第16話 フランシス殿下とキースの思惑(キース側)

「こう監視が厳しかったら内緒話も出来ないねぇ」

 フランシス殿下はため息交じりに言う。

 自国なら完全な人払いも出来る。

 だけど、イングラデシア王国でなくても、他国でそんな事をして何かあったら国際問題になる。

 しかも、リナの策は1つ間違えば、マリユス・ニコラと一蓮托生になってしまう。

 肝心のリナ自身だって、無事に済むかどうかわからないという無謀な策だ。


 ここは王宮内のゲストルーム。

 使節団のメンバーに一室ずつ与えられている豪奢ごうしゃな部屋だ。

 一緒に来た従者や船乗りたちは、別の場所に部屋を用意してもらっているようだが。


 今、僕はフランシス殿下の部屋にいる。

 内緒話をするには、この世界で誰も読めない日本語での筆談をするしかない。

 ずいぶん前にフランシス殿下にはこの言葉を覚えてもらった。


 まぁ、何にしろリナがこの国で日本語を使ってなくて良かった。

 そのおかげもあって筆談で、リナの策を伝えることが出来た。


「もう一つ、交渉がいるよね」

 フランシス殿下がそう言いながら、サラサラと日本語を書いていく。

『僕らが処刑されると決まった時、リナがグルタニカ王国に渡ってくれるという確約』

 結局は、リナ頼りになるのか……。

 今のリナはゲーム内での記憶しかないが、それでも、リナが向こうに渡ってさえくれれば、何とかしてくれるだろう。


 昔からと言うか、前世の日本にいる時からそうだった。

 里奈自身が優秀な訳では無い。

 ただ、誠実で何か失敗があっても、決して人の所為にしない。

 そうして自分の後輩や部下を庇ってきた。

 まぁ、それが原因で研究開発部から外されてしまったのだが……。


 そんな里奈の周りは居心地が良く、優秀な人材が集まってくる。

 営業職にまわされた時だって、最初こそやっかみなんかで、苦労していたみたいだが、里奈を庇ったり、慕ったりする人間も出て来ていた。


 31歳の若さで、過労死さえしなければ、周りから押し上げられて出世街道まっしぐらだったかもしれない。


 グルタニカ王国にいた時も、そんな感じで進んでいた。

 里奈が入っていたリリアーナ姫は、軍事クーデターの準備を始めていたのだから。

 多分、この国でもそういう風に改革をしているのだろう。

 

 僕は、そう推測してペンを走らせる。

『手放してくれますかね。危険なところにやると分かっていて』

 本音を言うなら、僕だってリナをあの国に連れて帰りたくない。

 これが最後になっても……。

『行かせるしかなくなるよ。この国だって他人事じゃない。ただ、あまり判断が遅くなると、リナでもどうしようも無くなる』


 フランシス殿下は、リナ個人のことより国を優先して発言している。

 自分自身だって、この国から生きて帰れるとは思っていない。

 反論しようも、出来るはずもない。ない……のだが。 

 平和ボケした日本で成人して、生きてきて……、もうこの世界に来て26年も経つのに、まだついていけない自分がいる。


 だけど、リナの方はこの国にいる間だけでも、フランシス殿下に忠誠を誓うと言って、王太子派の一人を引き受けてしまった。

 そうして、僕らが処刑された後は、グルタニカ王国の後始末も引き受けるつもりなのだろうか。

 セドリック殿が上手く引き留めてくれると良いのだが。


 ……結局は、他人頼みなんだな。僕は……。

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