神使の怒り 7-1




24時間営業のディスカウントショップが入店しているビルでは、深夜1時になっても眩しいほど看板を照らしていた。


自動ドアを抜けビル内に入ったライトは、店の裏口にある木製の椅子に座ってスマートフォンを手にした。


時刻を確認した後、大きなため息を吐いた。


苛立ちのせいか、かかとを踏み鳴らす。


「たかが動物だろ。クソ…なんで家にまで入って来るんだよ……」


爪を噛み、またスマホに視線を落とす。


スマホの画面を見ていたら、誰かが耳元で囁いた気がした。


ライトはその瞬間、顔を上げてハッとした表情を見せた。


「そうだよな…こんな経験誰にでもできるもんじゃない。みんなに面白いもの見せてやろう」


ライトはスマホを操作すると、しばらくして自分を映すようにスマホを持ち、話し始めた。


「どうも、ライトです。今日は急遽ライブ放送してます。ちょっとね…まずい事になっちゃったんだよね。俺、逮捕されそうだから、逮捕されるその瞬間まで動画撮影を続けます。逮捕の瞬間とか見た事ないでしょ?もしかしたら俺を探してる警察の人とかも見てるかな?まあね、どうせ警察に勝てるはずないんですよ。人数も多いし、囲まれれば終わりだからね。でも、どうせ負ける追いかけっこでも、俺は自分から投降する気は無いのでちゃんと探してね、刑事さん」


ライブ開始の通知を受けた人たちがちらほらと視聴を始めたようだ。


ほとんどが身内やクラスメイトたちだが、これで明日になればライトも全国規模の有名人だ。まさかこんなつまらない動画を海外の人々が見ているとは露ほども思わない。


チャットの書き込みがあった。


「何やったの?」


一文を読んだ後、考えるような仕草をする。


「うーん…教えてあげてもいいけど、どうせ明日になったら分かるだろうし、教えてあげない。でも、俺は確実に警察に捕まるんだと思う」


また『万引き?』という文字が見えた。


「いや、万引きじゃないし。そんなくだらない事しないよ。もっと凶悪な事」


次は『覚せい剤?っていうか、出頭しろよ』という一文。


「覚せい剤じゃないし。出頭もしないよ。だって、見たいでしょ?警察との追いかけっこ」


『売名行為』、『くだらない』、『夜中に何やってんの?』と、立て続けに批判するようなメッセージが届く。


「何とでも言いなよ。お前らみたいに人の日常の覗き見てる変態に言われたくないね」


『日常?どこが?そんな風に思ってるのはあんただけ』


「そうかな?海治だってガンだって同じだよ。このチャンネルだって暇つぶしで始めたんだ。何年か続けてるうちに登録者も増えるんじゃないかと思って、そしたら動画上げるだけで食っていけるだろ」


『頭悪すぎ。こんな動画誰も見ない。みんな面白くするための努力をしてる』


『毎日動画作りの勉強してる人に失礼』


どんどんライトの言葉に苛立ちを覚えた視聴者が書き込みを始めた。


この調子だと誰が警察に通報してもおかしくない。


ライトは椅子から立ち上がると、動画を撮りながらビルを出た。


「あんたたちつまんないね。いい子のフリしてたってどうせ俺の行く末が見たいんだろ?警察と追いかけっこして捕まる姿。俺をろくでなしと言いながら、あんたたちもそんな俺を見て楽しんでる。あんたらも充分ろくでなしだろ」


『通報した』


「あ、誰か通報しちゃったねぇ。まあいいけど。想定内だしね」


『つーか、お前マジで何やったんだよ?人殺しか?』


「そこまでではないけど…まあ、何かを殺したよね」


暗い夜道を歩きながら、ライトはチャットの文章を読めるだけ読み、それに対して答えていく。


『今話題の動物殺し?』


その一文に目が留まった。


「え?話題なの?俺知らなかったわ。この動画内だけで追ってると思ってた。でもまあ…話題なら言ってもいいか。そうそう、俺が犯人」


『言わないんじゃねーのかよ』


『言っちゃったよ(笑)』


『自作自演?』


『最低』


『〇ね!』


読み取れない程のメッセージが届くと、ライトは寝静まった住宅街の道路で大声を上げて笑い出した。







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