神使の怒り 5-1




その日の夜、彩香は自宅のリビングで例の3人組の動画サイトを見ていた。


隣りのソファでは神藤が読書中で、テレビも点いていない室内は静かなものだ。


しかし、彩香が動画を再生させると、室内に少年たちの声が響き渡る。


『家の前にこの状態で猫が殺害されていたわけですけども、犯人の姿はどこにも見えず、捕まえることもできませんでした』


ライトの家の前。

猫の死体が発見された辺りに立ったライトが、動画の中で深々と頭を下げた。


すると、今度はガンの声が聞こえた。


『その猫はどうしたの?埋めた?』


『一回埋めたんだけど、警察が来て連れて行ったんだよ。本格的に捜査してくれるみたいで』


ガンは動画を撮っているからか、姿は見えなかった。


それに、海治の姿もその場には無く、声すら聞こえない。


おそらく今回の動画はライトとガンの二人で撮っているのだろう。


『警察が動けばさすがに捕まるだろ。犯人も怖がって動きにくくなるだろうし』


『そうだな。警察がどこまでやってくれるか、期待して待ちましょう。また新たな事件が起きたらお知らせします』


それじゃあ、また…と、エンディングが流れると、彩香は携帯の画面を消した。


「また近いうちに事件が起きそう……」


彩香がつぶやくと、神藤が本から視線を上げて彩香を見た。


「どうしてそう思う?」


そう訊かれたら、彩香は素直に話し始める。


「こないだ見た動画…覚えてる?木の下に置き去りにされた犬」


「覚えてるよ。ひどい怪我だったが、こっちの猫の方が怪我はひどい」


「そうじゃなくて。あの犬は日常的に暴力を振るわれていた。だから頭が陥没してうじ虫が湧くほどひどい状態で発見されたの。つまり…他にも虐待を受けている動物は山ほどいて、今もひどい傷を負いながら救い出されるのを待っているかもしれない。それに…もしライト君が犯人だった場合、最後の言葉は犯行予告ともとれる」


神藤は本に夢中だったのか、動画の内容はあまりちゃんと聞いてなかったようだ。しかし、彩香の説明を聞いて、何となく事態の深刻さを察した。


「だとすると一刻を争う事態だな……。しかし、証拠がないんじゃ逮捕はできないだろ」


ここまで話しても証拠探しを手伝ってくれる様子のない神藤が再び本に視線を落とすと、彩香の携帯がテーブルの上で鳴り出した。


動画を見ていたせいで音に慣れていたからか、あまり驚くことなく彩香は電話に出た。


「もしもし、五十嵐くん?」


彩香が声を掛けると、五十嵐が電話の向こうから突然本題を振って来る。


『これから海治君の家に行くつもりなんだけどお前も行くか?』


一瞬、「え……」と、固まった彩香だったが、さっきまで神藤と話していた事を思い出すと、行かないとは言えなかった。


「私も行く」


彩香はそう伝えて電話を切った。


彩香が海治の家に来るのはおそらく15年ぶりくらいかもしれない。


この家には彩香がこの世で最も苦手とする人間がいる。


愛音の運転する車でやってきた3人が玄関の前に並ぶと、五十嵐がインターフォンを押した。


彩香は五十嵐の背後に隠れ、できるだけ気付かれないように息を潜ませているが、当然バレないはずがなかった。


「はーい」と、足音を立てながら廊下を走ってきたのは海治だった。


ドアを開けて間もなく、五十嵐と愛音の顔を見て動きを止める。しかし、そのすぐ後、彩香の姿を見つけて「あ」と、小さく声を上げた。


「刑事さんたちと彩香さん?え…と…今、兄貴居ますけど大丈夫ですか?」


海治なりに気を遣ってくれているようだ。そう訊いてきた海治に対し、彩香は苦笑いを浮かべて頷いた。


「今日は…お兄さんにお話を聞きに来たの」


「そういう事なら…どうぞ。今、両親が夕飯食べてるんですけど、気にしないでください」


意外…と、でも言いたげな表情で海治はドアを大きく押し開け、3人を招き入れた


靴を脱ぎながら五十嵐が彩香を見て首を傾げている。


彩香もそれに気づいているが、15年避けてきた結果がこれからどう出るのか、想像もできなかった。


何も言えないままリビングに入ると、五十嵐にはすぐに彩香が怯えているものが何なのか分かった。











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