第190話第二回公式イベント・collapsing kingdomその21

「……なんだこれ」


マリアを救出する為に先ずは敵情視察と言うことで、《覗き見いやん、スケベ》という《千里眼》や《鷹の目》と効力は全く同じスキルを発動して、マリアとマリアを連れ去った敵の様子を観察していたんだけど……意味が分からない。


「いや本当になんだこれ」


……なんでマリアは礼拝されてるの? なんでマリアはお経を唱えられてるの? なんでマリアは『世に蔓延る巨乳共よ! 滅べ!』なんて闇堕ちしてるの? 僕はあの場所から闇堕ちマリアを助け出さなきゃいけないの?


「……嫌すぎる」


なに? なんの罰ゲームなのこれ? 変態、変人、修羅の中から修羅だけを選んで連れ出せって? ……いや無理でしょ、普通に考えて……怖いよ?


「もう何だかマリアは助けなくても、なんだかんだ無事に生還するんじゃないかな……」


そうだよ、うん! きっとそう! だって今のマリアは巷で有名な『聖母マリアちゃん』じゃなくて『鬼子母神のマリア様』だ……あれの逆鱗には触れたくはない​──


『お願いだからユウ……早く助けに来てください……今ならほっぺにチューしてあげます。……やっぱり嘘です。ほっぺチューは無いけど助けに来てください。切実に』


「……仕方ないなぁ」


​──そんなに弱々しく言われたら助けるしかないじゃんか……いつもの強気な言動は何処に行ったんだか……まったくもう。


「まぁでも準備があるから、もうちょっとだけ待ってて欲しい」


見つからない内にその場から離れつつ、そそくさと渡りを付けた協力者・・・の元へと急ぐ……大丈夫かなぁ、割とSAN値が急激に削られてそうだし、持つか心配だなぁ。


「……『しばし待て』、と」


フレンド同士であっても違う国に所属しているならチャットは使えないけど、僕とマリアは同じ『エルマーニュ王国』所属だし問題ない……いつもの様にチャットで一言だけ添えてから、北の『ベルゼンストック市』を目指す。


▼▼▼▼▼▼▼


「どうして……ママ、どうして……」


「だから私は貴方のママではないと​──んぇ?」


おっといけない……こんな状況で急にフレンドメールが来るものだから、変な声が出ちゃった。……全く誰なの? この私に恥をかかせた愚か者は​──


「​──むふふ」


「? ママ?」


おっといけない、変な笑い声が出ちまったぜ……全くユウってば何が『しばし待て』、よ? 格好つけちゃってまぁ……もう本当に仕方ないなぁ。


「……むふふ」


「……ママ?」


あ、ダメだこれ……ニヤニヤが止まらない、どうしよう……でもそっかぁ〜、ユウは私を助けるつもりなのかぁ〜、そっかそっかぁ〜……もうさっきまで意地を張ってたくせになぁ〜? どんな心境の変化かなぁ〜?


「むふふ」


「……委員長どうしよう、ママが壊れた……御仏パワーでなんとかならない?」


「貴方、仏様をなんだと思ってるのよ」


これわぁ〜? ユウの方から謝るパターンかなぁ〜? そうだとしたら駅前のケーキは何を奢って貰おうかなぁ〜? 悔しがる奴の顔が思い浮かぶようだぜ!


「はぁ〜……安心したら怒ってるのが馬鹿らしくなっちゃった」


「ママ?」


「私は貴方のママではないと、あれほど……まぁいいや。どうせ少しの間だけでしょうし、好きに呼びなさい」


ほんの少しの間だけと思えば我慢できるし、それどころかなんだ中々ない経験だから素直に楽しむ余裕すら出て来るってもんよ……いや中々ないどころか、普通は絶対にありえない経験なんだけど。


「? もうイベントが終わるって話ですか?」


「え? いや、もうすぐユウが助けにくるから​──」


「​──小判鮫が、ぺッ!!」


「「……え?」」


……え? 先ほどまで『許された! ママ! ママ!』って気持ち悪い言動をしていた変態中学生の突然の悪態に、仏教系女子と一緒に驚き振り返る。


「あの悪魔が貴女様を攫いに来ると……?」


「え、いや、攫ってるのは貴方の方……?」


え、なになに? ユウってば知らない内に変な人の恨みでも買ってたの? ……多分ユウの事だから悪気なく、『その、そういう言動は後になって後悔すると思うよ? 良かったら厨二病で検索してみて?』とか、親切心で空気読めない発言して地雷とか踏んじゃってたりする?


「ねぇ貴方、ユウって人に何か恨みでも​──」


「​──当たり前だよなぁ?! アイツ、ジェノサイダーちゃんだけじゃなくてマリアちゃんとも一緒に居るのが度々目撃されんだぞっ?! 小判鮫が! ぺっ!」


「「……」」


即座に私は悟る……『あぁ、これユウは悪くないやつだ』、と……これ完全にこの変態中学生というか、ジェノラーみたいな人種の総意だわ。

私もあわよくばレーナさんとお近づきになりたい人だったから分かるよ、うん。……その中になぜ私が入ってるのかは知らないけれど。


「はぁ〜、キレそッ! アイツの事をギッタンギッタンにして、そんでもって​──」


むぅ……ユウの事をギッタンギッタンにするって? 確かにアイツはレーナさんと割とよくゲームを楽しむ仲だし、嫉妬するのは分かるけれど……変な事をしたら絶対に許さないんだからね!


「​──男の娘にしてやるッ!!」


「よっしゃやったれ! 私が許可する!」


何事にも例外はあるよね! (テノヒラクルー)そうだよ! 前々からユウの事は女装させたいと思ってたんだよ! まずはいつもギャルゲー主人公みたいに長い前髪を結んで上げて、可愛いフリフリのミニスカートとかを履かせたいよね!


「ママ! 彼には絶対に猫耳が似合うと思うのですよ!」


「うんうん、そうだよね! ママが許可しちゃう!」


「彼には是非とも可愛らしい服装をして貰いたく……なぜならとても似合うと同時に​──」


君も中々に分かってるじゃないかぁ! ユウには猫耳! これは外せないよね! そんでもってミニスカニーソに、セーラ服も似合うかも知れない! 私の制服は……流石に入らないか。

ハァ、妄想が捗りますなぁ……助けに来てくれるユウには悪いけれど、これは許してしまうかも?


「​──私は男の娘もイけるッ!!」


「あなた、ユウになにをするつもり?!」


物事には許される事と許されない事があるんだよ?! ユウをギッタンギッタンにして、何をするつもりなの?! 確かにアイツはレーナさんと割とよくゲームを楽しむ仲だし、嫉妬するのは分かるけれど……変な事をしたら絶対に許さないんだからね!! (テノヒラクルー)


「〝性癖のフルーツポンチ〟とは、私の事でございます……ママ」


「私は貴方のママではない」


なによ〝性癖のフルーツポンチ〟って……そんなのただのモンスターじゃないのよ、そんなの実の息子でも養護施設に捨て去るわ! (辛辣)


「どうか、御仏の加護を私に……堪え切れないのッ!!」


「私が堪え切れないよ! 貴方の相棒でしょ!」


「石森君はモンスターだから……」


うぇ〜、ユウ早く助けに来て〜……いや、ユウも貞操の危機だけど助けに来て〜! お願いします〜!


「モンスターではございません​​──貴女の幼子でございます」


「縁切れやオラァッ!!」


​──ユウが助けに来るまでの間、私は奴の頭髪を燃やしに燃やした。


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