第38話 ジークフリート王太子殿下のお詫び

 エイリーンが言った通り、翌日の放課後、ジークフリートのお部屋に呼び出された。男子寮なのだけど、王族の部屋は特例が使えるらしい。


「申し訳なかった」

 部屋に入ってすぐに、ジークフリートから勢いよく謝られた。

「謝って済むことじゃないのは重々承知している。だから」

 だ……だから?

「好きなだけののしれ」

「は?」

 最近、ずっと頭の中真っ白、空っぽだったけど……別の意味で、思考が止まった。


「他の3人はもう、いっそ清々しいほど、くそのみその言ってくれたぞ」

 って、なんで笑顔で開き直ってるの。性格変わってない?

 だけど、ジークフリートにまで優しくされたら……。

「あの場で、ジークフリート様に言われたことは、肝に銘じてるところです。他の皆さんは優しくしてくれるばかりで、文句一つ言ってくれません」


「リナ嬢。君は自分が15才の女の子だって事、忘れてない?」

 あきれたようにジークフリートから言われた。

「今回私が皆からののしられたのは、君に剣を向けた……この1点だけなんだけど」

 そう……なんだ。って、なんで?

「皆、君に頼りすぎだ。優秀だろうが何だろうが、君は15才の女の子なんだ。どんな理由があっても、あんな事件の……自分の命を優先できない場所に、放り込んで良いはず無いだろう」

 ああ……この人は最初から私を子ども扱いしてたしな。


「皆が優しいのはそういった理由からだし。本来、君には何の責任も無いことだからだろう。君をこんなにボロボロにして……。君は、私や皆に対して怒って良いんだよ。国王に対しても……だ」

 ジークフリートは、何か知ってるのだろうか。

「今後は、もっと状況はひどくなる。このままだと容赦なく君も巻き込まれると思う。もし、君が逃げないと言うのなら、守られることも覚えた方が良い」

「結果的に守られてました」


「結果的に……だろ? リナ嬢はエイリーンを守りながら屋敷を脱出したんだよね。エイリーンは守りにくかった?」

 いや……エイリーンはこっちの意図をくんで動いてくれたから守りやすかった。

「いえ。守りやすかったです」

「だろう? 守り手の邪魔にならず、相手の意図をくんで動く事は…一緒に闘ってるのと同じなんだよ」

 目が覚めた気がした。


「まぁ、逃げても良いけどな」

 反射的にジークフリートを見てしまった。

「どうせ、その内わんさか縁談が来る。いろんな思惑から逃げられなくなる前に、私のところに来るか?」

「え?」

「私の側室になるって言う手もあるって言ってる。どうせ卒業と同時にエイリーンと婚姻を結ぶ。そしたら側室ももてるようになる……って、どん引きしてるの顔に出てるぞ」

「いや……だって」

 私、退出して良いかな?


「エイリーンとも話したんだ。側室になれば最初こそ危険だろうけど、王太子の通いが無い側室は取るに足らない者という認識になる。子を成さない側室は2~3年も経てば、お役御免で実家に戻されるか、臣下に下賜されるようになるんだよ。まぁ、そばにいれば私もエイリーンも守れるし、安心だからな」


 あ……なるほど、これジークフリートルートだったんだ。

 現実だったらこういう落ちになるのか。

「ありがとうございます。でも、私もう少し頑張ってみようと思います」

「そうだな。ただ、逃げたくなったら来てくれて良いし。そうでなくても、リナ嬢の味方になるよ」


「私は、ジークフリート様の味方で居られないときもあると思いますが」

「それでも、私は君の味方でいるよ」

 優しい目、兄が私を見るときの目に似てる気がする。

「これが詫び代わりでいいかな」

「充分です」

 ジークフリートにつられて私も笑った。

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