神使の怒り 6-3





一度、彩香を乗せて五十嵐の自宅に向かうと、五十嵐は着替えだけしてすぐに駐車場に停めた車に戻ってきた。車内で待っていた彩香が、その速さに驚いたほどだ。


それなのに、五十嵐はいつもと変わらずクールにスーツを着こなし、運転席に乗り込む。


もう、こんな日常にも慣れているのだろう。


その後、先に連絡しておいた相棒の愛音とライトの自宅前で合流した。


立派な西洋作りのライトの自宅。

リビングの明かりと、浴室の明かりは点いている。


門の前に立った愛音は、インターフォンを押した。


まるでどこかの教会のベルのような重く響く音が聞こえた後、しばらくしてから玄関のドアが開いた。


出てきたのはライトだった。


彩香はその顔を見る勇気が無くて、思わず門の陰に隠れた。


五十嵐はライトの顔を見て、「お父さんはいる?」と、訊いた。


「ああ…今、お風呂に入ってますけど。父に何か?それとも事件に進展が?」


初めからライトと話すつもりはなかった。


今日の目的は地下室を見せてもらうこと。


そのためには家の所有者であるライトの父親の承諾が必要なのだ。


「家の中で待たせてもらってもいいかな?」


五十嵐が訊くと、ライトは何の戸惑いも無く三人を招き入れた。


家のリビングに上がると、ライトは冷たいコーヒーを淹れて持ってきてくれた。


どうやら缶コーヒーをただコップに注いだだけのようだが、最近の子どもはこういう気遣いもできるんだな…と、ちょっとだけ感心する。とはいえ、もう高校生なのだからできて当然なのかもしれないが。


しかし、彩香は時計を見てコップに手を伸ばすのを遠慮した。


コーヒーにはカフェインが入っている。

睡眠を妨げる可能性があるから、夜にはあまり飲まない方がいいのだ。


すると、ライトがいつまでも風呂から上がってこない父を心配して、リビングを出ようときびすを返した。


「ちょっと父さんに早く上がるように言ってきますね」


「すまないね」


五十嵐が答えた後、ライトはバタバタと音を立てて浴室へと走って行った。


ライトがリビングからいなくなると、愛音がコーヒーカップに手を伸ばそうとするから、五十嵐が首を振ってそれを止めた。


本来なら失礼な行為かもしれないが、相手が簡単に動物を殺害するような人間かもしれないと思うと、こちらも注意が必要だ。


動物の次に人を殺すことも考えうる。

特に五十嵐と愛音と彩香は何度も自宅に来てはライトを疑うような発言や態度を示している。


恨まれても、危機感を抱かせたとしても無理はない。


数分後、ライトの父親だけがリビングにパジャマ姿で現れた。


「いや、遅くなってすみません。まさか刑事さんたちが来るとは思ってなかったもので」


「いえ、とんでもありません。こちらこそ夜分遅くににすみません。実は…ちょっとお願いがありまして」


ライトの父親は五十嵐を見て首を傾げた。


夜分遅くに…と、自分で言ったくせに、お願いがあってきた…とは何事か。


しかし、感情を表情に出す事はしない。


「お願い?」


「ええ、地下室を見せていただきたいんですよ」


父を追いかけて後からやってきたライトは、その言葉を聞いて、少しだけ目を大きくしたように見えた。


五十嵐は更にライトの動揺を誘うように言葉を続ける。


「先日、彼女の家の前に火をつけられた猫が迷い込みまして。周辺でそういったことも起こってますし、一応確認のためにおうちを見せていただきたいんです」


言葉足らずだが、ライトの動揺を誘うには充分だったようだ。


それに父親も何の捜査で来たのか理解した様子を見せている。


「しかし、なんで地下室だけ?」


「前回訪ねた際に家の中はほとんど見せていただきましたから。地下室だけはライト君が鍵を持って出かけていらっしゃったので拝見できませんでしたし…だから今日、お願いに来ました」


「ああ…そう言えばそうでしたね」


ライトの父親はチラッとライトに視線を向けた後、「分かりました。ご案内しますよ」と、ライトの肩に手を乗せて頷いた。


ライトはもの言いたげだが、この場で発言することに戸惑いがあるようだ。


ただ口をつぐみ、黙って父親の後をついて行った。







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