第3話 フランシス殿下へのお願い

「必ず。必ず、君だけは守るから。だから、僕らに協力をしてくれ」

 フランシス殿下は、真剣な顔をして私に頼んでいた。

「はい。つきましては2つお願いがあります。1つは私の派閥を、フランシス殿下の下へおいて頂きたい」

「どうして? クライド兄様の下の方に渡した方が……」

「いえ。クライド兄様は、王太子殿下に次ぐ王位継承権を持っています。今、一番危ないのは、クライド兄様ですわ」

「ああ。なるほど……」

「すべてを引き取ってくれとは、申しません。そんなことしたらお兄様も危なくなってしまいますもの。ですから、レオポルド・シャリエールとその一族を。私の派閥のトップです」

 私からの申し出に、フランシス殿下は考え込んでいるようだった。

 レオポルド・シャリエール伯爵。彼と彼の一族は、武闘派で戦場に駆り出されることも多かったが、主に私の護衛をしてくれていた。

 その護衛が外れるのを心配してくれているのだと思う。


「派閥を引き受けるのはかまわないが……」

「私はもう、婚姻によって王宮を離れる身。キース・シャーウッドの下に護衛は連れて行けませんわ」

「そうだな。相分かった」

 難色を示していたフランシス殿下だったけど、王太子派に取り込まれるよりは……、と思ったのだろう。了承してくれた。


「そしてもう1つ。私に剣の稽古を付けて頂きたい。みんなの足手まといになりたくはありません」

 フランシス殿下は、もう1つの申し出に驚いた顔をした。


「剣の練習はちゃんとしようと思ったら、最初は身体がボロボロになる。食事もまともに取れないくらい。僕らもそうやって、剣が使えるようになった」

「わたくしの相手はまだ戦場でしょう? 婚礼には、まだ半年以上ありますわ」

 仕方無いなぁ……と言う感じで、フランシスは溜息を吐いた。

「いいよ。だけど、基礎だけ……だからね」

「ありがとう。お兄様」


 私は純粋に嬉しかった。この思いがリリアーナ姫のものであったにしても、私自身が足手まといでいる状態にはストレスを感じるから。

 フランシス殿下は、複雑な顔をしていたけど。



 フランシス殿下との剣の訓練は、あっという間に王宮中の話題になった。

 意外だったのは、王太子殿下が黙認したこと。

「別に、女の身で剣術の訓練をしたことろで知れておる。才有さいあれば、戦場に送り込めば良いだけの話だ」

 そう言って、苦言を呈してきた者の首をはねた。


 そうしているうちに、キースが戦場から帰ってくる。

 簡単な婚礼の儀を行なって私はキース・シャーウッド公爵の正妻となった。

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