第8話 リリアーナの活動
社交シーズンに入って王宮に出入りできるようになるまで、下町を中心に炊き出しをするようになっていた。
もちろん、貴族のドレスではなく、町娘の格好でだ。いや、誘拐されたくは無いし。
遠巻きに、シャーウッド家の家臣が護衛してくれている。彼らは、キースの腹心で信用できる人達だ。
そこでやっぱり、こっそり古着を着てやって来ていたレオポルド・シャリエールと落ち合う。
彼にはフランシス殿下との連絡役をしてもらっていた。
「もう。来られないと思っていましたがね」
そう言いながらレオポルドは、私がついだ野菜スープを並んでいる浮浪者たちに渡している。
「意外と良い人だったのよ、私の旦那様は。炊き出しの事を言ったら快く外出させてくれたわ。ああ、そうだ。これを」
誰が聞いているかもわからないので、お互い名前は出さない。
私はキースから預かった、日本語の練習用の本(キース作)をフランシス殿下に渡すように頼んだ。
「確かに、預かりました」
レオポルドは、ずだ袋にキースが作った本を入れている。
ひらがなと簡単な言葉を覚えてくれるだけで、ずいぶん意思の疎通が出来るようになると思う。
これで監視が強い王宮内でも、情報伝達が出来るようになるってもんだわ。
週一の炊き出しに、社交シーズンが始まってからのお茶会。
私は、その合間をぬってクライド殿下やフランシス殿下にこっそり会いに行っていた。
今日も、フランシス殿下会った帰り。
珍しく、王宮内の廊下で国王の側近シモン・アルシェとすれ違った。
「あなたは、死にたいのですか」
すれ違いざまにそう言われた。
アンセルム殿下に何か感付かれたかもしれない。
まぁ、感付かれても良いように私が動いているのだけれど……。
キース……いえ、悠人は、私は向こうの世界でまだ死んで無いって言ったから、どこかで戻れるのだろうけど。
その先、リリアーナ姫が生きていかなければならないのだったら、あまり無茶も出来ないのかな?
まぁ、キースの手紙もフランシス殿下に渡せたことだし、少しお屋敷でのんびりしていようかな。
なんだか、体調もあまり良く無いし。朝は気分が悪いのよね。
「奥様。朝食をお持ちしました」
「あら。ありが……うぷっ」
いや、何? 食べ物の匂いが気持ち悪い。吐く……かも。
私の様子に、侍女たちが慌ててタオルや器を持ってくる。
少しだけ吐いて、冷たいタオルを顔に当てていたら少し気分が良くなった。
お水も少し貰う。
なんなんだろう?
「奥様。もしかしたらお腹にお子様が……」
え? 妊娠した? キースの子を?
って、キースの子だろうけど……。
えっと、私が産むのかな?
私は、お腹にそっと手を当てた。
赤ちゃん、いるかもしれないんだ。
なんだか、不思議。
元いた世界でも、そんな経験無いから……。
そう言えば、ここしばらくキースに会っていないけど。
報告したら、喜んでくれるのかな?
私はのんきにそんな事を考えていた。
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