第193話第二回公式イベント・collapsing kingdomその24
「ぬぅん!」
「かはっ?!」
気持ち悪い速度で接近した変態紳士の振るう拳が、蘭花の鳩尾へと叩き込まれる……薙刀の柄で防ぎ、マリアの炎が変態紳士の水流を相殺しているにも関わらず、その衝撃は息を詰まらせるには十分だったようだ。
「紳士のくせに! 女子を殴るなんて!」
「? 女子という属性ではなく、貴女個人を見て判断していたのですが……そちらの方がお好みでしたかな?」
「……いいえ全く!」
変態紳士の拳が容赦なく蘭花の眉間、人中、顎、首、胸、鳩尾……身体の中心を通る線に集まる急所を正確に打ち抜く……それらの猛攻を蘭花は顔を顰めながらも、薙刀を肩に、腰に、肘裏に……自身の身体の部位を支点として回しながら弾いていく。
「変態! 煩悩退散!」
「変態ではなく、変態紳士ですぞ!」
「8:2くらいで変態成分が勝ってますよ!」
正論! まさに正論! 変態紳士の格好を見て、どこに紳士要素を見出すというのか? むしろ2割程度の紳士要素を見出した蘭花はまさに、仏の如き慈悲深さであろう。
「『身体昇華・一寸長一寸強』」
「『肉体壊造・禁肉厄動』」
蘭花が薙刀を横薙ぎに振るい、変態紳士がバックステップで躱す……生じた間合いを利用し、自身の防衛圏を広げた蘭花は、それを最大限活用する。
薙刀と拳打の間合いの違い……変態紳士を近寄らせないよう、しかし自分の攻撃は相手に届かせるべく、徹底的にアウトレンジに攻める。
「『身体昇華・一寸短一寸険』」
「『魂魄昇華・倫理武装』」
変態紳士の肉体が風船の様に膨れ上がり、手足の先から青い亀裂の入った黒へと染まっていく……その異形には似合わない、白い歯の見える笑顔が眩しい。
そんな
「『御仏憑依・風天』」
「『神気憑依・嵐海龍』」
変態紳士の拳が薙刀の石突を激しく穿ち、弾き飛ばす……が、蘭花はその衝撃を利用し、自身の脇下を支点に跳ねる様に回して身体の逆側から刃を振るう。
円を描き、隙を見ては鋭い突きを放つ蘭花と、基本的にその場から動かず、間合いの外から叩き込まれる刃を黒化した腕で防ぎつつ、合間に強烈な拳打を放つ変態紳士。
「早く私を倒さねば、同盟国の援軍が来てしまいますぞ? この国は各方面に恨みを買っていますからなぁ!」
「そっちこそ! 早くマリアさんを助け出さないと、あのジェノサイダーさんが来てしまいますよ!」
「なんと! 彼女と再戦できるのであればこのまま時間稼ぎをするのも一興!」
まるで個人が災害か何かのような言い草ではあるが、確かにこの場にレーナが現れると本格的に収拾が付かなくなる……そこに他国の援軍が雪崩込むとなれば、もはや戦場を意図的にコントロールする事は叶わないだろう。
「……しかし今回は姫を助けるナイトの手助けが目的ですからなァ……また次の機会に致しましょう!」
「……では変態さんは煩悩と一緒に退散して貰いましょう」
「NON! 変態ではなく、変態紳士ですぞ!」
チラりと横目で、はたから見たら大道芸にしか見えないユウとヒンヌー教祖の戦いを覗き見ながら変態紳士は脇下から拳を振り上げ、それを迎撃するべく頭上から振り下ろされた刃を、拳を握ったままの人差し指と中指で白刃取る。
押しても引いてもビクともしない薙刀に舌打ちをひとつ打ってから蘭花は《嵐刃》を、薙刀を基点として放つ……指を中心として拳がズタボロになるが、心做しか変態紳士の頬が染まっている。
「吾輩から紳士要素を抜いたら何が残ると言うのです!」
「そんなの──」
痛覚制限を完全に排除している変態紳士にとって、激痛でしかないはずのダメージにさえまったく動じる気配もない……それどころか関係ないと言わんばかりに突っ込んでくる様に蘭花の顔が青くなる。
これが策略であるならば、変態紳士は稀代の演技派詐欺師であろう……現に蘭花はキモさが先に来て、実力を上手く発揮できていない……そして対する変態紳士は──
「──変態に決まってますよね?!」
「あぁ! もっと詰ってくだされ!」
──この上なく絶頂──絶好調であった。
▼▼▼▼▼▼▼
「うっわぁ……なにあれ、蘭花ちゃんが可哀想」
変態紳士の強烈な殴打を受ける度に三割近く削られる蘭花ちゃんのHPを、回復魔術を飛ばして癒しながら時間のおかげで冷静になった頭で他人事の様に呟く。
……変態紳士さんってば、現役JC……それも真面目な委員長タイプに罵られて、物凄くハイテンションになっちゃってるじゃん。歩く公害じゃん。
「むむ……同じ乙女として、早く加勢を──」
「──こっちがせっかく助けてあげようって言ってるのに、なに勝手な事をしてくれてるの?」
……目の前の地面に突き出された長物の石突と少女の足、それと何処か聞き覚えのある可愛らしい声と共に降り注ぐ小さな影……それを辿って上を振り向けば、想像通りの女の子が立っている。
「……ブロッサム?」
「気安く名前を呼ばないでくれる? そこまで気を許したつもりはないわ」
素直じゃないわね……そんなに嫌そうに顔を顰めなくても良いじゃない? 手をヒラヒラさせながらそっぽを向く彼女に少しだけムッとしつつも、会話を試みる。
「助けに来てくれたの?」
「……不本意ながらね」
「……変態紳士とペアになったんだ?」
「……」
あっ、その事には触れない方が良さそうね……物凄く、先ほどの比じゃないくらいに嫌そうな顔をしてるもの……確かペアのプレイヤーと離れたらペナルティがあるっていうし、自由に離れる事も出来なかったんでしょうね……。
変態紳士さんは普段はちゃんと紳士してるけど、戦闘とかで気分が昂っちゃうと
「ま、まぁいいや……とにかく助けに来てくれたんなら、この縄をほどいて──」
「──は? 嫌よ」
「「……」」
んん? おっかしぃなぁ〜? 空耳かな? なんか拒絶の言葉が聞こえた気がしたんだけど……完全フルダイブ型のVRでもそんな事があるのかなぁ?
