに素直に捕まっちゃてんのよ」


 確かにあの変態中学生もトッププレイヤーではあるけど、同じくトッププレイヤーであるこの女が簡単に捕まるとは思えないけれど……?

 不意打ちで何か強力な状態異常でも貰ったのかしら? ジェノ毒みたいな?


「だって炎が効かないし……」


「……あぁメタ装備で来られたのね」


 確かに一つの属性に限定すれば完全とはいかずとも、ほぼ無効化できるでしょう……メタ対策もなく、不意打ちで変態に襲われたら女の子は辛いか……なら仕方ないわね。うん。私は変態に負ける奴に慰められた訳じゃない。


「で? どうする?」


「……なにがよ」


「ほら、あのモジャ頭​──じゃなかった愛しの騎士ナイト君は苦戦中みたいだけど?」


「……だから?」


 彼らの戦いを顎で指し示す……あのモジャ頭は支援やハッタリ、初見殺しとしては相当強いのでしょうけど、あのヒンヌー教祖みたく……彼を倒すために研究して対策されれば強みは半減だし、元々検証班であって攻略組ではないって言うじゃない。……分が悪いのは目に見えてる。


「私が変わってあげても良いのよ? 私なら貴女用のメタ装備なんか意味ないし、初見殺しやハッタリじゃなくて実力でトップなんだもの」


 私は炎なんて暑苦しい属性は好みじゃないから使わない……だから炎耐性を上げる装備しか付けてない今の奴には、私の攻撃を純度100%で受けるしかない。

 それに騙し討ちや嵌め殺すのは好きでも、自分でもよく分からない変なスキルに頼るのはリスキーだから好きじゃない。……純粋なプレイヤースキルなら対策したって仕方がない。


「……で」


「? なんて言ったのかしら?」


 小さくて聞き取りづらいわよ? ちゃんとハッキリと喋って​──


「​──ふざけないで! ユウはただの検証班じゃないし?! 私と何年もゲーマーやってきたアホだし?! というか今すぐこの縄を解いて!」


「……うるさっ!」


「うるさくて悪かったわね!」


 人が耳を寄せた途端に大声で怒鳴らないでよ! こういう時に自動で音量下げてくれる親切機能なんて無いんだからね?! 精々が上限を定めてくれる程度なんだから!


「……別に縄を解くのは良いけど、私にメリットが無いのよねー」


「あぁん?」


「混沌陣営の私がなんで人助けなんかって感じ……それに、「彼を信じるわ!」みたいな安いやっすいヒロインムーヴかましておいて今さら出て行くの?」


 男を信じる女の発言をしておいて、結局は男の手助けをするっていうのはとても尊厳を傷付ける行為よ? というかなんで人助けなんて秩序側の行動を私がしなくちゃならないのよ……そんな行為、パートナーである変態紳士しか得をしないわ。……だから、ね? 分かるでしょ?


「別にユウは放っておいても大丈夫だもん……というか、それよりももっとヤバい脅威があるでしょ?」


「うんうんそれで?」


「……本当は一緒に戦いたいけど、仕方がないからそっちの手助けをしてあげる」


「ふーん?」


 恥ずかしげにそっぽを向きつつ、そんな事を言うリア充憎き敵にイラッとしながらも、「まぁ及第点かな」なんて考える。

 目の前のロリがせっかく「私は助けに行きたいんだけどなぁ〜」なんて体裁を取ってくれているんだから、私は及第点ではなく満点の回答をくれやりましょう​──〝悪〟としての。


「​──ふふ、可哀想な聖母様……そんなに彼が大事なの?」


「……ぶ、ブロッサム?」


 頭にクエスチョンマークを飛ばすロリを人睨みさせ、口パクで「合わせろ」と囁く。


「だ、だい……だい……だ、いじ……………………大事、よ!」


「……でも残念ね、彼は負けそうよ? 当たり前よね? 後方支援組と攻略組のPvPなんだもの、この結果は当然よ」


 なにたかが「大事」って言うだけで赤面して吃ってんのよ、このお馬鹿! こっちまで恥ずかしくなってくるじゃない! このお馬鹿!


