第91話 リナの執務室 セドリックとの話し合い

「ーで、この事態、説明してくれるんだろ?」

 とりあえず、私の司令官の執務室の方が近いって事で、セドリックとそこで話し合いをすることにしたのだけど。

 いや、こっちが聞きたいんですけどね。


「セドリック様の陰謀って聞きましたけど? 私の知らないところで、アボット侯爵様と取引したんですね」

「陰謀って、アボット侯復帰させたかったの、リナちゃんだろ? 俺が単独でした取引は、俺の推薦人ってだけ。こればっかりは親父に頼めないからな」

「え? じゃぁ」

「サイラスが言ってなかったか? アボット侯は身分や立場に厳しいって」

「言ってました」


「あの人がいたら、騎士団の制服を着た子爵令嬢を、王宮内で好き勝手させないだろうからな。だから、辞令の話は宰相に頼んだんだけど……」

「でも、指揮なんか出来ませんよ、私」

「それでかよ。サイラスの口車にホイホイ乗りやがって、ったく。どうせ、2人で指揮すれば良いとか言われてO.K.出したんだろ?」

 どっかで、見てたのかな?


「見なくても分かるからな。サイラスが速攻辞令出させたのは、俺が動く隙を与えたくなかったからだろうし。ホールデン侯まで、出してきやがって」

 いや、さっきからセドリックにドンドン追い詰められてるような。物理的に。

「この前、宰相や俺が言ったこと、理解してないだろう。それとも分かってて、取り込まれようとしてるのか?」

 セドリックが本気で怒ってる。私、そんな風に思われてた?

「セドリック様は、そんな風に思うのですか? 私が取り込まれたがってると」

 駆け引きでも何でも無い。本心で聞いてみた。

 ちょっと、声が震えてる。わたし今、どんな顔してるのかな。

 だって、悲しい、セドリックとこんな風に探り合いするの。セドリックに嘘なんか吐かないのに。

 私はセドリックと離れたくないのに、取り込まれようとしているなんて、そんな風に……。


 少し間が空いた。

 セドリックは私の顔をじっと見て、下をむいた。手で私を制するような感じで言う。

「いや……ごめん。思ってない。リナちゃんを疑ってるわけじゃないんだ。ちょっと、頭の整理させて……そんな顔させたいわけじゃ無くて……」

 私は、セドリックに思いっきり抱きしめられた。


「ごめん。そうだよな。いきなり司令官なんて出来るわけ無い。俺は一緒にいてやれなくなるし。身近で出来る奴を探すしか無くなるんだ。俺の所為なのに、ごめん」

 私もセドリックの背に手をまわす。セドリックの腕の中にいると安心できる。

 私を大切に想ってくれてるのが伝わってくるようで。


「リナちゃんの言動が大人っぽいから、つい錯覚しちゃうんだよな。まだ、こんなに子どもなのに」

 ーって、え? ここに来て、まさかの子ども扱い?

「一度、サイラスには俺から話すよ。あいつの策だしな」

「あの…」

「ん?」

「セドリック様はホールデン侯爵家を潰したいのですか?」

「今だったら、アランと切り離して潰せるよ」

 そ……か、そうだよね。そうしたらもう話し合う必要も無い。

 私の危険も無くなるかも……でも。


 私は、気付いてしまった。多分、アボット侯が狙ってるのも同じ……。

「私は、ホールデン侯爵家を残したいです。アラン様の為にも」

 その後の話は、内緒話のようにセドリックに耳打ちした。

 ライラの気配がしてたからね。王太子派には、聞かせられない

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