第191話第二回公式イベント・collapsing kingdomその22

「おや、ハンネスさんではないですか」


「……お前か」


一先ずは『バーレンス王国』の拠点に戻ろうと、王都を出て直ぐにポン子さんを大型二輪車へと変形するように急かしたところでハンネスさんと合流します。

タイミングが良いですね、あと少し遅かったら置いて行っていたところですよ? 元々『エルマーニュ王国』を先に攻める事は彼から言い出した事ですし、ちゃんと何かしらの目的でも果たせたのでしょうか?


「​──あら? 王女殿下ではないですか、お久しぶりですね?」


「……」


……無視、というか返事が咄嗟に出てこないみたいですね? 久しぶりに会えたというのにつれない方ですね……何か問題でもありましたでしょうか? 割と彼女とはそれなりに会話をした仲だと思うのですが……?


「? 元気がないのですか?」


「……おい、レーナ止めろ」


「? どうしたんです?」


いきなり何だと言うのでしょう? 王女殿下の事を心配しただけですのに、急に怖い顔をしたハンネスさんに遮られてしまいました……何処か、『普通』ではない処があったのでしょうか?


「お前、コイツに何をやったのか忘れたのか?」


「どれの事を言っているのかさっぱり……侍女を殺した事ですか? それとも国王の方ですかね?」


何をやったのか……と聞かれましても、ハンネスさんがどれの事を言っているのかさっぱり分かりませんね……人が人に何かをし合うという行為自体は酷くありふれたものだと思うのですが。


「あっ、帝国に侵攻する時に一緒に行った事は覚えてますよ? 楽しかったので」


「……それだけ覚えてて、よく普通に話し掛けられるな」


「……やっぱり『普通』なんじゃないですか、何処が悪いと言うのです?」


「……」


ちゃんと『普通』に話し掛けられている様で、一先ずは安心ですね……ですがそれですと、尚更なぜハンネスさんが微妙に怒っているのか……そもそもなぜ王女殿下は返事を返してくれなかったのか……さっぱり分かりませんね。


「普通は……そこまで酷い事をした相手に、普通に話し掛けたりは出来ねぇんだよ……」


「つまりのこの場合は『普通』である事が『普通』でないと……?」


なるほど……話し掛け方や言葉選び自体は『普通』で問題無かったようですが、私と王女殿下の関係性で『普通』に話し掛けるという、その行為自体が『普通』では無かったようですね……中々に難しいものです。


「……ちょっと待て、何の話をしてんだ? お前だけ論点が違うぞ?」


「……はい?」


「なんなんだ、さっきから普通普通って……そんな話はしてねぇよ」


……そうですかね? ハンネスさんが『なぜそんなに『普通』に話し掛けられるのか』という問を発っしたので、『では何処が不味かったのか』という確認は大事だと思うのですが……?


「なんで殺した相手の娘にそんなに気安く話し掛けられんだって聞いてるんだよ……何を考えてんだ?」


「? 久しぶりに会った知人に声を掛けただけですよ?」


よく母も言っていたものです……『挨拶は大事だよ、古事記にもそう書いてある』、と……残念ながら古事記には別にそれらしい記述はありませんでしたが、とりあえず『挨拶は大事』なのだという事が伝えたかったというのは分かります。

そんな母の教え通りに久しぶりに会った知人に軽く挨拶をしただけなのですが……母の教えが間違えた事はありませんし、何がいけなかったのでしょう? 話し掛け方自体は『普通』だったのですよね?


「だから、お前はコイツの父親やメイドを殺しただろ? 残虐な場面も強制的に見せたんだろ?」


「? 昔の事ではないですか?」


「​──」


あ、でもそんなに昔ではないですか、ね……? うーん、どうなんでしょう? このゲームをしていると楽し過ぎて時間の間隔が曖昧になるのが困りものですね……いつもアラームをセットしないとログアウトを忘れてしまいますし。


「お前、は……もし仮に大事な人が殺されて、その犯人が一年も経たずに気軽に話し掛けて来たらどうする?」


「? 何を言ってるんですか? 私の大事な人は殺されていませんし、話し掛けられてもいませんよ?」


何が言いたいのでしょうか? いきなりそんな突然に起こってもいない事を話されても、その時になってみませんと分かりませんよ……?


「……コイツの立場になって考えてみろって言いたかったんだ!」


「? 私は王女殿下ではないので……」


「あー、もういいや……お前はそういう奴だよな……」


……疲れた顔のハンネスさんを見ると、なんだか申し訳なくなってきますね? どうやらまた人とのコミュニケーションに失敗してしまったようです。ですが、まぁ​──


「ハンネスさん」


「あ? なんだよ?」


「ちゃんと​──叱ってくれたんですね?」


「……うるせぇよ」


ふふ、ちゃんとあの三つ巴の戦いの後の事を有言実行してくれたんですね? アレクセイさん然り、ロノウェさん然り……口先だけではない方は好きですよ?


「ハンネス様?」


「っ! な、なんでもねぇ! さっさと帰るぞ!」


「そうですね、さっさと帰りましょう」


訝しげな表情で王女殿下に話し掛けられたハンネスさんが急かすので、その言葉通りにさっさと拠点に帰りましょう……他の方もそれぞれ自分の目的を果たして勝手に帰っているでしょうし。

ポン子さんに跨り、今回はハンネスさんと王女殿下用にサイドカーも再現して貰ってから三人で乗り込み、走らせます。


「……あの、レーナ様」


「……」


それにしてもタピオカマンさんは何処に行ったのでしょう? てっきり勝手にヒンヌー教祖さんと蘭花さん、ハンネスさんとタピオカマンさんで別れて一緒に行動していると思っていたのですが。


「…………レーナ様?」


「……」


リリィさんもあの後『バーレンス王国』に残って何をしていたのかも気になりますね……一人だけ残って、何か目的でもあったのでしょうか? イベントに参加しないだけなら、大国に所属しているはずですし……彼女? 彼? も謎ですね。


「レーナ様!」


「……おい、無視してやるなよ」


おっと、ハンネスさんに注意されてしまいましたね……ふむ? この場合は〝アリ〟なのでしょうか?


「えっと……私と王女の関係性では会話はご法度なのでは……?」


「……お前、本当に極端だな」


「そう、ですかね……?」


極端なの、でしょうか……? ちょっと良く分からないですね……何が良くて、何が悪いのでしょう?


「あのだな? 加害者側から軽く話し掛けるのは煽ってる様にしか見えねぇけど、被害者側から話し掛けるのは歩み寄りの場合が多くてだな​──」


「ほうほう」


ポン子さんを走らせ、頬に強烈な風を感じ取りながらハンネスさんが丁寧に教えてくれる『普通』と、そのケースバイケースについて関心しつつ良く聞きます。……ハンネスさんって、割と面倒見が良いですね。


「こんな人に私の国は滅茶苦茶に……(小声」


ハンネスさんの話を聞き、心做しか落ち込んでいるようにも見える王女殿下を横目で確認しながら……さて、どうやって・・・・・彼女で・・・遊ぼう・・・、と……思案を巡らせます。

どうせ彼女の事は殺せないのですから、一緒に『遊ぶ』ような仲になりたいですよね。……『バーレンス王国』に着くまでに考えておきましょう。


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