「私がなんで変態紳士の意見に賛同したか分かる? 勝ち目のない戦いに挑み、貴女の前で散っていくバカな男と、それを見て歪む貴女の顔が見たいからよ?」


「……」


「彼を助けたい? 協力して欲しい? ……でも残念。私の手を借りたかったら、貴女はこれから悪に加担しなければならない」


 ここまで私がお膳立てしてあげるんだから、感謝しなさいよ……? まぁ私も自分の目的があってやってるんだけど……そこは教えてあげない。ただ感謝の念のみ抱きなさい。


「い、言うことを聞くから! 早くこの縄を解きなさい!」


「アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!! あの聖母様がに加担するなんて世も末ねぇ!!」


「ぐ、ぐぬぬ……」


「良いわ、解いてあげる……その代わり貴女はこれから私と一緒にこの街を混沌に沈めるのよ」


 マリアの頭を踏んづけながら高笑いをしてやる……あぁ気分が良いわ? 気分が良いから縄を解いてあげる。そのまま私の下僕になっても良いのよ?


「ほら、もう鎌で切ったんだから起き上がりなさい​──」


「​──ふんぬ!」


「ガッ?!」


 ​──コイツ頭突きをしたわね?! 私の綺麗な顔に傷を付けたわね?!


「いきなり何すんのよ!」


「調子乗りすぎよ、ばーか!」


「コイツゥ……ちょっと煽って頭を踏んづけただけじゃない! 心の狭い女ね! これの何処が聖母様よ!」


「うるさい! このツンデレマザコンロリ娘!」


「「キィッー!!」」


 腕が自由になった奴が私の頬を引っ張るのに合わせて、私も奴の頬を引っ張る……痛いから離しなさいよね!


「……それで、本当にこれで大丈夫なの?」


「……貴女も知ってるでしょ? ここの管理AIの善悪の基準は〝言動〟であって〝思考〟じゃないわ」


 だから別に演技でも善業を行えば〝善〟と判断されるし、悪行を行えば〝悪〟と判断される……現実リアルで聖職者をやってる人間が混沌陣営に属したり、ヤがつく自営業の方々が秩序陣営に属する事もできる。

 ……まぁつまりは、ここで「無理やり従わされた」という体裁を取りつつも「誰かを助けるため」に私の言いなりになるマリアは〝秩序的な行動〟をしたと判断されるし、そんなマリアを脅迫して言いなりにさせた私は〝混沌的な行動〟をしたと判断される。……要はこのイベントの趣旨に沿った行動を取れた。


「それに、貴女に私の言うことを聞いて貰うのは本当だから」


「……別に良いわよ、どうせ私も貴女がやろうとしてる事をするつもりだったし。……ユウは多分大丈夫。私が今解放されたのは見てるだろうし、危なくなったら即座に逃げられる」


「そう? じゃあ​──」


 友達以上恋人未満の幼馴染みを信頼してるのは反吐が出るけれど、今はそれが好都合だわ。


「​──二人でジェノサイダーを襲っちゃいましょうか」


 せっかくのイベントなんだもの……格上殺しと上位入賞は狙いたいわよね? 幼馴染みの少女を助けに来たモジャ頭の気持ちはどするのかって? ……こっち混沌陣営では利用される方が悪いのよ?


「クスクス……楽しみね?」


「うぅ、レーナさんとまた戦うのかぁ……胃が痛い楽しみだなぁ……」


 サムズアップする変態紳士としまったという顔をする蘭花、お互いに微妙な表情で闘り合ってるモジャ頭とヒンヌー教祖の横をマリアと一緒に素通りする。……今度は私があの女を跪かせる番よ。


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