神使の怒り 8-2




どうやらライトの父親である高信が到着したらしい。


「ライト君、とにかくナイフを下ろしなさい」


再び愛音が声を掛けると、ライトは一匹のウサギに狙いを定めた。


「知ったような口利くなよ。どうせあんたたちに俺の気持ちは理解できない。説明する気にもならないね」


間髪入れず狙ったウサギに飛びかかったが、ウサギは逃げ足も速く、うまく逃げ延びた。


しかし、次の手が伸びてくると、小屋の中ではウサギたちの身体が壁にぶつかる音が響く。


ライトがウサギを捕まえるのに夢中になっているその隙に、五十嵐が小屋のドアへと近づいた。


もちろん銃なんて持っていない。武器になるものも防具になるものも無い。


持っているのは懐中電灯一本だ。


ウサギと格闘している様子を金網の隙間から確認し、ゆっくりドアを開けた。


しかし、何となくライトの行動に違和感を抱き、五十嵐はドアから入った直後、金網がある方の壁を蹴飛ばした。


振動で不安定になったスマートフォンが桟から落ちると、地面に広がるわらとウサギのフンの中に落ちた。


「あ!」


ライトは動揺して慌ててスマホを探し始めた。懐中電灯をもっていなかったライトにとって、この暗闇の中では手放したくないものだ。


ライトが四つん這いになり、目を凝らして素手で直接藁の中を探し始めると、それを合図に五十嵐がライトに飛びかかり、愛音も小屋へと入って行った。


「やめろ!離せ!俺のスマホだ!返せよ!」


怒り狂うライトの身体を愛音が羽交い絞めにすると、五十嵐が床に落ちたライトのナイフとスマホを回収し、電源を落とした。


それとほぼ同時に、「ライト!」と、名前を呼ぶ幼い男性の声が聞こえ、校舎裏と隣接する駐輪場で自転車が倒れる音がした。


やって来たのは海治だった。


どうやら動画を見ていたらしく、血相を変え、塀のない裏門から入ってきて駐輪場に自転車を乗り捨て、芝生の上を走ってきたらしい。


それと同時に高信も到着した。


「ライト、もうやめなさい。これ以上動物を傷つけちゃだめだ」


ライトには高信の声が聞こえないのか、まだ暴れている。身体を抑え込んでいる愛音の方が歯を食いしばっていた。


その様子を見て海治が金網に思いっきり手を掛けた。


「てめぇふざけんなよ!お前が最初に犯人探すって言いだしたんだろうが!動物殺すなんて許せないって言ったのはお前だろ!?」


海治の声はちゃんと聞こえたようだった。


ライトは顔を上げ、抵抗を止めた。


「やあ…海治。来たのか?夜遅くにご苦労だったな」


そのバカにしたような口ぶりに海治はぶち切れた。


「ライト!てめぇ、そっから出て来いよ!ホント、マジでお前ふざけんな!」


金網を揺さぶると、その様子を見たライトは笑った。


「お前だって兄貴に振り回されてもう嫌になってんだろ?派手で流行に敏感で人気者の兄貴。その兄貴のせいでいつもお前は影のように扱われてんじゃん。腹立ってんじゃないの?」


「兄貴が人気者なのは兄貴が努力してるからだよ。あれでも雑誌買いあさって流行り物を勉強したり、アルバイト掛け持ってデート代だって自分で稼いでるよ。就職しろって思うけど、兄貴は兄貴なりに頑張ってる。お前と違って逃げてねーよ」


「はあ!?俺が何から逃げてんだよ?俺は現実を見てるだけだろ?どうせ終わる世の中ならさっさと終わらせようと思ってるだけだろーが」


「とか言って、お袋さんの事引きずってるだけじゃないの?親父さんに訊く勇気も無くて、自己完結して、勝手にイライラして動物に当たってるんだろうが!」


その言葉は多少なりともライトにダメージを与えたのではないだろうか。


挑発的な笑みを浮かべていたはずのライトから表情が消え、小さく舌打ちしたのが聞こえた。


「…母さんは関係ないだろ」


小さく唸るような低い声が聞こえた。


しかし、海治も怒り心頭で言葉を止められなかった。


「お前、お袋さんに捨てられたんだろ?みんな知ってるよ。だからお袋さんの事聞かれても絶対答えないんだよな?捨てられたなんて言えないもんな!」


「黙れよ!お前が俺の何を知ってるって言うんだよ!俺だって知らない事をなんでお前が知ってるって言うんだ!?偉そうなこと言ってんなよ!」


急にライトが感情を爆発させ、金網に顔を押し付けて、埃まみれになりながら怒鳴り声を上げた。


周辺の住宅でも異変に気付き始めたのか、深夜の家々に明かりが点き始めた。


「じゃあ、親父さんから聞いてみようぜ!お前も知らないんじゃ俺が言ってることが事実かどうか分かんないからな。…視聴者が納得しないだろ」


海治は自分のスマートフォンを取り出し、操作を始めた。









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