第99話 子どもの戯言 暗殺についてのお話

 室内には、宰相の書類にペンを走らせる音だけが聞こえる。

 宰相の用事は済んでるので、退出させられても仕方ないのだけど、何も言わず私の滞在を受け入れてくれている。

 セドリックも、こんな感じで入り浸ってたのかな。


「宰相様」

「ちょっと待って下さい」

 さらさらと何か書いてる……って終わったみたい。

「いいですよ。何ですか?」

「あの……子どもの戯言だと思って聞いて欲しいんですけど」

「場合によっては、聞かなかったことにして欲しいと言うことですか?」

「あ……はい。すみません。誰にも言えなくて」


「分かりました。どうぞ」

「アボット侯爵様って、アラン様の暗殺とかたくらんだりしますかね」

「私も王太子派なのですが」

 聞いて良いのかって言ってる。そうだよね、私、気抜きまくってるな。

 王太子派には、絶対振ってはいけない話題だったのに。


 多分、私と同じ。アボット侯があの本を持っていて気付かなかったはずが無い。

 リーン・ポートを生み出すのは世襲制だ。賜たまわる方は、ランダムだが。生み出せる人に子どもが出来無かったり、亡くなったりしたらそこで途切れる。

 前例が無かったから続いているのだろうし、当初は知る人も多く、結界を維持するために大切にされてただろうから。


 結界が壊れかけている今、リーン・ポートを生み出すことが出来るアランがいなくなれば……そして、真相を知る人々が口をつぐんでしまえば、この連鎖は終わる。

 私の、リーン・ポートはアランに反応しているのだから。


「すみません。聞かなかったことにして下さい」

 私は下を向いたけど、宰相は気付いたかも知れない。

 私が上手く表情が作れてないことに……。

 宰相が私の横に座って、顔をのぞき込んできた。

「どうしました?」

「すみません」

 自分から話し出しておいてそれしか言えない。

 宰相は、ソファーに座り直して言う。


「暗殺は……必要とあらばするかも知れません。この問題に限らず……アボット侯で、無くてもです。派閥のトップなら尚更です」

 さっきの話を無かったことにして、一般論として話してくれた。

「これでいいですか?」

 これが宰相に言えるギリギリなのだろう。

 私がお礼を言おうとしたら


「今の国王の騒動の時に、最後まで上の王子たちを生かす道を探してたのは、アボット侯なのですけどね」

「あ……ありがとうございます」

「いいえ。私のところからは、泣きながら出て行ったりしないで下さいね」

 アランのところからの事を冗談めかして言った。

 う~ん、あらぬ疑いが……たつのか?

 友人の娘枠だよね、わたし。

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