第44話 逃げない為の、話し合い

 時は少し戻り。

 ジークフリート、謝罪の数日後。


 私達は、特例の認められているジークフリートの部屋に集まっていた。

 私が、逃げないで王室のお家騒動に巻き込まれる、と言う事を決めたので、その対策を話し合うために。


 ジークフリートが正面、その横にエイリーン、私の横には横にアル兄。

 そして私自身はセドリックのお膝で、後ろから拘束されていた。

 ものすごく、善意に捉えたら抱っこされているとも言えなくない。

 兄が無反応だから、拘束で正しいんだろう。

 自分の計画を言った途端、セドリックに捕まったもんね。


「だって、私に裏工作なんて、出来ません。人脈も無ければ、能力も無いですし。すでに目立ってるのだから、適材適所でしょ?」

「だから、リナちゃんが動く必要は無いって」

 セドリック。後ろで溜息付かないで欲しい。首に息がかかって、何気にゾワゾワする。


「前回のことで、お前が動くとろくな事にならないのはわかった」

 兄が私の事を、どう思っていたのか良くわかったよ。

「私と常に行動を共にしてれば良いのですわ」

 エイリーンはどこか自信満々に言う。

「それで、また一緒に危険な目に合うんだね、我が婚約者殿は」

 ジークフリートも溜息を付いた。

「助け出す人数が増えるだけじゃないか」

 ボソッと言ったつもりのつぶやきは、エイリーンとリナの耳にも届く。

 ジークフリートは、二人から睨まれて、あさっての方向を向いた。

 実際、こんな話し合いしても埒が明かないな。


「でも、私が動いても、動かなくてもこの時期、籠もっている訳にはいかないのですし。何より皆様、私を守ってくださるのでしょう?」

 私は、上目遣いで皆を見て、セドリックのリナを拘束している手にそっと、自分の手を重ねた。ちょっと、ずるい手だ。


 でも、今回のネックはそこなのだ。

 私は、婚約者のいない子爵令嬢。

 自宅や学園内に籠もっているわけにはいかない。

 夜会やお茶会、社交シーズンの前半動けなかった分、後半は出ないとまずい。

 はっきり言って、何もしなくても、狙われる可能性は否定できない。


「ずるいなぁ。そこを突くのか……」

 とは、ジークフリート。

 この場で一番地位が高いから、決定権はジークフリートにある。

「ダメですか?」

「いいよ、それで決定で。ただし、本当に危なくなったら、約束通り私が引き取るからね。リナ嬢」


 私が引き取るからね……? って、ここで言う?


「ちょっと待て、ジーク。どういう意味だ?」

 セドリックの拘束が強くなる。

「セ……セドリック様。苦しい……」

「あ……悪い」

 一応、謝ってはくれたけど、拘束する手は離してくれない。


「そのままの意味だよ」

 ジークフリートも、しれっとセドリックに返しているけど……。

「エイリーンとの婚礼の後、側室としてリナ・ポートフェンを迎えるって」

 エイリーンは「それも良いですわね」と上機嫌だが。

 これに関しては兄も反論した。

「側室なんて冗談じゃない。どうしてそんな話になっているのです」

 ジークフリートは、優しい顔でリナを見る。

「そういう約束だよね。リナ嬢」

 凶悪だなぁ。余程さっきの決定が気に入らないらしい。


「この前のジークフリート様の謝罪で出てきた話なんです。あくまでも、どうしようも無くなったらなのですけど。王太子殿下の側室になったら、各派閥も手を出せないし、2~3年もしたらお役御免で帰れるから、落ち着いた頃に戻れば良いって」

「それはジークが通わなかったら、だろう?側室になったら、ジークの気が変わっても、拒否権ないんだぞ」

 セドリックが私の後ろから、『お前騙されてるぞ』って言ってくる。


「ジークフリート様が、私を騙すわけ無いじゃないですか」

 私は自信満々に言った。

 だって、私はもう決めたのだ。

 今いるこのメンバーを信頼するって、例え裏切られても、それでも。


 ジークフリートは、少し戸惑ったような顔をしたけど、すぐに条件を付け加えた。

「私は、それとは別にもう一つリナ嬢に約束していてね。例えリナ嬢が私の敵になってしまっても、私はリナ嬢の味方でいるって……。これで、信用してくれないかな」

 セドリックも兄も、信じられないって顔をしている。

 それはそうだ。

 仮にもジークフリートは、王太子殿下。

 それが、各派閥が取り込みたがっているポートフェンの人間だとしても、私は子爵家の令嬢。

 悪く言えば、自分の陣営にとって不都合だと判断されたら、殺してしまえば良いくらいの存在。

 だから、守ろうっていう話し合いをしてくれていたのに。


「アルフレッド・ポートフェン」

「はい」

 兄はいきなりジークフリートに呼ばれてかしこまって返事をしている。


「もし、リナ嬢が私のせいで殺されかけたら、私の方を殺してしまって構わないという意味だよ。アルフレッド」

 リナ嬢には内緒だよって、ジークフリートは言った。

 いや、聞こえているからね。すぐ横で話しているし。

 そんな覚悟しなくて良いからね。

 でも、セドリックはさっきの発言の意味知っているんだろうな。


 そしてジークフリートから、改めて

「信じてくれてありがとう」

 と、お礼を言われた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る