第2話 フランシス殿下への忠誠
私が、今の自分の状況を分析していたら、侍女が声を掛けてきた。
「お寛ぎのところ、失礼致します。フランシス殿下がお見えですが、お通ししてよろしいでしょうか?」
私が座っている横で、侍女は可哀想なくらいかしこまっている。
「かまわないわ。通してちょうだい」
フランシス殿下は、確か3番目の兄だったはず。
王子でありながら、12~3歳の頃から戦場を駆け回らされていたのだったわ。
今は、立派な司令官になっているはず。
侍女たちが、慌ただしく席を作りお茶の用意をしている。
準備が整ったら、フランシス殿下が入ってきた。
「お兄様。今日は何の御用ですの?」
テーブルに着き、私の質問に答える前に、侍女に目配せをして人払いをしている。
完全に、人の気配が無くなるまで、私達が無言でお茶を飲んでいた。
「王太子殿下は何て?」
「私の婚礼の話でしたわ。お相手は、キース・シャーウッド。ご当主の急逝で、若くして公爵の爵位と当主の座を引き継いだ方ですわね」
暗殺だという噂もあるけれど、どちらにしろ王太子派の人間だ。
フランシス殿下は、溜息を吐いた。
「これは……困ったねぇ。僕たちを引き離しにかかったか」
困ったと言いながら、彼は少しも困った顔をしていない。
どうしてかしら? リリアーナ姫はフランシス殿下と共に第二王子であるクライド殿下を支え、アンセルム殿下を追い落とすために奔走していたはずなのに。
戦力になっていなかった?
この世界での事は、まだ実感がわかないけど、リリアーナ姫のこれまでの記憶はある。
私がこの婚姻で事実上、アンセルム殿下の監視下に置かれてしまっても、何の支障も無いのかもしれない。
「リリアーナ。僕たちのことは気にしないで良い。どうせキースは、ほとんど戦場にいる人間だ。公爵夫人として、後はのんびりしていたら良いよ」
ああ。お兄様は、私がこのお家騒動の戦列から外れる事にホッとしているのだわ
自分は、命の危険もあるのに。だけど、私は……。
私は椅子から立ち上がり、そしてフランシス殿下の前に跪く。
これは私のというより、リリアーナ姫の意志だわ。戦列を離れたくないという。
「わたくし、リリアーナは、フランシス殿下に、身命を賭して忠誠を尽くすことを誓います」
私は忠誠の誓いを口にした。
どんな立場になっても、この人と争わない様に。
だって、私はフランシス殿下に次ぐ王位継承を持っている。
目の前のフランシス殿下は戸惑っているように見えた。
「そんなこと、してはいけない。今の言葉は聞かなかったことにするから、立ちなさい」
「いいえ。どうか、私の忠誠を」
私は必死になって訴えた。
フランシス殿下は椅子から降り、自身も膝を折って座り私に目線を合わせる。
そして、その両手で私の手を包んでくれた。
「すまない、リリアーナ。僕が……僕らが不甲斐ないばかりに、君を不幸に巻き込んでしまう。まだ、子どもなのに……」
「お兄様、そんな顔なさらないで」
フランシス殿下は、少しだけ笑顔を作って言った。
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