第86話 アボット候爵との会談の段取り
学園の春休み(?)も、ほとんど終わりに近い頃。
近衛の制服を着て王宮内を歩いていたら、チョイチョイと呼ぶ仕草をする影が見えた。
誰? っと思って、少し近付くとクリフォードが手招きをしていた。
私はクリフォードの方に、テテッと寄っていく。
「お久しぶりです。どうしました? クリフォード様」
「噂では聞いてましたが、ずいぶん、可愛らしい姿になってますね」
どんな噂だ。
「そんなこと言うために。呼んだんですか?」
私が少し不機嫌そうに言っても、ふてくされた子どもにしか見えないのだろう。
クリフォードは微笑ましいものを見るように笑って、仕事の顔に戻った。
「あ……いえ。失礼しました。例の件、やっと準備が整いました。日程とあちら側の条件です」
そう言ってクリフォードは私に書類を渡してくれる。王宮内では開けれないけど。
「条件?」
「あちらは、会談の条件としてセドリックの同行を求めてます」
私は今、怪訝そうな顔になってると思う。
ベネディクト・アボット候の意図が読めない。
リーン・ポートの話を避けるつもりか。
それとも、けん制用にバカな子どもの振りしたのが
「クリフォード様は、なにか聞かれてますか?」
アボット候は、クリフォードの父親だ。
立場上、答えれないかもだけど、一応聞いてみる。
「父とは、ほとんど会ってないのですよ。プライベートでは皆無です。今回の件もほとんど他人と同じ手続きを取ってたので……。有益な情報を持ち合わせて無くて済みません」
「あ、いえ。謝らないで下さい。こちらこそ、家庭事情を言わせてしまってすみません」
「リナ様は、私がウソをついてるとは、思わないのですか?」
おや? 何か隠してる? だとしても……。
「疑ったらきりが無いですからね。でも、仲間の言うことは信じますよ」
「仲間……ですか」
クリフォードから、少し戸惑った気配がしている。意外だったのか、それとも立場上迷惑なのか、わからないけど。
「すみませんね、勝手に仲間にして。でも、私の心の中の問題なので、子どもの戯言と思ってスルーして下さい」
「いえ。ありごとうございます。リナ様」
「どういたしまして?」
おや、クリフォードの頬が少し赤い。
「それで、セドリック様の方には伝えてあるのですか?」
「あ、はい。既に伝えております。多分、今頃仕事を調整していると思いますが」
なるほど、今、諜報部隊を率いているセドリックが、一番忙しいものね。
私も近衛の仕事明日までだし、準備しようかな。
まぁ、もうこの辺になると、私には準備しようもないんだけどね。
王様の書簡くらいかな。
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