口で喋って、耳で聞いてる訳じゃなく、脳に直接意味を送り込むはずだから……多分ブロッサムが言い間違えたのかなぁ? かなぁ?
「おっほん……ブロッサム、助けに来てくれたんならこの縄をほどいて?」
「だから嫌よ」
「「……」」
…………あれぇ?
「ふふふ、こんな絶好の機会を私が逃すと思って?」
「……ちょっとブロッサム? その嗜虐的な笑みはなに? ゾクゾクして怖いんだけど?」
なんで頬を染めながらそんな怖い微笑みができちゃうのかしら? 最近の中学生は怖いわねぇ〜、奥さんどう思います? この場に居る中学生ったら、変態と仏教徒とサディストしか居らっしゃらないのよ? …………日本、大丈夫かな?
「ねぇマリアちゃん? この前は容赦なくどつき回してくれて、本当にありがとう」
「……え、嘘でしょ? まだ根に持ってんの? なんか良い感じに終わったじゃん?!」
え? え? ……いや、え? あの時はほら、お互いにちょっと自分達の都合を相手に押し付け過ぎただけで……ちゃんと和解っぽくなったんじゃん! ブロッサムってば私の膝の上でしおらしく泣いてたじゃん!
「あ、アンタあの時私の膝の上で泣いて──」
「泣いてない」
「『どうしたら良かったのよぉ……』って言って泣いて──」
「言ってないし、泣いてない」
「「……」」
ちょっと、なに虚空を見てそっぽ向いてるのよ? 耳が赤くなってんのバレバレなのよ?! 私の渾身の慰めや許しを無かった事にするつもり?! あれユウの前だったし、私もそれなりに恥ずかしくはあったんだからね?!
「おいコラ中坊、こっち向けや」
「あらあら、本性表わしたわね」
物理的にも上から目線でコチラを嘲笑する様な態度のリリィに青筋を立てる……けど、私はお姉さんだからね〜? ここはぐっと我慢して大人の包容力ってものを見せてあげないといけない──
「まぁその小さい身体では肥大化した自意識は収まり切らないでしょうけど?」
「ムッキー!」
──もう怒ったからね! 許さないんだからね! 泣いて謝っても膝枕してあげないんだから!
指先で私の顎をクイッとあげながら、間近で小馬鹿にするブロッサムに向かって頭突きを放つ。
「──いったぁ! このチビ、やりがったわね!」
「チビじゃない! まだ成長の余地はある!」
「ハッ! あったとしても、現時点で私の方が身長も胸も大きいじゃない? 勝負にならないわよ」
「こ、この子?! 言ってはいけない事を言ったわね?!」
た、確かに私がBカップだとしら(※サバ読んでます)、ブロッサムはCくらいはありそうだけど……でもまだ分からないもん! それに女の魅力は身体だけじゃないし!
「……ふ、ふん! 身体の成長は早くても、それに精神が追い付いてないんじゃあね? 酷く不釣り合いで滑稽だわ」
「……なんですって?」
「綺麗に収まった事を蒸し返してる時点で証明された様なものじゃない」
まったく……これだから中学生はお子様でいけない……やれやれと、わざとらしく溜め息を吐きながら首を左右に振る。
「聖母ロールプレイは楽ちいでちゅか?」
「根が真面目なのに、無理に悪役ロールプレイしちゃって……背中が痒くなるわ」
──ビギィッ!
「……あ、聖母じゃなくてヒンヌー教の
「……お友達のために頑張る混沌二位(笑)」
──ビギィッ! ビギビキィッ!
「……あれあれ? 頼るべき大人って何処かなぁ? ……あっ! もしかしてこの幼女?」
「『でもぉ……う、上手くいかなくてぇ……』、『どうしたら良かったのよぉ……』……また膝を貸してあげようか?」
──ビギィッ! ビギビキィッ! ……プッツン。
「チビ」
「ガキ」
「バカ」
「アホ」
「ロリ貧乳」
「厨二病」
お互いに眉間に青筋を立てながら、ゆっくりと頭を後ろに振りかぶり……お互いに自身の額に小さな結界を重ね──
「終わり良ければッ──」
「──過程のクソが目立つッ!!」
──思いっ切り頭突き合うッ!!
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