神使の怒り 4-2




それから数日たった頃、五十嵐と愛音が神藤邸にやってきた。


リビングに招かれた二人はソファに腰掛けホッと息を吐く。


事件から数日が過ぎ、未だ犯人は捕まっておらず、目撃情報すらない。


そんな中で最も重要だったのはライトが撮ったとされる猫を発見した時の映像だった。


彩香は二人に温かいコーヒーを淹れながらその事を訊いてみた。


「ライト君から動画はもらえた?」


五十嵐はポケットからUSBを取り出し、また大きなため息を吐く。


どうやらつい今しがた手に入れたらしい。


事件から数日も経っているのに、ライトはなぜすぐに動画を差し出さなかったのか…と、彩香は不思議に思いながら、キッチンでお皿にケーキを乗せた。


夕べ遅くに神藤が患者さんからお裾分けをもらって帰ってきたものだ。


それらを持ってリビングに向かうと五十嵐が催促するような目つきで彩香を見る。


「まだ中身を確認してないんだよ。…ったく、反省する様子もなく、“どうして動物殺しの事件なんて捜査するんですか?”なんて言ってきやがった。危うく怒鳴るところだったよ」


彩香は五十嵐が何を催促しているのかすぐに気付いて、自室までノートパソコンを取りに行った。


リビングに戻ると、気を抜いた様子の愛音がさっそくケーキを頬張っていた。


愛音は彩香が戻ってきた事で慌てたようにケーキを口の中に押し込み、急いで飲み込む。そして、何事も無かったように、さっきまでの会話を掘り起こし、ライトと会った時の事を話し始めた。


「でも、あの時の先輩、相当我慢してましたよね。なんか…言葉選んでんのバレバレでしたよ」


突然何を言い出すんだ?…と思った様子の五十嵐だったが、再びライトの顔を思い出すと怒りが沸きだしたようだ。


「当たり前だろ。相手は未成年だぞ。頭ごなしに怒るわけにいかないだろ。まだ良い事と悪い事の区別もろくにつかないんだから」


とはいえ、大抵の若者は善悪を理解しているし、常識ある行動を心がけているに違いない。


ただしそれは保護者の監視下で行われているため、社会人としての常識を理解している者は少ないと考えられる。だとすれば、警察の事情聴取や情報提供など、社会人でも経験の少ない出来事に対してどういった対応を取るべきか、知るはずも無いのが現実だ。


五十嵐は彩香が持ってきたノートパソコンを起動させると、USBに記録された情報を開いて、二つだけ保存されていた動画の一つを開いた。


その間にコーヒーを淹れた彩香もリビングにやってくると、テーブルにコーヒーを並べて、床に正座して座った。


ひとつ目の動画を再生させると、そこには部屋を出るシーンから猫を見つけるシーンまでしっかりと映っていた。


しかし、ライトが父親に病院に行くから車を出して…そう指示し、父親が車の鍵を取りに行った直後に動画が切れた。


彩香が怪訝な顔で五十嵐を見ると、五十嵐はもう一つの動画を開いた。


「動揺で停止ボタンを押したって言ってたから、ここだったんだろうな」


二つ目の動画が再生されるが、彩香はただ首を傾げて、以前動画サイトで見たものと全く同じ動画を見ながら右頬を膨らませる。


「…動揺なんてしてないと思うけどな。むしろ堂々としてる…全然映像もブレてないし、お父さんに的確に指示を出してるし……」


それを聞いた五十嵐は頭を抱えて大きな欠伸をした。捜査続きでろくに寝ていないのかもしれない。


「…お前と話してるとコイツが疑わしく思えてくるよ」


その意見には愛音も賛成らしい。


「行動も言動も疑わしいですしね」と、動画の停止ボタンを押した。


「動画の撮影中、この猫は生きてたんだよね?」


彩香が訊くと、愛音が答える。


「少なくとも動画の撮影が切れてから父親が鍵を持って現れるまでの間に死んだって感じですかね。いつ死んだかまでははっきり分かりませんけど」


彩香はしばらく考えた後、五十嵐を見て「死因を確認してください」と、言った。


「でも…刺殺に間違いないんじゃ?」


愛音が言った言葉に対して、五十嵐は愛音の脇腹を突っついた。


余計なことを言うな…と、いう意味だ。


「分かったよ」


五十嵐はただそう答え、ケーキとコーヒーをご馳走になった後、USBを持って署へと戻った。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー