第12話 親父達からの説教とリナの外交的政略結婚

 私の問題発言(?)の後、脱力から立ち直った国王陛下を始めとする親父組に説教をされてしまった。

「処刑済の首を渡した日には、和平も何もあったものではない、何考えておるんだ、お前は」と、口々に……。

 何かすごく理不尽。

 私だって処刑されたいわけではない。だけど、国家機密を他国に漏らして、この国を危険にさらすくらいなら、私の命なんて……って思ったのだけど。

 ジークフリート殿下たちは、国王陛下の態度に驚いていたようだけど。

 うん。他人行儀だものね、あなた達。


「え~! だって」

「だってじゃ、無いでしょう」

 アボット侯爵は本気で呆れているみたい。

「とにかく、今の発言は聞かなかったことにするからな。変な事を考えず、自分の仕事をしてなさい」

 私にそう言って国王陛下はセドリックの方に向かって言う。

「セドリック・クランベリー」

 いきなり国王陛下に名指しされて、セドリックはかしこまって礼を執る。

「はい」

「ちゃんと言って聞かせるように」

「かしこまりました」

 セドリックがそう言ってもう一度、礼を執りなおしたのを確認して、国王陛下と親父たちは部屋を出て行った。


 私は1人残されたので、セドリック達の下に行く。

 なんで、説教されないといけないのよ。納得いかない。

「なぁ、リナ。身分制度って何だっけ?」

 サイラスが訊いてくる。そう言えば、以前身分制度について説教されたっけ。

「まぁ、立場的には国王陛下より上ですよね。リナ様の方が」

 リーン・ポートの事を正確に知っているクリフォードはそう答えているけど。

「また理不尽に叱られた……」

 ブツブツと文句を言っている私を呆れた目で見ながら

「陛下に言って聞かせろと言われた俺の身にもなってくれ」

 そう言ってセドリックはため息を吐いているのだった。


「そういえば、リナ。あちらの使節団長から打診があったのだけど」

 ジークフリート殿下が私に話を振ってくる。

 フランシス殿下から?

「どういった打診ですか? 王太子殿下」

「ジークフリートで良いよ。仲間内だし。それで……」 

 なんだかジークフリート殿下がセドリックに目線をやっている。

 何?

「リナを連れて帰りたいって。あちらの第三王子フランシス殿の婚約者として」

 フランシス殿下の婚約者として……?

「何ですか? それ。意味が分からないのですけど」

 キースのって事じゃなくて? 何で、そんな打診。


「非公式の打診だったから。こちらの事情を説明してお断りしているのだけれどね」

 あ~、この前フランシス殿下が呆れていた奴かぁ。

「一応、俺たち表向きには政略結婚扱いだし、準王族の結婚だから何とかなるって思われたのかな?」

 セドリックが冷静な声で言っていた。国政に関わる話として。

 なんだか正式に決まってしまったら、セドリックからフランシス殿下に引き渡されそう。


「前例が無いわけでは無いですからね。価値があると思えば、結婚していても……」

 ジークフリート殿下も、政治家として意見を言っているようだった。

 キースのような、一貴族ならまだしも、王族相手なら仕事の一環として結婚させられてしまう。

 私は、思わずセドリックの上着を掴んでしまった。

 手が震えている。

「むこうの王族から望まれているのなら、個人の感情は考慮されませんね」

 私が考えていた事と同じことをクリフォードが言ってきた。

 言った後に私が怯えているのに気付いたのか慌てて言いなおしているけど。

「あ……あとは、リナ様がもともとは子爵令嬢だという事を主張すれば、身分差を理由にすることはできますが」

 我が国は、下位貴族に政略結婚の義務を課していない。

 でも、それって外国の人達にも通じるの?


「だけどさ。リナはセドリックと政略結婚している訳だろ? 昨年のお家騒動の事も知っているみたいだし。難しくない?」

 今まで黙って聞いていたアラン殿下までそんな事を言ってきた。

「正式な申し込みがあれば、そう言ってみるよ。セドリックと離婚したら、政略結婚の義務が無くなる立場に戻りますって」

 ジークフリート殿下は、私に笑顔で言ってくれた。

 そして、クリフォードとアラン殿下を連れて明日から再開される交渉の準備をするために退出していった。


「俺らもそろそろ仕事に戻るか。使節団も戻って来てしまうからな」

 みんなを招集した責任上最後まで残っているサイラスが言う。

 私たちが、退出するのを待つかのように、後片付けの為に侍女や使用人が入っていく。


 部屋を出ながらも、セドリックにしがみ付いたままの私を何と思ったのか。

 セドリックが、しがみついている私の手を外した。

「セドリック……?」

 処刑の話をしている時ですら、怖いと思わなかったのに。

 何でだろう? 今のセドリックの態度に心が凍る思いがする。

 自分の上着にしがみ付いていた私の手はセドリックの手に握り込まれていた。

「怖い? 俺からフランシス殿下かキース殿に引き渡されるの」

 セドリックは無表情で私を見ている。

「怖い……です」

 私は思わず下を向いてしまった。


 セドリックの長いため息が聞こえる。

「それなら、あんな事言うものじゃない」

「あんなこと?」

「自分の首を差し出してくれ。なんて、聞く方の身にもなってくれ。俺は……多分、みんなもリナちゃんのことが大切なんだ。だから、親父たちも怒っていたろう?」

「はい。ごめんなさい」

 そうだった。逆の立場だったら私も怒っている。

 下を向いてしまった私の頭をセドリックが、優しく撫でてくれていた。


「サイラス。リナを連れて帰って良いか?」

「ああ。今日は訓練も無いしな。好きにしろ」

 じゃあ。とばかりにサイラスは職場に戻って行った。

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